Something invisible start to move(見えない何かが動き出す)②
世の中にはどうしても邪魔だと感じる人物がいる。
けれど、だから「気に食わない」と言って消すことも殺すこともするわけにはいかない。たとえ殺そうと決心したとしても、自分の手を汚せない人間がいる。
――そこで需要が生まれる、殺し屋という職業の。
「そういうわけで、今回の依頼はこれだ
ただ、今回はほかの依頼と違って毛色が違ってね。
それでいて、誰にも見られたくない、気づかれたくない」
「……だから、アンタがわざわざ俺の前に姿を表しているのか?」
殺し屋の名前はエアドリス・サルッカーサと言った。プラヤ地方特有の、乾いたような色の黒髪で、目は寝不足なのか、クマが濃い。そんな彼が不敵に笑って、依頼人である生産省長官、フランソワ・ルッソを上から下まで、吟味するように見回す。
「ああ、そうだ。これはつまり、特殊で、内密な依頼なのだ。
ロケーションはプラヤ砂漠のK地区、Bの4。主な任務は過去のテクノロジーの『遺物』の回収、もしくは破壊だ」
それを聞いたエアドリスは考えるフリをする。天井を眺めたり、地面のレッドカーペットを確かめるように、その場で地面を踏みしめたりした。そして――まるで天気の話題をするような軽さで――口を開いた。
「なんだ、殺しじゃねえのか。
――んで、『遺物』ってのはなんだ。そこに遺跡でもあるのか?」
「さあ、遺跡があるかどうかは僕にも分からない。
けれども、確実に、そこにはアンドロイドが眠っているはずだ。それも今の技術では決して作ることのできない特別製な奴がね」
「特別製な奴」
「そう、前時代技術によって作られた『遺物』は現在の技術と比べて、純粋に高い性能を誇り、人間とそん色ない機能を誇る――と、報告書には記されている」
フランソワはエアドリスに報告書を渡し、彼に一読させる。しかし、エアドリスのほうは機械工学について専門的な知識がないため、あまり多くのことは読み取れなかった。かろうじて、その反応からアンドロイドが長い長い休眠状態にある可能性が高いこと、そして、そのアンドロイドが戦争目的に製造されたものがわかった。
「これを捕獲か、破壊しろ、と」
「出来るかい?」
「簡単だな――ああ、もちろん。邪魔者が出なければの話だが」
「……彼らがいるから君を呼んだんだ、エアドリス」
それを聞いたエアドリスは不敵な笑みを浮かべた。腰のホルスターに収納されたハンドガンをまるで「お前の出番らしいぞ」と起こすように手で叩く。それから「正直なところ」と前置きしてから、エアドリスはフランソワを真っすぐに見る。
「今日のラッキーナンバーはな、フランソワ、『8』なんだよ。それで実はな、俺が今日会話した人間を数えて八番目がアンタだ――だからいいぜ、受けてやる。俺に任せな、フランソワ」
「ふむ、そう言ってくれると期待していた。
それでは前金はいつものところに振り込んでおく。
捕獲してくれれば、その資料の提示金額の倍は出そう。
それでは良い明日を。エアドリス・サルッカーサ」
「ああ、精々期待して待ってろよ。
任せろ。俺に任せれば『全てがうまくいく』ぜ」
そう言って、殺し屋エアドリス・サルッカーサは長官室から出て行った。生産省長官、フランソワ・ルッソの方は彼の背中を見送った後、窓の外を眺める。空には太陽と、雲と――巨大な円盤が浮かんでいる。フランソラはその円盤を忌々しいように睥睨して、未来に希望を寄せた。