ゲーセン番長 下巻
その後、俺たちは別のゲームもプレイしたが……。
格闘ゲームでは30秒もたずにボコボコにされ、レースゲームではあわや周回遅れになるほどの差を付けられた。
誓って言っておくが、俺が下手なわけじゃないぞ。天王寺が異常に上手いのだ。
もちろん悔しさはあったが、スーパープレイを見ることができた驚きや、勝利に酔いしれ高笑いする天王寺の様子に、清々しさも感じていた。
思えば誰かとゲームで対戦するのも、小学校以来だしな。楽しかったのは、確かだ。
戦いを終え、店を出た頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「はー、スッキリしたぜ」
「そりゃ、あれだけ俺のことボコボコにすりゃスッキリしただろうよ」
「はは、ま、てめえも結構上手い方だったぜ。アタシにゃ及ばねえけどな」
「昔から、ゲーム得意だったのか?」
「そんな昔からじゃねえな。中二の頃から、しょっちゅう家出してゲーセン入り浸ってたからよ。ま、そっからだな」
「家族と、仲悪いのか?」
俺が問いかけると、天王寺は顎に手を当てて少し考え込むようにする。
「お前、社長令嬢って、どう思う?」
「は?」
「イメージだよ。何でもいい」
いきなり突拍子もないことを言われて戸惑う。
「金持ち、エリート……育ちの良い奴?」
「ま、そんなもんだろうな。アタシも、そう思ってた」
「何が言いたいんだよ」
「だから、社長令嬢なんだよ。アタシが」
続いて出てきた予想外の言葉に、俺は固まった。
社長令嬢?このスケバンが?
「……二代目総長、とかの間違いじゃないのか?」
「ブッ飛ばすぞてめぇ!」
――高速で振り下ろされる学生鞄!
俺は素早く身を引き、それを回避する。続き放たれる鞄の連続攻撃を躱す、躱す!
数度回避したところで、攻撃が止んだ。
「チッ、猿みてえにチョコマカ逃げやがって」
「それで、社長令嬢が何だよ?」
両手を上げて『降伏』を示しつつ、話の続きを求める。
「……そう言われて育てられたんだよ。作法とか、習い事とか、色々よ。社長令嬢らしくなれって」
そう言うと、彼女は大きくため息をついた。タバコでも持っていれば似合いそうだったが、それを言ったらまた殴られそうだ。
「中二の時、初めてクソ親父の会社見たんだよ。そしたら、何があったと思う?」
「さあ」
「ただの田舎の醤油工場だぜ。一応、有限会社。従業員は親戚が二人。それで何が社長令嬢だよ。バカにしてんのかっての」
「……それでグレて、こうなったって事か」
俺は少し、こいつに同情した。
「ま、今となっちゃ作法や習い事も結構役に立ってるし、ゲーセン通いも楽しかったから悪かねぇよ。クソ親父とも、今は普通に話してるしな。家業は絶対継がねーけど」
自嘲的に話しつつも、彼女の表情はどこか、楽しげだ。
俺はそんな彼女を見て、強いな、と思った。
「けど、ゲーセン入り浸ってたからってここまで極める奴、中々いないぞ」
「なんか他人の記録ツブすのが、楽しくなってきてよ。ゲーセン以外にもカラオケとかバッティングとか、色々やってるぜ」
「すげえな」
相変わらず言い回しがヤンキー臭いのが気になるが、その能力の高さには素直に感心した。
それと同時に、一つの疑問が湧き上がる。
「じゃあお前、なんでディベートなんかやってるんだよ」
「負けたからだよ。部長に。ボコボコにさ」
「一年の時か?」
「ああ。入学式の日に勧誘されて、こんなクソマイナーな競技なら楽勝でトップ取れると思って勝負したら、ボロ負けだった」
「その時もいきなり勝負かよ。狂犬かお前は」
「暴れ猿に言われたかねぇよ」
互いに憎まれ口を叩いて、俺たちは笑った。
「ま、そういう事で、トップ取れたと思うまではディベート続けるって決めたんだよ」
「なるほど」
色々と無茶な奴だが、そのまっすぐと芯の通った生き方は少し見習いたい。
「……そういや天王寺って、スケバンって言われるの、嫌なんだよな」
「あ?」
彼女はギロリとこちらを睨み、肯定の意志を示す。
「じゃあ、なんでそんな格好してるんだよ。口調は仕方ないにしても、スカートは直せるだろ」
「いや、スカート長いのは、いいだろ。お嬢様学校とかのスカートも長いじゃねえか」
「……まさか、そのつもりでスカート伸ばしてるのか?」
「ああ。悪いかよ?」
「言っちゃ悪いけど、それのせいでスケバンっぽく見えてると思うんだが」
そう言う俺の頭を、彼女が軽く小突いた。今度は、それほど力を込めていない。
少しして、バツが悪そうな様子で、彼女は言った。
「まあ、似たようなこと、言われたことはあるけどよ」
「じゃあ、なんで直さないんだよ」
「だってよ、そう言われてスカート直したら、それこそスケバンって言われたの気にして直したみたいじゃねえか。ダサいだろ。それって」
「……別に、そんな事ないと思うが」
みたいも何も、実際それが嫌なのに、そんな所で意地を張ってどうするんだ。
ついでに言うなら、ダサいとか気にしてる様子が尚更スケバンっぽいんだが。
一本気な性格なのに、こんな所だけ変な方向に曲がってるのは、何なんだろう。
あれこれと話しながら歩き、彼女の家に辿り着いた。
「じゃあな」と言って小さく手を振る彼女を、俺も同じように手を振って見送る。
長かったゴールデンウィークも、これで終わりだ。
仮にも休日だと言うのに、平日以上に忙しい日々だったが、それだけ密度も高い連休だった。
その間、ずっと俺に付きっきりでいてくれた彼女に心の中で礼を言って、俺は帰路についた。
翌日、天王寺のスカートが少し短くなっていた。
それを見て、思わず吹き出した俺が再び彼女に殴られたのは、もはや言うまでもないだろう。




