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1.王都で噂になっとりまして。

 王都に戻ろう、という段になってターニャは気づいた。



「私たち、めっちゃ不審っすわ!」



「えー、なんでなんで?」

「主にラプラスさんのせいですけどね! どこの世界に常時ふわふわ浮いてる人間がいるんですか!?」

「えっ、ここにいるけど」



 ラプラスは小首をかしげる。

 この大魔女はこっちを困らせようとしているのか天然なのかどっちなんだ、とターニャはため息をつく。



「……それに、この大剣もちょっと目立ちますよ」

「なんで?」

「女で剣士職なんて、ほとんどいないんです。しかもこの大剣……たぶん、注目の的です。悪い意味で」

「どうして女が剣士職にならないんだい? 三〇〇年前には特に珍しいものではなかったけれど」



 はて。

 ラプラスの言葉に、ターニャは言葉に詰まる。そういえば、どうして剣士職だけがほとんど女がいないのだろう。

 ターニャが選んだ魔術師(ソーサラー)でさえ、女性比率は三〇パーセントを切っている。

 女冒険者自体が少ないうえに、そのほとんどは回復術師(ヒーラー)なのである。



「うー、言われてみれば。剣士職ってかなり給料いいのにな……」

「ま、そんなのあたしには関係ないしどうでもいいけどねー。そういうわけで、あたしが浮遊しててもオッケーってことでオッケー?」

「どういうわけですか! ほら、わたしの予備の靴があるんでそれ履いてください。街着用なのでヒールが高めですけど、それくらいは平気でしょう?」



 ラプラスを引き摺り下ろして、靴を揃えてやる。



「えー、本当にこれ履くの? まじで? ターニャちゃんあたしのこと騙したりしてない? これ、ほんとに拷問器具とかじゃない?」

「違いますよ。ほら、その黒いヒラヒラドレスには似合ってますって」



 恥ずかしいから、靴を履くところは見ないでくれよ。

 ラプラスのお願い通りに、ターニャは後ろを向いて待機した。



「さて、ラプラスさんもう大丈夫ですかブッッフォォッ!!!!!!?」



 振り返って目に飛び込んできた光景にターニャは思わず吹き出した。



「ひゃっひゃひゃっ! ちょ、ま、なんですかそれラプラスさん!!?」

「わ、わ、笑うことないだろ! 無理無理、足が痛いよ。なんだこの靴はぁ〜」



 ターニャが指さして爆笑している視線の先には。

 超・ガニ股で生まれたての子鹿のように足を震わせている古の大魔女ラプラスがいた。



「ひぃ~、ヒドイ格好ですよ! ラプラスさん、今のもう一回やって、もう一回!」

「ううう、封印されて以来の屈辱……クツだけに、クツだけにぃっ」



 ふよ……とふたたび浮遊をしながらラプラスは頬を膨らませた。



「いやいや。すみません、思わず笑っちゃって。でも、ラプラスさんヒール履いたことないんです?」

「あたしの時代にはなかったよ。歩きにくくて仕方ないし。それに、あたしはあんまり歩いたことないしね」

「……は?」

「父は宮廷魔法使い、母は大神官の血筋に連なる巫女あがり。あたしも生まれてすぐに天才少女として名前が知れてねぇ。蝶よ花よと育てられて、恵まれた魔力によって大魔女の名を欲しいままにしてたんだ。浮遊魔法を覚えてからはそっちのほうにハマってたし、歩くのが苦手ってことくらい仕方ないじゃないか」

