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Luckey number 11(ラッキーナンバー11)②

 もう一度撃鉄を起こし、エアドリスは目の前の怪物に向けて銃弾を放つ。怪物の体はゆらりと前に倒れ「く」の字のようになるが、それがかえってエアドリスの恐怖感を煽った。


「……ッ? 銃弾は効いてんのか? 効かねえのか?」


 手ごたえを感じない。「まるで風車と戦うドン・キホーテのような気分だ」と心の中でつぶやく。見ているだけでも気が狂いそうなのに、それが自分の命を奪おうとしてくるのだから、くらくらする。


 異形は咆哮をあげて、その肥大化した右腕を振り回し、エアドリスに攻撃をするが、間合いを取っていたのが幸いして、空振りする。それはエアドリスにとって致命的な好きだった。


 ここがチャンスだと思ったエアドリスは走り出す。目的はアンドロイドの方だ。彼女にはエアドリスの外骨格が覆いかぶさっている。透明化トランスペアレントさえできれば、勝機があると考えたエアドリスは、一発、射撃を加えながらアンドロイドの元へと走る。


「なっ、待て!」


 ファーストは驚いて声を上げる。しかし意表を突かれた彼は、一歩遅れる形でエアドリスを追う。さらに彼は――不幸なことに――砂漠に足を取られ、先ほどのような鋭敏さを見せることができない。


 決着の時は来た。エアドリスはスライディングして、アンドロイドから自分の外骨格をかすめ取り、フォトンムーブメントを加速させ、透明化トランスペアレントを起動させようとする。


「じゃあな、エイリアン。俺の勝ちだ――っ?!」

「あら……そう上手く行くかしら?」


 エアドリスは戦慄した。自分が倒したはずのアンドロイドが自分の肩を掴んでいるのだから。撤退するのに時間をかけすぎたのだ。破壊者デストロイヤーの拳が赤い閃光のように真っすぐエアドリスに飛んでくる。


彼は、任務前にフランソワから渡された資料の内容を思いだす。

 「フォトンナノによる自己修復機能」

 彼女の脳にあるマザーブレインが破壊されない限り、フォトンムーブメントによる回転によってナノマシンが起動し、損傷が自動的に修復される。


 形成は悪くなるばかりだが、エアドリスは自分の運にかけることにした。エアドリスは彼女の脳天に向けて銃口を突き付け、トリガーに指を掛ける。


 破壊者デストロイヤーは思った。それよりも先に自分の拳が彼の脳天を叩き割るの先だと。しかし、その時――破壊者デストロイヤーの意思から外れて――彼女の体は勝手に動き出して攻撃を中断し、回避動作に入った。

 

 エアドリスは引き金を引くが、銃弾は出ない――「12」発目だからだ。

 エアドリスは不敵に笑って、その姿を「消した」


「……やられた」


 ファーストはゆっくりと人間の姿に「擬態」しながら、そう呟いた。

 あの殺し屋は、見た目以上にキレる奴だと思い知る。


 ファーストは聞いたことがある。特別な命令のない限り、「アンドロイドは自己を防衛しなければならない」という原則ルールが彼女のマザーブレインに組み込まれている。


 それから、あの殺し屋が「自分は11発分しか、弾薬を持ってきていない」という言葉を彼女は聞いていない。よって当然、12発目も発射されるものとして認識していただろう。


 この二つのトリックが上手く作用したため、原則ルールが発動され、攻撃を中断し、回避行動に――強制的に――移された。その結果、破壊者デストロイヤーは掴んでいた肩まで放してしまい、結果、逃がすことになった。


 そして、一本取られた彼女の方はと言うと。


「……殺す。あの男、絶対に殺してやるわ」


 と、なにやら物騒なことをブツブツと言っていた。

 ファーストは彼女をできるだけ刺激しないように距離を取る。

 「見えない何か」が動き出し始めた気がした。


  エイリアン、アンドロイド、それから……


 「見えない何か」が動き出し始めた気がしたのは、ファーストだけではなかった。プラヤ砂漠、合流地点に到着したエアドリスは、迎えのヘリコプターに搭乗し、今任務のオペレータであるキューラーに報告する。


「あー、あー。聞こえるか?

 作戦は失敗した。破壊も捕獲もダメだった」

「え、じゃあフランソワさんにどう報告すればいいんですか?」

「それについては俺から直接話をする。

 アンタは通しては決してできない状況になった」

「セキュリティ・クリアランス的な意味で、ですか?」

「まあ、そんな感じだな」

「……自慢じゃないですけれど、私はトップ・シークレットのクリアランスを保有してるんですよ。情報の漏洩などの心配は不要ですが。それでも?」

「無理だ。

 ——とりあえず作戦終了報告を行って、フランソワにアポイントメントを取っておいてくれ、出来るだけ早急な方がいい。俺はこのまま生産省に向かう」


 そう言ってエアドリスは通信を切った。

 それからねぎらいの意味を込めて腰のホルスターに収納されている愛銃を撫でてやり、コプターの小窓から外の景色を見た。


 灼熱の太陽が、プラヤ砂漠を焼く。

 その遠くで月がうっすらと、見守るように顔を出す。

 そしてその隣には巨大な円盤が浮かんでいる——あれは何時からあっただろうか。最初に現れた時はずいぶんと騒ぎになったが、何も進展がないとわかると次第に「日常」へと変化してしまった。

 善良なるプラヤ市民たちはそれを「異星からの宇宙船」と決め付けるものが居れば、政府の新たな兵器だと考える学者も居た――が確信と証拠を持ってその正体を当てるものは一人もいなかった。


「——いいや違う。教えてやるヒューマン。

 僕達は、この星の外側の住民だ

 僕達は、エイリアンだ」


 先ほど、戦った相手を思い出す。「善良なるプラヤ市民たち。お前の予想は当たっているぞ」とエアドリスは心の中でつぶやいた。あの円盤は政府の新たな兵器なんかではない。間違いなく、宇宙船だった。


「ラッキーナンバー11。俺はたしかにツイてるぜ。

 なんだって、歴史の転換点に立っているわけだからな」

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