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「イルファはどうしてたんだ!」
「わかんない、アレノを探しに…」
「あの、くそ野郎!!」
アシャの語気の激しさに、再会できたことをひたすら喜んでいたナストとマノーダがうろたえたように振り返った。
「どうしよう、どうしたらいいの、ぼく…っ!」
「……今、イルファはどこにいる?」
猛々しく眉をしかめてアシャが尋ねた。
「イルファ? ユーノは?」
「ユーノは大丈夫だ」
一瞬眼を細めたアシャがひんやりと言い放った。
「あいつは天才だ。それに俺がすぐに追いつく」
だが、万が一、イルファやアレノを庇っていたら、しのぎにくくなる。
「う……ん」
足手まとい、そのことばが再びレスファートの胸を掠めた。
ぼくも、イルファも、ユーノを助けられないんだ、やっぱり。
レスファートは唇を噛み、泣きそうになりながら眼を閉じ、眉を寄せた。直前にイルファの心象を確かめていない分、位置が捉えにくい。これまでの時間が積み重ねた心象を頼りに神殿の中を探し求める。こぶしを握りしめて集中し、ようやく慣れ親しんだ気配を捕まえた。
「わかったよ、どっか、すごく広い所。広間みたい」
「あんのや…」
その場所がどこかすぐに思いついたらしいアシャが、再びの罵倒をぎりぎり呑み込んだ。
「よりにもよって………こっちに来そうにはないか?」
「だめ、みたい」
レスファートはイルファの側で消えたり現れたりする、もう一つの気配を確かめる。
「だれか、いっしょ……女の人、マノーダににてる」
「アレノか!」
ぎりっとアシャの歯が鳴った。
「ナスト!」
「はいっ!」
慌てて駆け寄ってきた2人に、アシャはてきぱきと指示を下す。
「マノーダを連れて逃げろ! ここをまっすぐ、角を右へ曲がって、その次の角を左に行けば、神殿の入り口に出るはずだ」
「あ……でも、アレノ……」
「イルファが助け出してる。すぐに後を追わせるから、心配するな」
アシャにしてはひどくぶっきらぼうに言い捨て、2人に背を向けてレスファートに向き直る。
「レス、ナストと一緒に…」
「いや!」
聞かずともわかった。足手まといになるかもしれないということも、十分わかった。それでも、レスファートは大きく首を振った。ナストのことばが頭をよぎる。
「ぼくだけだよ、ユーノの居るところ、知ってるの」
「…」
アシャが目を細める。紫の瞳が揺らめく炎をたたえていて、まるで平原竜と呼ばれる竜族の眼のようだ。冷酷なほど見定める眼差し、それに負けまいと唇を引く。
「ぼくだけだ」
アシャにもユーノの位置は掴めない。辿り着くまでに時間がかかれば、ユーノの危険は倍加する。意地だけでなく、気持ちだけでなく、今ここでレスファートはアシャに従う気にはなれない。
「わかった」
アシャが頷く。
「じゃあ僕達は、逃げ、ます!」
ナストが一瞬苦しそうにことばをとぎらせつつ、それでも一気に言い切って、なお振り返ろうとするマノーダをひきずるように、教えられた出口へ走り出す。
「来い、レス!」
「うんっ!」
待ってて、ユーノ、今ぼくが行くから!
身を翻すアシャの足下で、レスファートは全力で走り始める。




