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【書籍化&コミカライズ】女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました!  作者: 蛙田アメコ
4章 ~モラハラクソ男マクスウェルとの対決だって圧勝します①~
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5.なんだか話が大きくなってきました。

キャサリンさん、ピーンチ!

ラプラスさん、深刻!


「これはこれは。珍しい客人もあったものだ」



 オーデ城の地下に広がるおぞましい施設。

 そこから離脱しようとしたナディーネとキャサリンの耳に。

 青年の、低い声が響いた。

 やたらと平坦な抑揚のない声だった。



 立ちふさがる影に。

 キャサリンの足はすくんでいた。



「クラーク……なんであんたがっ」



 かつて、ライアンのパーティの傭兵としてともに戦った黒鎧の男、クラーク。

 なぜ。

 どうしてこの男が、オーデ城に……しかも、隠し階段に立ちふさがっているのだ?

 闘技場ではみえなかった顔。それが、兜を取り払われてほの暗い照明に浮かんでいる。


 キャサリンは思った。


 存外に顔がいい! ――けれど。

 けれど、その昏い瞳が。

 あまりにも、あまりにも恐ろしいのだ。



「逃げて」



 ぽつり、と。

 ナディーネが言った。



「は?」

「逃げてください……あれは、いけない」


 逃げて。

 この女は、そう言ったのか?

 キャサリンはその言葉に胸が詰まりそうになった。



 女冒険者として、ときにはパーティの紅一点としてやってきた。

 何度となく。

 それこそ、何度となく聞いた言葉だった。



『危ないぞ、女は下がってろ』

『ここは男衆でどうにかするから、女は逃げろ』



 それは、たしかに気遣いだった。

 けれど。けれど、その言葉は、いつもキャサリンを無力感に置き去りにしたのだ。


 男は強くなくっては。

 女を守らなくては――女は、守られていなくては。

 幼い頃から入り浸っていた、祖母の経営する居酒屋『小狐亭』。

 毎夜毎夜。

 顔を赤く染めたオジサンたちは、幼いキャサリンにそう言って聞かせた。


 キャサリンちゃんは美人だから。

 いい旦那を捕まえられるなぁ。

 イイオトコに、守って貰えよ。


 それは、難関である魔導師学園に入学してからも、冒険者学校に通ってからも、冒険者になってからも。

 ことあるごとに、聞かされた言葉だった。


 ――でも。

 でも、本当は。

 キャサリンが本当に望んでいるのは。



「……逃げて」

「えっ? ちょ、キャサリンさん?」



 キャサリンは、表情一つ動かさない黒鎧の男に向けて杖を構える。

 本当は、自分が、やりたかったことは。



「逃げるのは、あんたの方! 私が隙を作るから、あんたの……ナディーネの身軽さなら、逃げられるでしょ!」

「っ、そんな……いけませんっ!」



 ――誰かを守る、自分になりたい。



「あれを見たのなら、逃がすわけにはいかんな」



 クラークは無機質に言い放つ。



「……黙れ。白狐の秘術、みせたげるしっ!」

「っ、キャサリンさん!」

「ナディーネ、走れっ!!!」



 刹那。

 キャサリンの杖から白い光が炸裂する。


 目くらまし。

 一瞬の、隙。

 ナディーネは、走った。

 闇討ちを得意とする自分に気配を悟らせなかったあの黒鎧。

 一体、何者だ?


 逃げろ、と偉そうに言ったけれど。

 正直な話をすると、あの状況でナディーネにクラークと戦ってキャサリンを逃がせる算段はなかった。


 おそらくこれが……いまとれる、最善の動きだっただろう。


 背後で炸裂する魔術。

 キャサリン、どうか、どうか無事で。


 ナディーネは、振り返らずに、走る。

 急いで、急いで。

 はやく、ターニャたちと合流をしなくては。




***




「逃げろ、って~?」



 一体、どういうことだい?

