ゲーセン番長 上巻
朝9時に登校して、夕方6時に帰る。
平日のスケジュールじゃないぞ。これが俺のゴールデンウィークだ。
およそ9時間、休日にもかかわらず天王寺と共にひたすら勉強を続けた。
部活は一応休日も行われており、部長と真勇は毎日、鹿野島先輩も二度ほど顔を見せていた。
ディベート部の活動は大抵の場合、個人で行うことになっている。
意見を出し合う時や、原稿の作成・確認などは全員で行うが、それ以外は大抵、各々での資料集めが中心だ。
そのため俺が一旦部活を休止して勉強に専念していても、特に問題は起きないのがありがたかった。
と言うか、テスト期間が近いために部長たちも部活ばかりではなく、テスト勉強と部活を半々くらいの割合で行っていた。
各々が資料集めや勉強を勝手に行い、昼になればカップ麺やパンで腹を満たし、また資料集めや勉強に戻る。
なんだか既に部活と言うより『溜まり場』のような雰囲気になっていたが、居心地は良かった。
天王寺の指導は、意外なほどに丁寧で、分かりやすい。
いや、成績を考えれば、むしろ分かりやすい方が妥当なのかもしれないが……見た目はどう見てもスケバンだからな。
逆に、これほど優等生なのに、なぜ見た目や口調がスケバン風なのか、本当に分からない。
ともかく、『スケバン先生』の指導の甲斐あって、俺は四日間の休日だけでテスト範囲のほぼ全てを一通り押さえることができた。
「んー……ま、こんなもんか」
連休最終日の午後4時ごろ、採点したペンを置きながら天王寺が言った。
問題の正答率は、6割ほどだった。良い成績とは言えないが、赤点の心配は無い点数だ。
俺はその結果に安堵し、一息つく。
一時はどうなることかと思ったが、かなりの余裕をもって勉強を済ませることができた。
あとは勉強した範囲を忘れないようにしつつ、テストを迎えるだけだ。
まだ部室に残っていても良い時間だったが、俺たちはそこで勉強を切り上げた。
「ちゃんと勉強したゴホウビだ。いいとこ、連れてってやるよ」
そんなことを言う天王寺に連れられて、学校を出る。
「いいとこ」とやらが一体何なのか、彼女は語ろうとしない。
これまでの付き合いで、彼女が見た目に反して真面目なことを、俺は理解していた。
だから、危ない所に連れて行かれるわけではないと思うが……やはり、少し不安もある。
学校近くの駅前、大通りを外れて細い路地に入る。不安が、より大きくなる。
程なくして到着した目的地は……。
「……ゲーセンか? ここ」
「おう。アタシのホームグラウンドだ」
二階建てのビル。見た限り、両方の階層がゲームセンターだ。
自動ドアの内側から、様々なゲームの音が雑音となって染み出している。
天王寺が入り口に向かい、自動ドアが開くと同時に、その音が大きく、明瞭に響く。それから、外まで漂ってくるタバコの臭い。
その賑やかさには少し心が躍るものの、雑然とした無秩序な空気は、少し苦手だ。
だが外で立っていても仕方がない。俺は彼女の後を追って、店内へと駆け込んだ。
「お前、ゲームとか苦手じゃねえよな?」
「苦手じゃないと思うが、ゲーセンにはほとんど来ないぞ」
「ンだよ、もったいねえなあ」
耳に叩きつける雑音の中、大きな声で話しかける彼女に、俺も大きな声で返事をする。
一階はクレーンゲームや子供向けのゲームが中心だ。
彼女はあまり興味が無いのか、そのまま部屋を突っ切って二階へと向かう。
二階は、格闘ゲームやシューティングゲームらしき筐体がずらりと並んでいた。
一層強くなったタバコの臭い。若い学生も居れば、定年を迎えていそうな歳の人間もいる。
それぞれが筐体へ向かって、熱心に戦っていた。
天王寺が、近くのシューティングゲームの筐体に近付く。そして、その画面を指差した。
誘っているのかとも思ったが、どうも違うらしい。
ゲーム画面に表示されているのは、プレイヤーのスコア。その1位から3位まで、『S.T』の名が並んでいた。
彼女が俺の方を向いて、ニヤリと笑う。S.T……ああ、そういうことか。
「これ、お前か?」
「おう。つーかこのゲーセンのハイスコア、ほとんど全部アタシだぜ」
「マジかよ」
見たところ、かなり大型の店舗のようだし、客の入りも悪くなさそうだ。
そこでハイスコアを記録するのは、相当難しそうに見える。複数のゲームとなれば、なおさらだ。
「で、どうよ? 何かやりたいやつ、あるか?」
「む……」
そう言われて、俺は店内を見渡す。
彼女が本当にハイスコアを総なめにしていると言うなら、その実力は見てみたい。それなら……。
俺は、部屋の奥に見えるレトロ風なシューティングゲームを指した。
もう何年も前だが、一度プレイした記憶がある。協力プレイが可能で、複雑なシステムも無い。
「お、シブいな」
「二人プレイ、やろうぜ」
「よし来た」
天王寺は乗り気で席に座り、即座にコインを二人分投入した。
スタートボタンを押し、機体選択画面へ移る。
彼女が選んだのは、平常時のパワーがやや弱いものの強力な必殺ショットを持つ機体だった。
俺は少し悩んでから、移動速度と広範囲攻撃に優れた機体を選ぶ。ゲーム開始だ。
どこか懐かしいBGMをバックに、敵の戦闘機を、どんどんと蹴散らしてゆく。
「結構やるじゃねえか」
「まあな」
天王寺の言葉に、軽い返事だけを返す。
シューティングゲームは結構久しぶりで、話しながらプレイする余裕がないのだ。
とは言え二人プレイなだけあって、序盤のステージはノーミスで突破できた。
彼女の腕は、そこまでのプレイでも十分に伝わってくる。
敵の出現位置は完全に暗記しているし、敵の弾を避けるときにも無駄な動きが無い。
俺も何とか、上手く立ち回ろうとするが、徐々に激しくなる敵の攻撃に、余裕がなくなってくる。
中盤ステージの終わり、大型ボスが攻撃を開始すると、俺は咄嗟にボムを使った。
「おいおい、いきなりボムかよ」
「抱え落ち(※)するよりマシだ!」
彼女に言い返しながら、必死に攻撃する。そして、なんとかボスを撃破したが……俺にはそこが限界だった。
終盤のステージに入ると、さらに激しくなった敵の攻撃にさっぱり対応できず、ボムを使う暇もないまま俺はゲームオーバーになった。
一方、天王寺はそのまま危なげなくプレイを続行し、最終ステージをクリアした。
今回のスコアはランク外だったが、それでも鮮やかな手腕だった。
※抱え落ち … ミス毎にボムが最大値まで補充されるタイプのゲームで、ボムを使い切らないままミスすること




