表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/46

4.宣戦布告をいたしまして。

20180810 0:50 修正

(誤って古い原稿をアップしていました。ターニャとラプラスのキスシーンが入っているのをご覧になった方はごめんなさい、、、ラッキーだったと思って忘れてください)

 目の前に、自分をパーティから追放した男が立っていた。

 ライアン。幼馴染みで、元パーティリーダー。

 ターニャをパーティから追い出した男だ。


 そして、その隣に立つ女。



「どういうつもり?」



 その隣に立っているのは、若い女……それも、装備を見るに魔術師(ソーサラー)だ。

 ライアンが好きそうな豪華な金髪にすらりと長い手足。

 女冒険者用のやたらと露出度の高い装備のなかでも、とくに品のないデザインの服を纏っている。

 金髪からは大きな獣耳が生えている。なるほど、獣人族ということか。



「ねー、ライアン。だあれ、この人」

「あぁ。ごめんなキャサリン。ほら、前にいた俺の幼馴染み」

「あー、あの男みたいな女魔術師(ソーサラー)の?」

「そうそう」

「へーえ、この人が」



 キャサリンと呼ばれた女の、揶揄するような声と視線。

 勝ち誇った表情。

 その意味が分からないほど、ターニャはお人好しではない。



「私をクビにして、また女魔術師(ソーサラー)を……?」

「誤解だよ、違うんだって」



 何が違うんだ?

 怒りに冷たくなっていく手足。


 

「ライアン。自分のオンナをパーティに入れるために、私をクビにしたの……?」



 へらへら、とライアンは誤魔化すように笑う。

 このまるで子供のような笑顔で、故郷にいるときから色々なことをお目こぼしして貰っていたのを知っている。

 嫌らしい、笑顔だ。



「キャサリンがどうしても、俺たちのパーティにいれて欲しいって言うからさ。ね、キャサリン?」

「ねー、ライアン」



 嘘つけ、なんだその腰に回した手は!!

 なんだそのやに下がった顔は。

 微笑みあうな、この状態でっ!


 ターニャは怒りで顔が熱くなるのを感じた。



「……聞いていた以上にクソ男だな」



 とシャーベットをつつきながらラプラスが呟く。

 ほんとにな、とターニャは思った。



「あっ!」



 と、急にライアンは叫ぶ。



「……なに」

「もしかしてターニャ」

「はい、なんでしょうか」

「おまえ、ヤキモチ焼いてるんだろう!」

「………………はぁっ!!!??」



 ヤキモチ!?

 この状況でこの男の頭はいったいどういう思考回路になっているのだ?



「お前、俺に惚れてたんじゃないのか。図星だろ!?」

「し、死ねとしか言いようがない!!!!!」



 ターニャは悲鳴をあげる。

 何を考えているんだ、この男は!



「いやあ。キャサリンよりはお前の方が魔術師(ソーサラー)としての腕は上かもしれないけどさー。結局、オンナは愛嬌じゃん?」

「うん、うん! オンナは愛嬌よね。ライアンっ」



 キャサリンがライアンにしなだれかかりながら同意する。



「ターニャはキャサリンと違って昔から愛嬌ないもんなー。回復術師(ヒーラー)とかだったら誰にでも出来るし、とっとと転職してどこかのパーティで男見つけた方が良いと思ったんだよ、俺は」



 悪びれもなく、ライアンは言った。

 ああ、胸に泥をつめられたような気持ちだ。



「……、ま、れ」

「だってさオンナが冒険者やるのなんて、どうせ結婚相手探しだろ?」

「だ……、れ」

「だったら、若いうちに手を引いた方がいいじゃん。普通」

「黙れ」



 ――普通。


 その言葉に、ぶつりと何かが切れた。



「え? いま何か……」

「黙れよ、クソ野郎っ!!!」


 ターニャはそう、叫んで。


 肩の大剣に手をかけた。


 体内の魔力を循環。

 足に意識を集中する。

 風属性魔術。

 ――起動。


 ライアンに向かって、突進した。 



「ひぇっ!?」



 ……何が起こったのだ?

