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1.回復術師に頼まれまして

まずはナディーネ編です。

 森の中に、藤色の髪を三つ編みにした女が立っている。

 眼鏡の奥の表情を読み取ることは出来ない。


 新鮮な朝の空気を、一閃切り裂く音が響く。


「……っふ、」


 小さく吐いた吐息。

 ナディーネの放った投げナイフは、一見すると無造作にも思える軌道を描く。

 しかし。


 タス、タスタス。

 と。そっけなく乾いた音。

 木の幹に突き刺さったナイフは、先ほどまで宙を舞っていた落ち葉の寸分違わぬ真ん中を縫い止めていた。


「ふっ!」


 追加で放った投げナイフが、ひらりと遅れて舞い落ちた枯葉を貫いた。

 神がかりとでも呼べる手腕である。


 とはいえ、ナディーネのそのナイフ捌きを知るものはこの世には多くない。

 投げナイフというのは最後の手段だ。

 謀殺、毒殺、その他諸々。それでも失敗したときに、暗殺者(アサシン)の刃は対象者(ターゲット)を貫く。

 その鮮やかさに感嘆するよりも早く、――かつての標的たちはこの世を去っていった。

 ナディーネのナイフ捌きを知るものは、この世には(・・・・・)多くないのだ。


「お見事です。ナディーネ様」

「っ、リエルさん」


 うわあ、まじか。ナディーネは思う。

 一瞬……背後を取られていた。

 暗殺者(アサシン)――自他の気配の取り扱いについてはもっとも優れた職業(ジョブ)についている自分に気配を悟らせずに声をかけるなんて――人造少女は気配遮断の術でも持っているのか、それとも。


「リエルさんっ!? 驚かせないでくださいよ~」

「ナディーネ様に、朝食をお持ちしました」


 あ、スルーですか。

 少しだけラプラスに似ている銀髪のメイドは、職務に誠実で――いつも表情を少しも崩さない。

 まるで、少しでも笑ったらピキリと顔面にヒビでも入ってしまうかのように。


 ふむ、とナディーネは思う。

 凍り付いた表情。

 職務への驚くほどの忠実さ。

 誰かに、似ているな。


 そう――、そうだ。

 リエル。彼女は――かつての自分(・・・・・・)にそっくりだ。



***



「料理を、教えて欲しい……ですか?」


 王都オーデの高級住宅街。

 SSランクパーティ、リリウム邸。

 その厨房で告げられた言葉に、この家の家事一切を取り仕切っているリエルは首を傾げる。

 きれいに切りそろえられた白銀色の髪が揺れた。


「はい。実は、お恥ずかしながら今まで料理というものをしたことがなくて……」

「はぁ」


 依頼主は、ナディーネ・アマリリス。

 SSランクパーティの回復術師(ヒーラー)にして、その手腕は……レベル3。

 平均値といわれるレベル20にも遠く及ばない。

 しかし、その実態はかつて王家の懐刀と呼ばれた暗殺者(アサシン)一族の一子相伝を受け継いだ女暗殺者である。


 それが、どうして料理?


「恐れながら、ワタクシの料理に不備がございましたでしょうか」

「いえいえ、違うんですっ!」


 ナディーネはぶんぶんと両手を振って否定する。


「いつもすごく美味しくて! それで、だからこそリエルさんに料理を習いたいんですよ」

「料理でしたら、キャサリン様に習った方がよろしいのでは」


 リエルは言う。

 狐魔術師のキャサリン・フォキシーの実家は老舗の名居酒屋小狐亭である。店主は彼女の祖母で、キャサリン自身も厨房を手伝うことがあると聞かされている。

 そして――、ナディーネはそのキャサリンと非常に仲がいいはずだ。

 リエルは詳しいのだ。

 なぜなら、『あのお二人は要チェックですっ!』と上司である(シスター)・アリエノーラに言い含められているのだから。


「いえ……キャサリンさんには、秘密にして欲しいんです」

「秘密、ですか」

「はい。実は、私もキャシー……あっ、キャサリンさんと一緒に小狐亭をお手伝いすることがありまして」


 いまキャシーって言った。キャシーって言った。

 リエルは見逃さない。

 報告事項としてあとでメモを取らねばなるまい。


「それで、常連さんたちが集まるお花見にお呼ばれしたんです」

「お花見ですか」

「えぇ。今度、アディマス川のほとりで」

「それで、なぜ料理を」

「持ち寄り式なんです、そのお花見が」

「持ち寄り式?」


 知らない単語だった。

 常識といわれるものをすべてインプットしているはずのリエルであるが、世の中の全てを知っているわけではない。


「参加費は取らないのですが、そのかわりにそれぞれがお酒やお料理を一品ずつもちよって、それをみんなで食べる形式の宴会ですよ」

「ふむふむ」

「それで、私もお料理をと思うのですが……」


 なるほど。

 キャサリンは主催の小狐亭としてそちらの準備でかかりきり。

 ナディーネはというと。


「キャサリンさんが……『ナディの作ったの、楽しみじゃん!』って……」


 いまナディって言った。ナディって。

 リエルは見逃さない。


「なるほど……わかりました。お引き受けいたします」

「ホントですか!」


 こくり、とリエルは頷く。


「では、明日からさっそく特訓をしましょう」


 これは、――アリエノーラに濃厚な報告ができそうだ。





お読みいただきありがとうございました!

リエルが「好き」を見つける物語。視界はナディーネとターニャが『あのモンスター』をぶっ倒します(食材にするために)。

面白かった、続きが気になると思っていただけましたらぜひブクマや感想、評価お待ちしております!


***


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