4.宣戦布告をいたしまして。
20180810 0:50 修正
(誤って古い原稿をアップしていました。ターニャとラプラスのキスシーンが入っているのをご覧になった方はごめんなさい、、、ラッキーだったと思って忘れてください)
目の前に、自分をパーティから追放した男が立っていた。
ライアン。幼馴染みで、元パーティリーダー。
ターニャをパーティから追い出した男だ。
そして、その隣に立つ女。
「どういうつもり?」
その隣に立っているのは、若い女……それも、装備を見るに魔術師だ。
ライアンが好きそうな豪華な金髪にすらりと長い手足。
女冒険者用のやたらと露出度の高い装備のなかでも、とくに品のないデザインの服を纏っている。
金髪からは大きな獣耳が生えている。なるほど、獣人族ということか。
「ねー、ライアン。だあれ、この人」
「あぁ。ごめんなキャサリン。ほら、前にいた俺の幼馴染み」
「あー、あの男みたいな女魔術師の?」
「そうそう」
「へーえ、この人が」
キャサリンと呼ばれた女の、揶揄するような声と視線。
勝ち誇った表情。
その意味が分からないほど、ターニャはお人好しではない。
「私をクビにして、また女魔術師を……?」
「誤解だよ、違うんだって」
何が違うんだ?
怒りに冷たくなっていく手足。
「ライアン。自分のオンナをパーティに入れるために、私をクビにしたの……?」
へらへら、とライアンは誤魔化すように笑う。
このまるで子供のような笑顔で、故郷にいるときから色々なことをお目こぼしして貰っていたのを知っている。
嫌らしい、笑顔だ。
「キャサリンがどうしても、俺たちのパーティにいれて欲しいって言うからさ。ね、キャサリン?」
「ねー、ライアン」
嘘つけ、なんだその腰に回した手は!!
なんだそのやに下がった顔は。
微笑みあうな、この状態でっ!
ターニャは怒りで顔が熱くなるのを感じた。
「……聞いていた以上にクソ男だな」
とシャーベットをつつきながらラプラスが呟く。
ほんとにな、とターニャは思った。
「あっ!」
と、急にライアンは叫ぶ。
「……なに」
「もしかしてターニャ」
「はい、なんでしょうか」
「おまえ、ヤキモチ焼いてるんだろう!」
「………………はぁっ!!!??」
ヤキモチ!?
この状況でこの男の頭はいったいどういう思考回路になっているのだ?
「お前、俺に惚れてたんじゃないのか。図星だろ!?」
「し、死ねとしか言いようがない!!!!!」
ターニャは悲鳴をあげる。
何を考えているんだ、この男は!
「いやあ。キャサリンよりはお前の方が魔術師としての腕は上かもしれないけどさー。結局、オンナは愛嬌じゃん?」
「うん、うん! オンナは愛嬌よね。ライアンっ」
キャサリンがライアンにしなだれかかりながら同意する。
「ターニャはキャサリンと違って昔から愛嬌ないもんなー。回復術師とかだったら誰にでも出来るし、とっとと転職してどこかのパーティで男見つけた方が良いと思ったんだよ、俺は」
悪びれもなく、ライアンは言った。
ああ、胸に泥をつめられたような気持ちだ。
「……、ま、れ」
「だってさオンナが冒険者やるのなんて、どうせ結婚相手探しだろ?」
「だ……、れ」
「だったら、若いうちに手を引いた方がいいじゃん。普通」
「黙れ」
――普通。
その言葉に、ぶつりと何かが切れた。
「え? いま何か……」
「黙れよ、クソ野郎っ!!!」
ターニャはそう、叫んで。
肩の大剣に手をかけた。
体内の魔力を循環。
足に意識を集中する。
風属性魔術。
――起動。
ライアンに向かって、突進した。
「ひぇっ!?」
……何が起こったのだ?
