5.ワイバーンだってらくらく一刀両断します。
手には大剣。
力がみなぎる。
二本の足で立つ大地。
「うぅ、いきなりあんなことをっ。でも今はそんなこと言っている場合じゃないし……いくぞっ!」
ターニャはなんとか先ほどの甘美なキスの感触を頭から追い払い。
たっ、と地面を蹴る。
身体が、軽い。
ほとんど魔力は尽きているはずのターニャは、確信した。
――勝てる、と。
魔力を体内に巡らせる。
足に、風属性の魔術を展開する。
それだけで、信じられないくらいに加速した。
自分が一陣の風になったようだ。
三分前に転職したとは思えない身のこなし、である。
その背中を見ながら、ラプラスは自分の見立てが間違いではなかったことを確信してひとりごちる。
「うん、いいかんじ……魔力を魔術に変換するときに、詠唱による時間的なロスの他に変換エネルギーの消費により魔力効率にロスが生じる。彼女がいくら優秀な魔術師だったとしてもだ。だが、魔法剣士であれば……彼女の膨大な魔力と精密な魔術をすべてロスなく『剣技』に変換できる」
ワイバーンとの間合いを一気につめる。
ダン、とターニャは地面を蹴る。
口づけによって体内の魔力をかき回され、魔法剣士としての職業に最適化された。
訳も分からぬままにラプラスが周囲の素材から錬成した大剣を持たされた。
『このラプラスの手心はあるが、君、魔法剣士としてすでに最上級レベルかもしれないね。うふふふふ~』、と。人の唇を奪ったことには一切触れずに笑うラプラスには脱力感と殺意が湧いたが。
しかし、蓋を開けてみれば。
魔術師としてずっと振るっていた杖以上に、大剣は手に馴染んだ。
自分でもビックリするくらいだ。
高く、高く、跳び上がる。
荒れ狂うワイバーンの遙か頭上まで達し――落下の勢いのままにワイバーンの首を狙った。
人間業ではとうてい到達できない動きだ。
遠目でそれを見て、ラプラスは楽しげに宙返りをする。
「ほぉ。さては風属性の魔術で飛翔をブーストしてるね。さっすがー」
ターニャは体内の魔力を練り上げる。
なるほど、これであれば残り少ない魔力でも十分にワイバーンを屠れる。
「でりゃああぁあっ!」
体内のみで編み上げられる魔力は、効率的にその大剣に込められる。
いける。
この巨大な竜を、魔力を込めた剣で切り捨てる!
ターニャは確信し、叫んだ。
「喰らえっ! 【灰燼裂罪・斬】!」
ターニャの手に伝わるのは、あまりにもあっけない感触。
あがるは、血しぶき。
追って、【灰燼裂罪】と同レベルの魔力を一刀に込めたことによる魔力的な爆発。
そして
ワイバーンは断末魔もなく地に墜ちて。
そこには、大剣を片手に佇む灰桜色の魔法剣士と、
「あっはは、すごいすごーい」
ぱちぱちと間の抜けた拍手をする古の魔女がいるだけだった。
ターニャは振り返って楽しげに笑うラプラスを見る。
なるほど、彼女とパーティを組めばどんな復讐でも適うだろう。
「まじで、あの人と旅するのかー」
完全に現代の常識では計れない古の魔女との旅路に、少しだけ不安をつのらせた。
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これにてプロローグは完結。
次回からは晴れて魔法剣士になったターニャと大魔女ラプラスがパーティメンバーを集めます。
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