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「へえ…」
ボクはそんなふうに見えるんだ。
ユーノが照れたように薄赤くなる側で、アシャはひやりとした感覚を漏らさないようにするのに手一杯だった。
確かにレクスファの王族は心象を読む。アシャもその力に自分を晒すのは初めてではない。
だがしかし、レスファート、この幼い王子ほど、その才能に恵まれた世代はいなかったのではないだろうか。
なぜなら、今レスファートが読み取ったアシャの『心象』は、まさに『ラズーン』そのものであり、『ラズーン』の成り立ちそのものでもある。アシャは『ラズーン』のものではあるが、『ラズーン』の成り立ちについて記憶しているわけではなく、それは『太皇』のみが有する記憶だ。だが、それをアシャが全く受け継いでいないかというと、ある意味アシャそのものが『ラズーン』の闇の側面とも言うべき存在であるが故に、その体に当然刻まれているはずのものでもある。
レスファートが表現した『市場』などという概念でまとめきれないというのは、それが長大な時間を封じ込めたものであり、無数の命を内包しているという意味でもある。
それをあえて何かの概念で表現しろというのなら、それは『ラズーン』としか言えないものだ。
果物と野菜は命、鍋はこの世界、そう翻訳すれば、人間の悲嘆、建造物の崩壊を加えて、レスファートの表現はかなり正確な描写になる。
(そして水晶、いやガラスの瓶と稲妻は俺の)
目を伏せて、目に浮かんだだろう殺気を隠す。
(俺の…父母)
「……はい、いいよ、アシャ」
ようやくレスファートが眉根を緩めた。目を閉じ、今読み終えた心象をひとしきりなぞるように、眼瞼の下で瞳を動かす。
「うん……追いかけられると思う……一つ、見つけたから」
「一つ見つけた?」
「うん……手がかりになるもの……泉」
「っ」
さすがに一瞬顔が凍った。
(まさか、そこまで読めるのか)
そのことばを聞けば、きっと『太皇』も驚くだろう。世界に甦りつつある命の無限の可能性を喜ぶだろう。
遠き彼方の白い城壁を思い出す。そこに含まれた悼みとともに。
だが続いたレスファートのことばは、なおアシャを驚愕させた。
「泉?」
ユーノが確認する。
「うん……泉、それでうまく追いかけられる」
ユーノの時は虹色の布、それと同じように、アシャは白い泉。
レスファートは問題を解き終えた学士のようににっこり笑う。
(白い、泉、だと?)
泉だと指摘しただけではなく、青いとか澄み切ったとかの形容でもなく、白、と。
(見抜けるのか)
ただ、アシャを通してるだけで。
(なんてことだ)
苦々しい傷み。
「そういうふうに……名前をつけたら……いけるって気がする」
アシャの煩悶に気づかないレスファートは、どうやらユーノの心象を思い出したことで、アシャを把握する方法を見つけたらしい。
ぱちりと目を開いて嬉しそうに笑った少年に、アシャはかろうじて笑み返した。
「じゃあ……後から俺を追ってこれるな?」
「まかせて」
ぼくがちゃんと皆を案内するよ。
「アシャが居るところまで」
無邪気に言い放ったことばの脅威を、レスファートはどこまで理解しているだろう。
「……じゃあ、よろしく頼む」
震えそうになった体に力を込めて、アシャは静かに立ち上がった。




