Something invisible start to move(見えない何かが動き出す)⑤
「……さん、……ックさん! ああ、……れ、聞こえてないみたい。
へっぽこクソダメ、占い馬鹿のエアドリス・サルッカーサさーん!」
「聞こえてるぞ」
「ひぇ?! オッホン。ああ、ええ、完璧超人アサシンのエアドリス・サルッカーサさん、ようやく通信がつながりましたね」
「そこから挽回とか無理だろ。自称美人オペレーターのキューラーさんよ。——っていうかアンタ、普段から俺のことそんな風に見てたのか」
「まあ、それは棚に置いておいて……」
「置くなよ、絶対帰ったらセンターまで言って問い詰めてやるからな」と愚痴りながらも、エアドリスは双眼鏡から視線を離せなかった。「非常に興味深いこと」が起こっていた。見る者を惹きつける、紅いドレスのような外骨格を纏った女が、科学省のパトロール隊と交戦を始めていた。
「……画像送られてきました。目的の『遺物』ですね
エアドリスさん、保護か捕獲をお願いします。
じゃあ、いつもどおり、作戦中は通信を切りますから――」
そう言って通信は途切れる。エアドリスはそれから独り言ちた。
「簡単に言ってくれるな。もしかしてジョークか?
吸光反応の発生が収まったとはいえ、あの紅い悪魔みたいな奴を生けどりなんて、まるで水鉄砲持って戦車に突っ込むようなもんだぜ」
そう言いながらエアドリスは双眼鏡から目を離し、今度は愛銃に弾を込める。装弾数は6発。ラッキーナンバーは「11」のため、手元には5発の弾丸が残る。
カラカラと小気味の良い音が鳴り、装填を終えると、彼は自分の外骨格を身に纏う。彼の外骨格は、自分の戦闘スタイルに合わせられた特注品だった。フォトンムーブメントが加速し、外骨格が起動すると、彼の姿はカメレオンのように「消えた」
エアドリスが紅い悪魔と比喩した、紅い外骨格のアンドロイドの戦いは、まるで砂漠に吹き荒れる嵐のように激しいものだった。彼女はなんの武器も持たず、外骨格の運動補助機能だけで、武装したパトロール隊をなぎ倒してゆく。
科学省直属の戦闘組織というだけあって、彼らの装備はどれも「ガンズ&ファースト」には並ばない、最新型の高級品であることがファーストには理解できた。
しかし、それでもなお、「破壊者」と名乗る災厄との力の差は圧倒的で埋められるものではなかった。
まるで、城塞を壊すために作られた大砲を人に向けて発射させたジャンヌ・ダルクのような、神々しさと残酷さを秘めている。ファーストはエイリアンとして、自分たちの種の危険を感じずにはいられなかった。
「なんだこれ。これだけは、彼女だけは、この星のどんな発明品よりもレベルが——いや、『次元』が違うじゃあないかッ!」
そういいながら、ファーストは戦闘に巻き込まれないように岩陰に隠れた。パトロール隊の阿鼻叫喚、混乱した様子が、たとえ見ずとも声だけでありありとわかる。「ここから逃げないと、《《見えない何かが動き出す》》ぞ」と、彼の種族が皆、生来的に持っている第六感のようなものが、ファーストに囁いた。
ファーストは頷いて、立ち上がり、バイクの方へと駆け出そうとするが、足の痛みのせいでうまく走れず、再び転んでしまう。砂を喰む。しかし、そんな暇はないと、自分に言い聞かせて、顔を上げる。だが、
「おい」
ファーストが顔をあげた先には顔があった。濃い目のクマと、浅黒い髪をした男の顔が。ファーストはまた第六感が働いて、危険を知らせる。「この男はヤバいぞ」と。しかしファーストからしたら、第六感に言われなくてもそんなことは百も承知の事実だった。
「お前、いったい何処に行こうって言うんだよ。
もしかして、パーティは苦手なタイプか?」
不敵に笑う男の手にはハンドガン――それもリボルバー、実弾を使うタイプ――が握られていて、その銃口はファーストに向いていた。