 ラプラスは首をかしげた。


 ターニャにも、目の前の少女……アリエノーラ・アウェイグコートが何をそこまで焦っているのか。

 何にそこまで怯えているのか。

 サッパリ分からなかった。


 ラプラスの名前を出した途端に、一体どうしたというのだ。



「この大魔女様に尾っぽ巻いて逃げろだなんて、ずいぶんなアリエノーラちゃんだなぁ~」

「ええ。あの、アリエノーラ様。たぶん、貴女が思っているよりもラプラスさんも私も強いですよ……?」

「イエスイエース、キミだって見たでしょ。ターニャさん大活躍のランキング戦とか~」



 うんうん、とターニャは頷く。


 そう。

 簡単に負けるはずがない。

 不老不死を手にしたという、かつてラプラスを封じた宮廷魔術師とはいえ。


 単純な戦闘力でこちらが負けるとは思えない。



「でも……ダメなんです。逃げて……」



 明らかに怯えているアリエノーラに、ラプラスはハフンと溜息をついた。



「あー。オッケーオッケー。せめて、状況を教えてくれるかな~? あたし、今すぐにでも、おとう……マクスウェルをぶん殴りたくて仕方ないんだよね~」



 ラプラスの言葉に。

 ちらり、とアリエノーラは視線をさまよわせる。

 その先にいるのは、縛られて声を出すこともできない侍女のヴィス。



「彼女に、聞かれちゃまずかったり?」

「……いいえ」



 視線の先。

 アリエノーラの視線に応えるように、ヴィスが静かに頷いた。


 ――なんだか、読めない女だな。

 ラプラスはその様子を見て思う。

 彼女は、ヴィスとかいう女はどうにも……そう、言うならば『チグハグ』な印象を受けるのだ。

 まあ、理由はどうしてだか分からないが。



「手短に、お話しいたします」



 静かに、アリエノーラ第一皇女は語る。



「もちろん今から話すことは内密に。そして……これを話すからには、ターニャ様、ラプラス様。お二人には、オーデ国第一皇女であるわたくしを思い悩ませているこの事象を解決して欲しいと。そう、このアリエノーラは思っております」



 とつとつと言葉を紡ぐその表情は、11才の少女ではなくオーデ王国第一皇女……国を導いてきたアウェイグコート家の人間の顔だった。



「マクスウェル様……いえ、マクスウェルが三〇〇年かけて造ろうとしてきたのは、おぞましい兵器です」

「兵器?」

「ええ。ラプラス様、万が一にも貴女がマクスウェルの手に落ちればオーデ王国は瞬く間に彼の手に落ちるでしょう」



 物騒な言葉が続く。

 ターニャは慌てて口を挟んだ。



「あのう、ちょっと話が読めないんですが……」



 その言葉に、アウェイグコートはふうと小さく嘆息する。

 自分を落ち着かせるように。



「……失礼。わたくしとしたことが、言葉が至らなかったですね」



 アリエノーラは語る。

 かつて完成した、ラプラスという兵器。

 手が届きかけた、不老不死。


 彼がそれを再現し……量産しようとしているのだと。



「量産? このあたしを? 超絶美人大魔女のラプラス様を?」

「はい。マクスウェルは、ラプラス様を封印したことを悔やんでいました」

「ほー?」

「……不老不死を達成するための部品として、ですけれど」



 部品か、と。ラプラスは苦笑する。

 まあ、妥当な認識だよね、と。



「ラプラス様はマクスウェルに従順ではあった。けれど、それは単に……【反抗しなかった】だけだと。そうマクスウェルは考えているようです。ラプラス様はどこか、反抗的な目をしていたのだと。

 だから、三〇〇年間、不老不死と意のままに操れる【疑似ラプラス】の研究にマクスウェルは明け暮れていました。国家の予算を食い物にして……そうして完成したのが、【私たち】です」

「……【私たち】?」

「はい。【私たち】は、ラプラス様を再現するためだけに造られた器、なのです」



 ただし、と。

 アリエノーラは言う。



「ただし、【私たち】は当面は完成するはずのない器だったのです。完成のためにはラプラス様の血が必要だと、そうマクスウェルは言っていました。……あの堅い封印を解くことができなければならないのだ、と」



 語られる、重苦しい話。

 ターニャは、密かに思った。


 ――自分でした封印解けないんだ、と。

 マヌケかよ、と。



「ラプラス様の復活は、おそらくすでにマクスウェルが知るところになっています。お願いです、ラプラス様の血さえなければ、【私たち】は平穏にこのオーデ国を存続させ続けるだけです」



 だから、逃げてください。

 あるいは――マクスウェルを、倒してください。



「マクスウェルが【私たち】を完成させるようなことは、あってはならないのです」



 ラプラスは。

 ふぅん、と歌うように唸る。

 なるほど、地位や名誉では飽きたらずいまだに不老不死を求めるか。

 不幸な少女を生み出し続けるだけではなくて、国家までもその毒牙にかけようとするか。

 マクスウェル。

 三〇〇年かけて、腐りに腐った気配がするぜ、と。



「オッケーオッケー。確認しとくと、あたしはどうせマクスウェルの野郎をぶん殴る予定だし、なんならぶっ殺す予定だよ? 不老不死なんて生意気~」



 だから。

 教えてくれよ。



「その、【私たち】っていう不穏な話。ちょ~っと大魔女様に聞かせてごらん?」

お読みいただき、ありがとうございます。

次回、アリエノーラ皇女殿下のヒミツが明かされます。次章『モラハラクソ男マクスウェルとの対決も圧勝します②』でラプラスさんの復讐がバッキバキに成されますので、よろしくお願いいたします(ライアンのときみたいにお茶目ではいられませぬ)。



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