激突! 猫VS犬4 猫側第一反駁~犬側第一反駁
猫側の第一反駁の時間となり、真勇が壇上に立つ。
前回よりも試合の空気に慣れたのか、それとも自分たちの側が有利だからなのか、少し落ち着いて見える。右のポケットに手も突っ込んでいない。
彼女は、はっきりとした声で「始めます」と言って、反駁を開始した。
「犬側は知能と忠誠心を根拠にペットとしての優位性を主張しましたが、これには問題があります。
まず犬側は、犬は飼い主と一緒に遊べるのに対し、猫とは遊べないかのような主張をしていましたが、これは間違っています。
皆さんもご存知の猫じゃらしやマタタビはもちろん、猫と一緒に遊ぶためのオモチャも現在は多数販売されており、猫とだって一緒に遊ぶことはできるからです。
それに、犬は芸を覚えるのが優位点だと言っていましたが、これは長い時間をかけてしっかりと教え込むことで身に付くものです。
どんな犬でも簡単にできることではありませんし、実際に飼い主の命令をしっかり聞いて芸のできる犬は、それほど多くないはずです。
対する猫は、私たちが立論で述べたように、ただ見ているだけ、触れ合えるだけでも可愛く、癒されるものです。
芸を教え込んで初めて優位点を得る犬と、何もしなくても、ただ居るだけで価値のある猫。当然、猫の方が優れていると言えます。
それから忠誠心を長所として挙げながら、家族としての絆をアピールするのはおかしいです。
考えてもみてください。自分の子供に対して『忠誠心』を要求する親がいますか?
飼い主の言うことに何でも従うから良いという考えは飼い主の側から見た一方的な押し付けの関係です。
家族の絆とは、そんな一方的な上下関係のあるものではなく対等で忌憚のないもののはずです。
犬側は猫が気まぐれであることをデメリットのように語っていましたが、対等な関係を築けるという点ではむしろメリットにすらなります。
飼い主を愛すか遊びに付き合うか、それはペットの自由のはずです。
その自由な関係の中で築くものこそ本当の家族の絆と言えるものです。
長い時間をかけて芸を教え込み、ようやく得られるのは一方的な上下関係のある歪な関係の犬。
誰でも飼いやすく、芸なんて教えなくても可愛くて対等な関係として付き合っていける猫。
ペットとしても家族としても猫の方が理想的な存在だと言えます」
いくらか早口になりながらも、小声になることなく真勇は反駁を終える。
満足そうな表情をして席へと戻る彼女を、笑顔で部長が迎えた。
俺は相手の主張を読み返し、考える。
とにかく俺たちに必要なことは、相手の立論を否定することより、自分たちの立論の正当性を説くことだ。
「一方的な関係、ってとこには絶対言い返さないとマズいよな」
「当たり前だろ。そこ通したら、こっちの主張全部潰れるじゃねーか」
確認するように言った俺に、天王寺はフローシートを睨み付けるようにしながら答えた。
「だから、ムリヤリ命令して言うこと聞かせるんじゃなくて……信頼関係だな。ハチ公が飼い主待ってたのは命令されたからじゃなくて、飼い主のこと大事に思ってたからだろ」
「まあ、普通はそう考えるだろうな。ハチ公に聞いたわけじゃないから知らないが」
やや否定的な意味を含んだ俺の言葉に、天王寺がギラリと俺を睨む。
しまった、今の俺は犬派なんだ。
「……だからよ、猫には信頼関係が無ぇんだよ。対等つってるけど、単にお互い勝手にやってるだけだろ。犬はそうじゃねえってこと」
「芸を仕込んだり散歩するのも、負担じゃなくて信頼を築く過程ってとこか」
「そーいうこった。わかってきたじゃねーか」
彼女はそう言って、俺の背をドンと叩く。ちょうどその時、準備時間が終わった。
とにかく、ここが正念場だ。俺は気合を入れて壇上に立ち、反駁を始めた。
「猫側は、忠誠心という言葉を悪い方へと曲解しています。
これはつまり、犬は飼い主への愛情や協調性があるということであり、何を言っても黙って従うということではありません。
犬の忠誠心とはつまり、信頼関係です。互いを思いやり、尊重し合う関係を構築できる能力です。
猫側は、猫と飼い主を対等な関係と言いましたが、互いに自分勝手に過ごすだけの関係に、本当に絆があるでしょうか。
それこそ一方的に、都合よく互いを利用するだけの関係です。そんな関係で良いのなら、動画を見るか猫カフェに行くだけでも十分なはずで、家族どころかペットとして飼う必要もありません。
ペットを飼うと言うことは、ペットと一緒に過ごすということです。
猫側は、犬は負担が大きいからペットに適さないと主張していますが、ペットの世話をすることは本当にただ負担で、面倒な事でしょうか?
犬と一緒に散歩をする、汚れたら洗ってあげる。それはペットと一緒に過ごせる、楽しくてかけがえのない時間です。
芸を仕込むことだって、無理矢理言うことを聞かせて嫌な事を教え込むのではありません。
ペットと飼い主が一緒になって努力し、芸の習得という目標を達成する。そして、絆を深める。そんな、大切な経験です。
そうして一緒に経験を積んでいくからこそ、家族としての絆が生まれるのです。
一緒に過ごすことを『負担』というネガティブなものとして考えるのなら、そもそもペットを飼う必要がありません。
繰り返しますが、犬と過ごすことは一方的な関係ではありません。互いを尊重し合う、信頼関係を構築していくことです。
この、本当の絆の構築とは、犬にできて、猫にはできないことです。
ただ単に、可愛くて飼いやすいだけの動物なら、猫以外にだっていくらでも居ますし、手間をかけずに可愛い動物と遊びたいだけなら、ペットにする必要もありません。
ペットとして、そして家族として、本当の信頼関係を築ける犬こそがペットとして優れているのです」
良くも悪くも立論の内容を引き継いだ無難な内容だろう。
戦況をひっくり返すほどの説得力があったかは分からないが、少なくとも必要な事はしっかり言ったぞ。
そう自分に言い聞かせるようにしながら、俺は席に戻った。
「ま、十分だろ」
天王寺はそれだけ言うと、次の自分の番に備えてフローシートと原稿に目を戻した。
ジャッジの鹿野島先輩に目をやってみるが、特に変わった様子はない。部長も真勇も、同じ様子だ。
まあ、特に変わった事を言ったわけでもないし、目立ったリアクションが無いのは普通かもしれない。
だが今は、これといった手ごたえのある反応を得られないことが、どうにも不安に感じた。
「勝てそうか?」
「知るか。勝つんだよ」
ぶっきらぼうに言う彼女に、俺は頷いた。