 背筋に走る寒気に、ライアンは悲鳴をあげた。


 背後から、ぴたり、と首筋にあたる大剣の刃の冷たさ。

 空間移動、としかいいようがなかった。

 自分は背後を取られたと言うことすら、認知するのに時間がかかった。


 そして。

 大剣を寸分の狂いもなく首筋に当てているのは。

 見知ったはずの灰桜色の髪――ターニャだった。


 ひどい、殺気だ。


 状況を把握した途端に、ライアンはかくんと腰を抜かす。

 遅れて、キャサリンも悲鳴をあげた。



「きゃーっ! なになに今のぉっ」

「……いま、殺してもよかったんだけどね」



 す、とライアンの首筋から大剣を外す。

 店員が「何してるんすか、お客さん!」と怒号をあげた。



「なっ、なっ、お前、剣!? 剣士(セイバー)に転職したのか!?」

「まぁね」

魔術師(ソーサラー)のときだってたいがいだったのに、剣士(セイバー)の女なんてモテねえぞ!?」



 と、ライアン。


 ターニャは思い切り息を吸い込む。

 そして。



「モテたくてやってんじゃねーーーーよ!!! タコ!!!!」



 ターニャの凄まじい気迫の一喝。

 愉快げに様子をみていたラプラスが、「わーお!」とはしゃいだ声をあげる。

 その手にはちゃっかりシャーベットのおかわりが握られていた。



「タコ!?」

「あんたのことをタコっていったらタコに失礼だわ、前言撤回!」



 氷よりも冷たい目で、ライアンを見下す。



「ライアン」

「な、なんだ」

「次のランキング戦で、私は自分のパーティで出場する」

「ランキング戦に? 自分のって……女がリーダーのパーティが出場なんて聞いたことないぞ」

「うるさい。ランキング戦の会場で、吠え面かかせてやるから!」



 そう。

 ここでぶちのめすなんて、もったいない。

 大勢の前で、大恥をかかせて、吠え面をかかせて、命乞いをさせてやる。


 それが、ここまで自分を馬鹿にして。

 軽んじて、そして踏みにじったこの男への復讐だ。



「な……っ」



 沈黙。

 周囲の客からの視線。

 ちっ、とライアンは舌打ちをして立ち上がる。



「くそ、キャサリン。店変えようぜ。気分わりい」

「う、うん」



 ターニャは去っていく背中を睨み付ける。

 かつて、いっしょに冒険者を夢見た幼馴染みの背中を。

 絶対に、泣いたりしたらいけない。

 ここで泣いたら負けだ。



「……そんなんだから、売れ残るんだよ」



 去り際。

 吐き捨てるように、ライアンは言った。


 この期に及んで、寝ぼけたことを。

 ただの。

 ただの、「女」としてしか、人のことを見ていない言葉だ。



「ふっざけんな!!!! 売れ残り上等だ!!!」



 その背中に、叫ぶ。

 さっきの力の差を、見ただろう。

 魔法剣士としての技量は、魔力の量と練度だ。


 魔術師(ソーサラー)としての自分の力量がそのまま適用されたとしたら。

 負けるはずが、ない。


 さっきもライアンの首を落とすことだってできたのに。



「絶対に、ぶちのめしてやるから」



 ぎり、とターニャは唇を噛みしめた。


 と、そのとき。

 後ろからふわりと抱きしめられた。



「オッケーオッケー。ここでぶっ殺さなかったのは偉いぞ、ターニャ」

「ラプラスさん」

「あたし、あともうひとつくらいシャーベット食べたかったし」

「まだ食べるんですか!」

「ターニャは飲み直さなくていいのかい?」



 にんまり、とラプラスは笑う。

 古の大魔女。

 ターニャの、パーティメンバー第一号。

 思えば、なんて心強い。



「祝杯だ。これから始まる、楽しい楽しい復讐劇のね」



 つられて、ターニャも笑う。

 そうだ。

 すっかり酔いが醒めてしまった。

 もう少しだけ葡萄酒をいただこうかな。



 かくして、ライアンへの宣戦布告は完了した。



 さあ。

 これで、あとには引けなくなったぞと。

 ターニャは拳を握りしめた。

お読みいただきありがとうございます。たくさんのブックマークや評価、とても嬉しいです。ちょっとでも萌えていただけたら・・と思っています。

少しでも面白い、続きが気になると思われましたらページ上部からブクマ・以下よりポイント評価などお願いいたします。感想などもとっても嬉しく読ませていただいております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