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ラズーン 2  作者: segakiyui
2.闇の巫女達
19/132

8

「レスッ!」

 鈍い打撃音を響かせ、襲い掛かってきた兵士を倒し、ユーノは必死に周囲を見回す。

(カザドの奴らが居るなんて!)

 込み上げる怒りは『運命リマイン』に組みした相手の非道さと、自分に追っ手を引きつけることでセレドを守れると考えた自分の浅はかさの両方にだ。

(またここで、大事な仲間を巻き込んでいる……!)

「レスッ! どこにいるっ!」

 見る間に押し寄せてきたカザド兵の中を、一筋の閃光のように切り抜けながら、レスファートの姿を探し求める。

「ナスト! レスファート…ッ!」


 ユーノ達が神殿に忍び込んだのは、つい先ほどだ。ずっとアシャの位置を感覚で追いかけていたレスファートが、アシャが動かなくなった、と告げて、おそらくはどこかの部屋に落ち着いたのだろうと判断した。

 忍び込んだのはナストが示した、建物の横手にある小さな扉。

 表で迎えるほどではない、あるいは表で迎えたくない客人用にと作られたそれは、今ではほとんど利用されていなかったらしく、イルファが隙間から剣を差し入れ数回激しく揺さぶると、がたりと掛けがねが外れた。

 そのまま闇にまぎれて入り込み、レスファートが時々目を閉じてアシャの位置を確かめるのに従って奥へ進んだ。

 迷路のような回廊の、重要な分岐には見張りの女が立っていたが、いずれも命じられて立っていただけらしく、ユーノがアシャ直伝の当て身で眠らせるだけで済んだ。

 カザド兵に気づいたのは神殿の中央ほどまで来た時だ。

 神殿の暗い廊下を我がもの顔に三々五々、時に巫女志願と思われる娘を乱暴に抱え込み引きずりながらのし歩く黒づくめの兵士達。よもやこんな処にいるはずもない姿、しかもその背後に、禍々しくも妖しい闇の影。

(カザドが『運命リマイン』と組んだのか!)

 カザドの方は『運命リマイン』を利用するつもりだったのかもしれないが、たびたび『運命リマイン』に向き合ってきたユーノにはその思い込みの愚かさに背骨の付け根が縮こまっていくような想いになる。いずれは乗っ取られ、人としての意識を食い尽くされていく、そういう相手を御せると考えるとは。

 一瞬立ち竦んだユーノの気配が届いたのか、今しも手近の部屋に娘を押し込み消えようとしたカザド兵の1人が、何かに呼ばれたように振り向いた。闇に見を潜めているユーノの視線に射抜かれ、息を呑みたじろぐ。

 その瞬間、ユーノは床を蹴った。抜き放った剣を懐から一閃、右肩から首へ向けて体重を乗せ、一気に切り降ろす。声を千切らせた相手が扉に倒れ込み、中から響く悲鳴と一緒に床に沈む。

 直前、男の背後から暗い影が走り去った。同時に遠くで「曲者だーっ!」と呼ばわる叫び、『運命リマイン』を通じて侵入は既に気づかれたのだろう、気づけばイルファは既にその場におらず、前方遥かにアレノの名前を連呼しながら突進していく。

「イルファ! おい、待て!」

「アーレノーッ!」

「ちぃっ」

 恋する男は岩をもくり貫く、そう言った昔の賢人はたいしたものですね。

 あっけにとられて呟いたナストが小さな悲鳴を上げたのに振り向けば、レスファートと共に押し寄せてきたカザド兵に呑み込まれていく。はっとして駆けつけようとしたユーノと2人の間に、あちらこちらの部屋から溢れた兵が入り込み、見る見る人波の向こうに消えていく姿に焦りが募った。

「く、そっ!」

 過信していた、油断していた、そんなことは重々わかった、だから今は一刻も早く2人の元へ辿りつかせてほしい。

 苛立ちながら次々兵士を倒して進むと、

「きゃああーっ」

 か細い悲鳴が喧噪をくぐり抜けてきた。

「そっちか!」

 目の前の1人を倒した向こう、回廊が数本集まった小さな広間の壁際に、追い詰められたナストとその背中に庇われながらアクアマリンの瞳を大きく見開いているレスファートの姿を見て取る。

「レスッ! ナストッ!」

 右から切り掛かるカザド兵の腹を蹴り付けながら剣を翻し、左のカザド兵の手首を掻き切る。

「ぎゃ!」「ぐぁっ!」

 倒れる二人の間を走り抜け、

「邪魔するなっ!」

 前方を塞ごうとした兵士を一喝、怯んだ瞬間体を縮めて懐へ飛び込み、剣の柄で鳩尾を殴りつけ、勢いに戻る剣で背後から迫っていた男を貫く。思わぬ急襲に後から崩れてきた相手の顎を左のこぶしで叩き上げつつ腹から剣を抜き、鳩尾を突かれてよろめいた男が気を取り直して前からかかってきたのを薙ぎ払った。

(ゆっくり右へ、円を描いて脚を上げ、爪先は次の敵へ叩き込む)

 アシャのことばが過熱した頭に清涼な水のように広がる。ことばに導かれるまま、覚えた動きを速度を上げてなぞれば、あっという間に周囲に空間ができた。

「は、ぁっ!」

 体を回す、切っ先を左に持ち替えた剣で受け、右手の甲で相手の肘を跳ね上げる。腕を引き寄せ、慌てたように腕を戻す相手の懐に入り込んで身を縮め、相手の右脇へすり抜けると同時に左から来た敵の踏み込んだ膝を蹴る。驚いた顔で体勢を崩した相手の手首には右手に移した剣を見舞う。

「がっ」「ぎゃっ」

「く、そっ!」

「手強いぞ!」

 弾かれたように跳ね飛ぶ兵士、周囲が悔しげに距離を取る。

「あっちの男はどうした!」

「止めろ、奥へ向かってる!」

 ユーノに向かうよりはイルファの方が倒しやすいと思い直したのか、うろたえたように数人が向きを変え、見る間に包囲が緩んでいく。


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