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ラズーン 2  作者: segakiyui
2.闇の巫女達
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11

「ばか! ばかばか! ナストのばかぁっ!」

 ついにナストの肩に担がれたレスファートが手足をばたばたさせて喚く。

「どうしてっ! どうしてユーノ、放ってきちゃうんだよ!」

 身をもがき、ナストの肩からずり落ちそうになりながら、レスファートはなお一層暴れた。

「ユーノ1人じゃ無理だよ!」

 しゃくりあげたとたんに、大粒の涙が零れ落ちた。

「あんなばけものに、1人で…っ」

『レス、アシャを見つけるんだよ!』

 ユーノの声を思い出して、また涙が溢れる。

「ユーノ、1人で…っ」

 そうしなければ、ここから出られないかもしれない。

 耳の奥で響いた甘い声は緊迫していた。

 アシャを見つけなくては逃げられない、そうユーノは覚悟している。そんな相手をユーノに任せて無力に運ばれているしかない自分が、悲しくてたまらない。

「ユーノが死んじゃったら…っ」

 どうするんだよ!

 悲痛な声でレスファートは叫ぶ。

 力になれない、そんなことはわかっている、けれど力になれなくても一緒にいたい、そうずっと思い続けてきて、今まで側に付き添っていたのに。

「どうするんだよっ、ぼく…っ!!」

 剣を与えた、身を捧げると言った、『忠誠』の意味はわからなくても、その行為の意味と重さは知っている。

「ぼくはユーノを、ユーノを…っ」

 守るために。

「おかしな、話だが!」

 暴れるレスファートによろめきながら、ナストが声を上げた。

「あそこに、いない、方が、いいんだ、きっと!」

「なんでっ!」

「足手まとい、に、なる!」

「っ」

「だま、って!」

 角からカザド兵が駆け出してくるのに、ナストが慌ててレスファートを庇って身を潜める。

「足手……まとい……?」

 レスファートは目の前をカザド兵が駆け抜けていくのに、小さく呟いた。

「……ぼくたち……足手…まといなの…?」

「し…っ」

「ぼく…何も……できない…の……?」

 しばらく周囲を伺っていたナストの服を握り締めると、相手が緊張した顔でそっと振り返った。

「……できるよ」

「え…?」

「君はアシャを見つけられるんだろ?」

「あ…」

「見つけるんだ、できるだけ早く」

 そうすれば、彼の元に早く戻れる。

「うん!」

 レスファートは大きく頷いた。そのまま、遠い所で鳴っている雷を追うように首を傾げ、アシャの気配を追う。

 白い泉、入り交じる光景。

 こんとん、って何だっけ…?

 アシャの心象はとても難しい。同じようなものを、昔父親はこんとん、そう言わなかったか。

 見失わないように必死に絞り込んで、建物の中を追いかける。

「…こっち!」

 やがて、レスファートは広い廊下を指差した。

「こっちへ向かって走ってきてる!」

「よし、…っ!」

 レスファートが示した方向へ走り出そうとしたナストは、飛び出してきた女にぎょっとした。剣で打ちかかられてかろうじて避け、レスファートを押しのけて女を背後から抱え込み、必死に応戦する。

「く、そ…っ」

 女は無表情に跳ね返してくる。ナストの拘束はじりじり抜かれていく。

「先に、行って!」

 焦った声でナストが唸った。

「で、でも!」

「っそう、押さえておけない、よ……すごい力だ……っ!」

 ナストの腕は今にも振りほどかれそうだ。

「う、うん……、あ!」

 泣きそうになりながら、背中を向けて走ろうとしたレスファートははっとした。

 近づいてくる強い力の印象、猛々しくて謎めいた、その気配は。

「アシャ!」

「レスかっ!」

 振り向いた先、廊下の向こうから2人の女性が近づいてくる。片方の女性がもう1人を引きずるように走り寄る、その姿は光を放つほど眩い美しい女性だが、

「ち、いっ!」

 相手は荒々しい舌打ちを花のような唇から一つ漏らした。もう1人の女性を振り回してこちらへ突き放し、立ち止まるや否や、すぐ背後まで迫ってきていた数人の男達に飛び込む。

「アシャ!」

 ほっとして叫んだレスファートの前で、薄青の衣が噴水のように吹き上がり翻る中で剣が跳ね回り、たちまち2人、カザド兵が血しぶきを上げて倒れた。無言の攻撃、しかも気合い一つ漏らさないまま、円を描く動きを女性が繰り返していくたびに、床に転がる死体がみるみる増える。

「す、ご…」

 ナストもナストが抱えた女性も動きを止めて茫然としている。アシャの凄さはレスファートもよく知っている、だがその圧倒的な力の差は、女性1人を庇いながら、まるで宮中での舞踏会を思わせる鮮やかさ、くるくると身を翻すアシャの腕に時に抱かれ時に導かれ、蒼白な顔さえなければマノーダもまた、自分が修羅場にいると思っていないかもしれない。

「っく!」

 ナストがいきなり振り解かれそうになっていた女性を手放した。一瞬止まった相手の動きに、容赦のない一撃を首筋へ、そのままレスファートも放り捨てて、アシャの元にいるマノーダに向かって走り出す。

「マノーダ!」

「、ナストっ!」

 名前を呼ばれたマノーダもアシャの側から走り出した。そのまま2人、互いに駆け寄って抱きあう、それを横目に追っ手を倒したアシャが真っ直ぐレスファートに向かって走ってくる。

「ユーノは?!」

「っ」

 その名前はレスファートの胸を貫いた。一気に視界を満たし溢れ落ちた涙のままに、アシャに飛びついていく。

「アシャ……っ!」

「どうしたっ?」

「ユーノが……ユーノが……」

 レスファートが必死に事の顛末を語るにつれ、みるみるアシャの顔色が変わった。吊り上がっていく眉も見開かれていく瞳も、ぎらぎらとした殺気に塗り潰されていく。


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