背筋に走る寒気に、ライアンは悲鳴をあげた。
背後から、ぴたり、と首筋にあたる大剣の刃の冷たさ。
空間移動、としかいいようがなかった。
自分は背後を取られたと言うことすら、認知するのに時間がかかった。
そして。
大剣を寸分の狂いもなく首筋に当てているのは。
見知ったはずの灰桜色の髪――ターニャだった。
ひどい、殺気だ。
状況を把握した途端に、ライアンはかくんと腰を抜かす。
遅れて、キャサリンも悲鳴をあげた。
「きゃーっ! なになに今のぉっ」
「……いま、殺してもよかったんだけどね」
す、とライアンの首筋から大剣を外す。
店員が「何してるんすか、お客さん!」と怒号をあげた。
「なっ、なっ、お前、剣!? 剣士に転職したのか!?」
「まぁね」
「魔術師のときだってたいがいだったのに、剣士の女なんてモテねえぞ!?」
と、ライアン。
ターニャは思い切り息を吸い込む。
そして。
「モテたくてやってんじゃねーーーーよ!!! タコ!!!!」
ターニャの凄まじい気迫の一喝。
愉快げに様子をみていたラプラスが、「わーお!」とはしゃいだ声をあげる。
その手にはちゃっかりシャーベットのおかわりが握られていた。
「タコ!?」
「あんたのことをタコっていったらタコに失礼だわ、前言撤回!」
氷よりも冷たい目で、ライアンを見下す。
「ライアン」
「な、なんだ」
「次のランキング戦で、私は自分のパーティで出場する」
「ランキング戦に? 自分のって……女がリーダーのパーティが出場なんて聞いたことないぞ」
「うるさい。ランキング戦の会場で、吠え面かかせてやるから!」
そう。
ここでぶちのめすなんて、もったいない。
大勢の前で、大恥をかかせて、吠え面をかかせて、命乞いをさせてやる。
それが、ここまで自分を馬鹿にして。
軽んじて、そして踏みにじったこの男への復讐だ。
「な……っ」
沈黙。
周囲の客からの視線。
ちっ、とライアンは舌打ちをして立ち上がる。
「くそ、キャサリン。店変えようぜ。気分わりい」
「う、うん」
ターニャは去っていく背中を睨み付ける。
かつて、いっしょに冒険者を夢見た幼馴染みの背中を。
絶対に、泣いたりしたらいけない。
ここで泣いたら負けだ。
「……そんなんだから、売れ残るんだよ」
去り際。
吐き捨てるように、ライアンは言った。
この期に及んで、寝ぼけたことを。
ただの。
ただの、「女」としてしか、人のことを見ていない言葉だ。
「ふっざけんな!!!! 売れ残り上等だ!!!」
その背中に、叫ぶ。
さっきの力の差を、見ただろう。
魔法剣士としての技量は、魔力の量と練度だ。
魔術師としての自分の力量がそのまま適用されたとしたら。
負けるはずが、ない。
さっきもライアンの首を落とすことだってできたのに。
「絶対に、ぶちのめしてやるから」
ぎり、とターニャは唇を噛みしめた。
と、そのとき。
後ろからふわりと抱きしめられた。
「オッケーオッケー。ここでぶっ殺さなかったのは偉いぞ、ターニャ」
「ラプラスさん」
「あたし、あともうひとつくらいシャーベット食べたかったし」
「まだ食べるんですか!」
「ターニャは飲み直さなくていいのかい?」
にんまり、とラプラスは笑う。
古の大魔女。
ターニャの、パーティメンバー第一号。
思えば、なんて心強い。
「祝杯だ。これから始まる、楽しい楽しい復讐劇のね」
つられて、ターニャも笑う。
そうだ。
すっかり酔いが醒めてしまった。
もう少しだけ葡萄酒をいただこうかな。
かくして、ライアンへの宣戦布告は完了した。
さあ。
これで、あとには引けなくなったぞと。
ターニャは拳を握りしめた。
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