「さらっと実家の太さを自慢されても、こういうときどんな顔していいか分からないのですが」

「仕方ないじゃないかー。あたしが美人ってことと同じく、実家が太いのは本当のことだもの!」

「えっ。いま、美人のくだりいりました!?」



 とりあえず。

 靴を履くだけ履いて数センチだけ浮遊して歩くふりをする、という苦し紛れの策で王都に乗り込むことにした。



 完全に先が思いやられるわ、とターニャは思った。





***





 王都オーデ、騒然。

 飛び交う号外。



「ん、なんか騒がしいな」



 王都の門を潜ってすぐにターニャは異変を察知した。

 人混み。

 ちょっとだけ浮きつつ歩いている振りをしているラプラスの手を引きながら、号外を求めて手を伸ばす。



「なんだろ。なにか事件とか事故とかっひゃああぁあぁぅ!!!?」

「なになに、どうしたの。大魔女様にも見せろよー」

「…………っ、これ」

「んー?」



 手元の号外をのぞき込む。

 ターニャよりも背が高く、しかもちょっとだけ浮遊しているラプラスがそうすると、自然と頬を寄せ合うような形になった。


 その状況にターニャは少しだけたじろぐ。

 大魔女はやっぱり良い匂いがした。



「あ、ちょっと三〇〇年前とは文法とか変わっているんだな。どーれどれ?」






  【号外】西の大荒野で異変 周辺国家の軍部による陰謀か

  本日未明、西の大荒野に生息するワイバーンが何者かに倒されていることがわかった。

  ワイバーンの体長・育成状況から少なくとも一個魔術小隊以上の兵力で襲われたと推測される。

  王立魔導師協会は緊急調査チームを結成し、原因解明と犯人捜索に乗り出した。






「やばいやばいやばいやばいバレたらランキング戦どころじゃなくなる……」



 いや。

 いやいやいやいや。

 これ、まじで完全にヤバいやつでしょ。

 『犯人』とか書かれてるし。

 そうだ、たしかにワイバーンのような竜種はパーティごとに申請をして狩らなきゃいけなかったんだ忘れてた。ちょっとヤケクソおよびテンションあがっちゃってザックリスッパリ斬っちゃったけれど。



「ワイバーンの死体!? なんだよ、高ランク冒険者の仕業ってわけでもないんだろ?」

「一個魔術小隊くらいじゃ、ワイバーンなんて倒せないだろー?」

「いやいや、分からないぞ。ランキング戦に向けてSランク冒険者が王都に集まってきているし」

「しかし、犯人がパーティに属してないようなはぐれ者の冒険者だったら怖いな。はやく捕まるといいんだが……」



 口々に飛び交う噂が耳に飛び込んでくる。

 号外をぐっしゃぐしゃにしつつターニャは滝のような汗を拭う。

 やばいやばい。

 絶対に知られちゃいけないやつだ、これ。

 汗の量が尋常ではない。

 もはや「私が滝です!」というレベルの発汗だった。


 対照的に。

 ラプラスは笑いをこらえきれないようだ。



「うっふふ、大丈夫でしょー。誰がやったかなんてわかりゃしないよ。それより、一個魔術小隊だってさ! あっははは、ターニャがひとりでやっつけたなんて知ったら、連中腰抜かして驚くぞ!」

「シーッ! 声が大きいですよバカなんですかっ!?」

「もががっ」



 あわてて脳天気な大魔女の口を塞いで辺りを見回す。

 幸い、号外に夢中でだれもこちらに注意を払っているものはいなかった。



「と、とりあえず装備を調えましょう!」



 そう。

 このままほっつき歩いていれば、ラプラスの『ちょっとだけ浮遊』がバレるのも時間の問題だ。

 とにかく目立つことは避けたい。



「もっと裾の長いドレスとかローブとかで、足もとを隠しましょう。うんそれがいい!」

「おっけーおっけー。三〇〇年前のまんまだからな、この服。さすがに、おっくれってるーって感じだ」



 ショッピングショッピング~っと浮かれた声をあげて、ふよっと宙返りをしようとしたラプラスに、



「やめい!!!!!!!!!」



 ターニャの渾身のタックルがキマッた。

お読みいただきありがとうございます。

一章~パーティ結成編~、スタートになります!


面白かった、続きが気になると思っていただけましたらページ上部からブックマークしていただけると嬉しいです。評価や感想も励みになりますので、お願いします!


次回はお買い物編。

百合のショッピングは楽しいものです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 割と更地になったはずなんだけど、そっちは触れられてないのねw
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