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ラズーン 2  作者: segakiyui
12.『白の塔』の攻防

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120/132

9

 十数日後。

(封印された『白の塔』に『あかの塔』)

 ユーノはゆっくり首を巡らせて、二つの塔を交互に見やった。仮住まいにしている少し離れた場所の、国境を管理する大臣達の家からは、二つの塔が運命を語る一枚の絵のように見える。

(救済と破滅)

 自らを律して運命を選ぶか、『運命リマイン』に組して自らを放棄するか。

「ユーノ」

 背後からの声に振り返ると、テオが穏やかに笑っていた。

「御気分はいかがですか」

「もうぴんぴんしてるよ」

 起きる事を許されたのは四日前、それまで十日以上もベッドから動くことさえ禁じられて、別種の拷問だった。

 テオはユーノの側に並び、見ていたものに目をやった。

「二つの塔、ですね」

「大変だったね」

 ユーノの声にテオは少し黙り込んだ。

 風に舞うプラチナブロンドを指先で押さえ、塔を、そしてその上に広がる彼方の空をじっと見上げる。

「辺境のイワイヅタは、水も養分も与えられないところに育ちます」

 静かな低い声が響いた。

「その種が持っているのは、いつも己のもつ生命力だけです」

 亡くなってしまった人を、無くなってしまった繋がりを愛おしみながらも悔やまない、強い意志を含んだ声だった。

「ぼくら辺境の人間も、そのように生きることを、いつも自分に課しています。個の価値のないものはここでは暮らせない……ぼくもこれからが自分の命です」

 ユーノは無言で頷いた。

「ユーノ」

「うん?」

「あなたは…」

 言いかけて一瞬ためらい、やがて吹っ切るようにテオは続けた。

「ぼくの気のせいでなければ、あなたが生死の境を彷徨っている時に求めたのは、アシャだったと思うのですが」

 まっすぐな問いに、ユーノは思わずテオから目を逸らせた。

 『白の塔』を、続いて『あかの塔』を見つめる。

 追い詰められ、殺されかけた。

 たった一人で、けれどそれは、いつものことで。

 けれど今度は、目覚めるとアシャの腕の中に居た。

 安らかで、恐怖に怯えることもない、夢のような時間。

(でも)

 あれは幻。

(あんなことは……二度と起こらない)

 胸に強く言い聞かせる。

(二度と)

「テオの気のせいだよ」

 きっぱりと言い放つ。

「ユーノ…」

 テオが眉を寄せた。

「何かだめな理由があるんですか? あなたの想いを妨げるようなことがあるんですか?」

(無神経だよ、辺境の王)

 ユーノはテオを振り返った。にこりと笑って、

「違うよ」

 迷いのない声で言い切ろうと決めた。

「私はアシャを好きだけど、テオの言うような意味じゃない。兄さんみたいに、ずっと付き合っていける友人みたいに好きなんだ。テオもアシャを嫌いじゃないだろう? おんなじだよ」

(そうだ、そういうことだ)

 揺れた想いは悪夢が見せたものだ。孤独に耐えかねた心が描いた儚い夢だ。

(そう、決める)

 これ以上卑怯者にならないために。

「……あなたは強い方ですね」

 テオはグレイの目を陰らせた。

「……うん」

 もう一度、笑った。

「ユーノ」

 テオは片足を引き、唐突にユーノの前に跪いた。

「あらためて礼を取らせて下さい。そして、ぼくを祝福してくれませんか、イワイヅタの枯れぬように。ぼくはあなたの強さにあやかりたい」

「…私でよければ」

 ユーノは左手を差し出した。

 テオがそっとその手を押し頂き、甲に静かに唇を押し当てる。けれど、唇を離してもすぐには手を放さずに、低い声で呟いた。

「アシャでは勝ち目がありませんからね」

「え?」

「いえ」

 テオが笑って立ち上がる。

「強くなろう、そう言ったんですよ」

「ユーノ!」 

 バルコニーの下から声がした。覗き込むと、レスファートがぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「行こうよ! もう準備できたって!」

「わかった! ……じゃあ、テオ、いろいろとありがとう」

「ご無事で……あなたなら…」

 さぞ立派な辺境区の王になったでしょうね、ユーノ。

 静かに続いたテオの声を、ユーノはもう聞き取れなかった。

 アシャが、イルファが、そしてレスファートが新たな旅路の支度を整えて待っている。

(進もう、前へ)

「お待たせ!」

「おお、ずいぶん待ったぞ!」

「いいお天気だよ!」

「……調子がおかしくなったらすぐに言えよ?」

 瞳を細めるアシャに片目をつぶる。

「私を誰だと思ってる?」

 セレドのユーノ・セレディスだよ。

「……わかってる」

 アシャが一瞬切なげに笑ったのに、行こう、と声をかけて背中を向けた。


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