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ドラえもんは22世紀に帰るべき? 4 否定側第二反駁~肯定側第二反駁

 そして、否定側第二反駁の時間がやって来た。

 "タカシ"が眉間に皺を寄せながら壇上に立つ。

 眼鏡の位置を整え、低い声で男は反駁を開始した。



「ドラえもんがひみつ道具を所持しているだけでも、社会への貢献は可能です。

 なぜなら、これらは地球に迫った危機への対抗策となるからです。

 特に映画などの大長編では、のび太たちが地球の危機を救った場面がいくつもある。

 ドラえもんが居なければ、これらの危機へは対抗できなかった。

 つまりこれは、ドラえもんの有用性を証明すると同時に、肯定側の言う危険性の否定にも繋がるはずだ。

 ドラえもんの道具は強い力を持っている。だから危険だと肯定側は言ったが、否定側は、だからこそ必要だと述べたい。

 ひみつ道具が悪用される危険性よりも、地球の危機への対抗策を失う方が、より危険であると言えるからだ。


 次に友人との絆。確かにしばらくは維持されるかもしれないが、思い出は薄れるものです。

 ドラえもんが居なくなれば彼らの交流の機会は減り、いずれ関係が絶たれることは十分に考えられます。

 俺たちの立論が消えると言うことはありません。


 次にひみつ道具の管理について。

 地球破壊爆弾の例について言うならば、確かにドラえもんはパニックを起こしたものの、のび太が止めたことで踏みとどまっています。

 つまり、ストップをかけることは可能だ。現代でも、ドラえもんの危険性を抑えることは可能ということです。


 ええと、次は何だ……そう、タイムマシン。

 地球破壊爆弾により一瞬で地球が滅亡すればやり直す暇もないと言ったが、逆に言えばそれ以外は防げると言うことのはずだ。

 だとすれば、タイムマシンによってほとんどの危機を回避できることは間違いなく、俺たちの論は消えないことになる。


 ドラえもんは確かに、ほんのわずかな危険性はあるかもしれない。

 だがそれは大きな力、つまり利便性を持つことの裏返しでもある。

 それを未来に帰してしまうことは、のび太にとっても、世界にとっても――」



 そこで、反駁の終了を告げるタイマーが鳴った。

 男は「損失だと言えます」と最後に早口で言って、反駁を終えた。


「ま、他の奴よりはまともだったな」

「ひっでえ上から目線」

 男が席に戻るなり尊大なことを言う天王寺に、俺は苦言を呈した。

 鳳南とは言え、一応相手の部長っぽいし、多分年上だぞ。

「質疑の人があれでしたからね……」

 真勇が横目で茶髪の男子を見ながら言った。

 あれを基準に考えるのは、さすがに酷いと思うんだが。

 立論や第一反駁も、上手くはなかったけど質疑よりはマシだったしな。


 とは言え今の反駁が相手の中で一番質が高かったのは間違いないだろう。

 こちらの論に対して一通り反駁を行えているし、こちらの主張を逆に利用して自分の主張へと転換している。

 もっとも、そうは言っても第一反駁までの相手の主張に穴が多かったこともあり、これまでの流れを覆すほどには思えない。

 そして何より、こちらには第二反駁の部長が控えているのだ。

「部長、どうですか」

「まったく問題ない。相手の反駁には、一つ致命的なミスがある」

 問いかけた俺に、部長は自信に満ちた笑みで答えた。

 致命的なミス。俺にはそれが、ピンと来なかった。全体的に苦しい反駁だとは思ったが……。

 部長の言葉に安心と期待を持ちながら、俺は壇上へと向かう部長を見送った。

 最後の反駁の、始まりだ。



「否定側は一つ、致命的な間違いをしています。

 ドラえもんが居なければ地球の危機に対応できないと言いましたが、そもそもドラえもんが来た22世紀、世界は平和に存続しているのです。

 つまりドラえもんが来なかった本来の歴史において、地球の平和は脅かされなかったと証明されています。

 よって、この反駁は成立しません。


 続いて、友人との絆に関して。

 これまでに経験した、のび太と友人たちの冒険は通常の人生では絶対に経験できない物事です。

 そんな思い出が簡単に薄れることは有り得ませんし、彼らの絆が絶たれることも無いと断言できるでしょう。


 ひみつ道具の管理について。

 のび太君が止めたことで踏みとどまったから大丈夫だと述べましたが、つまり誰かが止めなければ危険だったということ。

 しかし、のび太君の家で普通に生活をしているドラえもんを、四六時中誰かに見張らせておくのは不可能です。

 ゆえに誰かが止めればいいという対策は全く実現性がありません。


 そしてタイムマシンの存在についてですが、否定側は地球破壊爆弾の例を除けば対応できると主張しました。

 ですが、対応できない例が一つでも存在している時点で危険性の主張は十分に成立しています。

 さらに言えばタイムマシンが故障したり、すぐにタイムマシンが使えない状況で危機に陥った場合にも対応は不可能です。

 よって、タイムマシンがあるから安心だと結論付けることは不可能です。


 繰り返し主張しますが、ドラえもんの目的はのび太君の未来を改変するという、非常に小さな目的です。

 しかし、そのドラえもんが原因で、世界中が危機に晒されているのです。

 たった一人の少年の未来と、世界全体の安全。どちらを優先するかは考えるまでもありません。

 ドラえもんは22世紀に帰すべきである。このプランを否定する理由は、何一つ存在しないと言えるでしょう」



 相手の主張への反論を行い、自分たちの主張のまとめを行う。お手本のような第二反駁だった。

 そして「致命的なミス」の意味していたことに、なるほどと俺は頷く。

 同時に、こんな大きなミスに気付かなかった自分の未熟さを、改めて噛み締めた。

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