5
(殺気!)
「危ないっ!」
叫んで木陰から躍り出す、同時にクフィラが肩から一気に舞い上がり、ユーノの意志そのままに、マノーダを追おうとした娘達の前に飛び出した。その背後から間髪入れずに走り込むユーノに、先頭の娘が掴みかかってくる。視界の端で、茫然としていたナストがマノーダを腕に抱こうとしたが、一歩早くアレノがマノーダの手を握って建物の中へ駆け込むのが見えた。
「マノーダぁ!」
ナストの声に建物の扉にすがりついたマノーダが泣きそうになって呼び返す。
「ナストーっっ!」
だが、悲痛な叫びの直後に激しく手を引きはがされ、数人の娘と一緒に一気に扉の中へ引きずり込まれた。
「マノー……!」
後から建物に飛び込もうとしたナストを押しのけるように、飛び出してきた娘達が次々に剣を閃かせて襲ってきた。とても巫女などではない、どう見てもナストを細切れにしてもいいと考えている容赦ない剣捌きだ。
「うわああっ」
「ナストッ !」
ユーノは手近の娘の鳩尾に一発入れて振り返った。不審そうな相手に続けて、
「一人で手に負える数じゃない、引こう!」
「しかし、マノーダが…っ」
「出直さなきゃ無理だよ!」
打ち込んでくる剣を弾き、小手や腕を手刀で叩いて武器を落とし、ユーノは必要以上に娘を傷つけないように必死に攻防しながらナストの側へ寄る。相手もわけがわからないまま、娘を引き倒したり逃げたりしながら近づいてくる。
「あ、あな、あなたは!」
「詳しいことは後で!」
行くよ、と娘達の剣を立て続けに跳ね上げ、身を翻す。追撃をサマルカンドが遮ってくれるのに、森の小道を駆け戻る、その矢先、右手の樹間にぼうっと突っ立っているイルファを見た。
「あんなとこで……何してんだ、イルファの奴………サマルッ!」
「クェアアアアッ!」
娘達から舞い戻ったサマルカンドが主からの攻撃命令に嬉々としてイルファに突進した。爪に目玉を引っかけられそうになる寸前、気づいたイルファが悲鳴を上げる。
「う、うわあああっっ、ばかっ、よせっ! こらあっ!」
「クエゥイ!」
サマルカンドは容赦なくイルファをユーノ達の方へ追い立ててくる。それでようやく、相手はこちらに気づいたらしい、顔を引き攣らせてユーノに喚いた。
「ユーノっ! お前、何の恨みがあってっっ! 早く止めろあいつを止めろ今すぐ止めろ、俺は食い物じゃねええっっ!」
「嫌なら走れ!」
「お前ええええっっっ!」
重量のある竜車が爆走する勢いであっという間にイルファがユーノ達を追い抜かしていく。その頭を楽しそうにサマルカンドがついつい、ついつい、と嘴で突く。
「どわああああ!」
イルファが悲鳴を上げながら、まっしぐらに天幕の方へ突っ走る後を、ユーノは苦笑しながら追いかけた。
「あ……れ……あれ……クフィラ……??」
ユーノの側で早くも息が上がりつつあるナストが目を丸く見開く。
「太古……生物……なんで…こんなところに……今……あなたあれに……」
はあはあと喘ぎながら瞬きする。
「ひょっとして……飼って…る……?」
「ああ、まあ」
ちろりとみやったナストの不安そうな顔に、あ、そうか、あれも一般的には怪物の範疇じゃないか、と気づいた。
(しまった、怖がっちゃったかな)
せっかく自分を助けてくれたのが、実はまた別の種類の悪者達だったと考えているのかもしれない。
「でも…あの、大丈夫だよ、いいやつだし、大人しいし…」
にっこり笑って多少弁解を試みたが、
「ぎゃあああ」
「大人しい……」
つっくん、と背中を突かれたイルファが飛び上がるのに、ナストが暗い顔になった。