激突! 猫VS犬2 犬側立論~猫側質疑
30分の準備時間は、あっという間に過ぎた。
タイマーを止め、鹿野島先輩が告げる。
「はい、それじゃあ試合開始ー」
その言葉を待っていたように犬側の立論者、天王寺が壇上へ立った。
今回の試合も、立論と第二反駁を一人が、質疑と第一反駁をもう一人が担当する。
生粋の犬派の天王寺が「猫派のお前に立論は任せられない」と前者のパートを強く希望したため、今回は俺が質疑と第一反駁だ。
壇上に立つ天王寺の目に宿る光は、心なしか俺との勝負の時よりも強い。
彼女は軽く深呼吸をしてから、話し始めた。
「犬側は、知能と忠誠心の高さから、『犬は猫よりペットとして優れている』と主張します。
皆さんご存知の通り、犬は飼い主に対して強い忠誠心を持っています。これを示す例としては、日本で最も有名な犬、忠犬ハチ公が挙げられます。
ハチ公は死んだ飼い主の帰りを駅前で10年にわたって待ち続けたことで有名で、渋谷駅前に銅像が建てられるほど人々から愛されていました。
一方で猫はと言えば『三年飼っても三日で忘れる』と言われるほど忠誠心が薄い動物です。
飼い主を愛すペットと、愛さないペット。どちらを飼いたいかと言ったら、誰だって答えは決まってるはずです。
そして、犬は非常に多芸です。『お手』『おすわり』などの芸を覚えることや、ボールやフリスビーをキャッチして飼い主の元に戻って来ることもできます。
これは犬の知能の高さを示すと同時に、飼い主と犬で一緒に遊ぶ、楽しい時間を作ることができると言うことです。
対し、猫がこうした芸を行うことは多くありませんし、犬のようにキャッチボールをすることもありません。
絶対に無理ってわけではないかもしれませんが、犬ほど得意でない、一般的でないことは確かでしょう。
こうした知能と忠誠心の高さは、犬をただの愛玩動物ではなく、家族の一員として強い絆のある関係を築ける相手にしています。
猫を飼うということは、ただ気ままな猫に付き合わされるだけです。
しかし、犬は家族です! 共に散歩し、遊び……互いに信頼関係を築き、同じ時間を過ごす事ができます!
信頼関係ある家族になれる犬! 飼い主の命令を聞かず、顔すら忘れてしまう猫!
ペットとして優れているのは犬だと、誰でも分かるはずです!」
熱を込めた口調で、机をバンバンと叩きながら、天王寺は立論を読み上げた。
やっぱり、俺と勝負をした時より気合いが入っている。なんだか複雑な気分だ。
……まあ、『消費増税』なんてテーマと比べたら、こっちの方が喋ってて楽しそうではあるが。
ドヤ顔で席へ戻る天王寺を、俺は苦笑で迎え入れた。
「ま、ざっとこんなもんよ」
「さすが生粋の犬派」
「へへっ」
得意な様子で、彼女はニヤリと笑った。
一分の準備時間はすぐに終わり、質疑へと入る。
再び天王寺が、そして真勇が壇上へと上がった。やはり、質疑は彼女か。
俺は、前回の試合で真勇に質疑を受けた時のことを思い出し、少し不安になる。
天王寺の立論は、十分なものだったと思うが……真勇は結構、嫌な所を容赦なく抉りに来るからな。
警戒する俺の前で、質疑が始まった。
二人は軽く挨拶を交わす。真勇が質問を投げかけた。
「あの、そちらは犬の長所として、頭の良さと忠誠心を挙げて……だから、家族の一員になれる、って言いましたよね?」
「そうですね」
「じゃあ、頭が悪かったり、忠誠心の無い動物は、みんな家族とは言えないってことですか?」
「それは……まあ、信頼関係のある、ちゃんとした家族になるには、そういうのが必要だと思います」
「あの、犬でも、みんな頭がいい子だったり、忠誠心のある子ばっかりじゃないと思うんですけど、そういう子には全然価値が無い、って事でしょうか?」
「うッ……いや、その、全然価値が無いってわけじゃないと言うか……」
天王寺は言葉に詰まり、露骨に狼狽する。それもそうだろう。
これを全否定し、頭の悪い犬や忠誠心の無い犬にも価値はあると言ってしまったら、自らの立論を否定することになる。
だが、全面肯定してしまうのも、優秀な犬以外の価値を否定して、切り捨てることになるわけで……。
何とか、上手く言い訳をしなくてはいけない。
「……そういう頭が良かったり、忠誠心の高い犬が一般的で……まあその、いいか悪いかで言うなら、頭がいい方がいいし……忠誠心も、ある方がいいわけじゃないですか。で、あの……猫はそういうのが無いけど、犬は大体あるっつーか……」
「あ、もういいです。次の質問ですけど、そちらは猫を飼うことは気ままな猫に付き合わされるだけ、って言ったと思います」
「え、ああ、はい……はい」
「でも、猫じゃらしとか、他にも猫用のオモチャとか……飼い主と猫が一緒に遊ぶ方法も、たくさんあると思うんですけど、これはダメなんですか?」
「……えっと、それは、その……犬の方が多芸で、バリエーション豊富で……」
「そうじゃなくて。猫とは一緒に遊べないって言うのは違うんじゃないか、って聞いてるんですけど」
「あ、ああ、それは……」
その瞬間、質疑の終了を告げるアラームが鳴った。
引きつった顔をした天王寺が、席へと戻ってくる。
「……あいつ、怖ぇ」
「だろうな」
小声で弱音を吐いた彼女の背を、俺はポンと叩いた。
同じ恐怖を感じた者同士の共感が、そこに在った。
真勇、普段は遠慮がちでオドオドしたような雰囲気のくせに、質疑で答えに詰まった相手を追い込むときは妙に生き生きしているように見えるのは、気のせいだろうか。
満点とは言えずとも、十分な立論だと思ったのに、またしても質疑一つでボロボロにされてしまった。
その上、この後には部長の立論が待っているのだ。俺には公開処刑される予感しかしない。
だが、まだ試合は始まったばかりだ。いきなり諦めるわけにもいかないだろう。
俺は冷や汗をかきながらも、活路を見出すためにペンを握り、相手の立論に備えた。




