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狐娘は昼下がりにもの想う

ちょっとした百合回 (ナディーネとキャサリン) ってハーナシ。

 小狐亭。

 王都オーデの片隅。お忍びでグルメ貴族もやってくると評判の名店である。

 もとは小料理屋だったこともあり、店が大きくなって食堂居酒屋となった今でも厨房と客席はカウンター形式で接している。


 時刻は夕方少し前。

 お客が誰もいない店内。

 エプロン姿でカウンターのひとつに腰掛けて。

 ぼんやりと頬杖をついているひとりの女。


 年は二十歳前後。

 豊かな金髪。

 大きな狐耳。


 ――キャサリン・フォキシー。

 魔術師(ソーサラー)である。



 ころん、からん、と店の入り口のベルが鳴る。

 入店してきたのは、女が三人。



「……いらっしゃいませぇ」



 客に声をかければ、そのうちの一人。

 灰桜色の魔法剣士は目を見開いてすっとんきょうな声をあげた。



「キャサリン!!?」



 その後ろにランキング戦で『世話になった』藤色お下げ髪――ナディーネの姿を見つけてキャサリンは頬が熱くなるのを感じた。

 意識しているわけじゃない。断じてないけれど。

 闘技場のトイレでの出来事を思い出すと、照れくさいような、恥ずかしいような、……嬉しいような?

 そんな心持ちで、胸がふわふわした。



「あれ、キャサリンさんっ。わあ、奇遇ですね……でも、どうして?」



 当のナディーネに声をかけられて、思わず目をそらしながら。

 キャサリンはもじもじと言った。



「どうしてもこうしても……ここ、ウチの実家だし?」



***



「コーヒーと木苺パフェとハンバーグ、お待たせでーす」



 キャサリンは慣れた手つきで配膳する。



「うわー、パフェ美味しそう。でもまさか、小狐亭であなたに会うなんてね」



 ニコニコ顔でターニャが言う。

 ため息混じりに、キャサリンは答える。



「ここ、ウチのお婆ちゃんの店なんだけどね。お婆ちゃんがぎっくり腰だっていうんでヘルプに来てるの」

「ふーん。でも、パーティの方はいいの? あなたがいないと魔術師(ソーサラー)不在なんじゃ」

「…………辞めた」

「ふぇっ?」

「だから、辞めたっつってんの」



 キャサリンは吐き捨てるように言う。



「あのパーティにいるメリットなんて、もうないし。ライアンもクソみたいな男だしね、いい加減、ランキング戦で目が覚めたわ」



 それに。

 もしかしたら、女の自分だって「オトコ」を気にしないで冒険をしてもいいのかもしれないと。

 リリウムに教えられたから。


 ……照れくさいから、それは言ってやらないけど。



「まっ、お婆ちゃんも年だし。しばらくは手伝いでもしようかなってね」

「お婆ちゃん、おいくつなの?」

「一八二才」

「まじかっ!!?」

「獣人族のなかでも狐……ウチは白狐(びゃっこ)の家系だから長寿だし?」

「ち、ちなみにキャサリンは……?」

「私はまだ二〇才」

「おおっ、見た目通り!!」

「なんだよー、せっかく高齢者仲間かと思ったのにー」

「はい、そこの美女! 高齢者とか言わない」

「いえーい。どうだいどうだい? 美女にはブラックコーヒーが似合うでしょ~」

「え。謎理論……さすがに戸惑うわ……」



 パフェをつつきながらターニャは楽しげだった。

 ナディーネの方も、「うま、はんばーぐ、うまいです……」とブツブツ言いながらハンバーグを楽しんでいる。

 味付けが気に入ったのか、付け合わせの揚げた芋にソースを一心に絡めている真っ最中のようだ。


 他愛のない世間話。

 【リリウム】の面々に、キャサリンは怪訝な顔をした。



「あんたたちさ」

「うん?」



 どうして、敵対していた自分とこうして話すのか?

 まるで、何事もなかったかのように。



「いやぁ、まあ。私もライアンに復讐するっていう目的は果たされたわけだし。ナディーネのこと馬鹿にしたのはダメだけど……」

「むぐ……ふぉれは、私的にはもう、ぜんぜん大丈夫でふ」

「って、ナディーネも言ってるしね」

「冒険者学校時代から、キャサリンさんは努力家で。お友達になってみたかったんですよ」

「それにさ、そうそう!! あの魔術っ! 狐火を魔術体系のなかに取り込んでるの? あれについて話したかったんだよ!!」



 ターニャが目を輝かせた。



「っ、そっそれは企業秘密だしっ!? あといまバイト中だからっ」

「ちょっとだけでいいからさー!! お願いお願い!!」

「あはは……。あの、キャサリンさん困ってますしその辺で……」



 助け船を出してくれたナディーネに目をやると。

 ハンバーグ、綺麗に完食していた。

 ソースの痕跡も見当たらないくらいに、ぴかぴかに。

 視線に気付いたナディーネが恥ずかしそうに首をかしげる。



「あ、あの。美味しかった……です」

「っ、そう」

「はい。特に、ソースが美味しくて」

「っ!!! ホントに!?」



 キャサリンは思わず身を乗り出した。

 今日のソースの仕込みをしたのは自分だ。

 冒険者学校に通う前は、毎日のように小狐亭で祖母の働く様子を眺めていた。

 魔法のように作られていく美味しい料理は、幼いキャサリンの憧れだったのだ。



「え、これ。キャサリンさんが作ったんですか?」

「そ……そうだけど」

「すごい!!!!!!!!!!!!!!!???」



 ナディーネが叫んだ。

 どちらかといえば物静かな彼女の大声に、ターニャが「ひゃんっ!?」と驚く。



「私じつは料理とか全然できなくてっ! というか、その……『家の仕事』以外はあまり取り柄がなくてですねっ。すごい……こんな美味しいものを作れるなんて。キャサリンさんはすごいです!!!」

「そ、そんなに褒めても、なにもでないしっ」



 ナディーネに、キラキラした瞳で見つめられて。

 そうすると、何故だかぽっぽっと頬が熱くなるような気がして、キャサリンはぱたぱたと手で顔を仰いだ。



「も、もしよかったら今度お料理とか、教えてくれませんかっ!」

「……考えとく」

「あー、ナディーネずるい!! 私も狐火球(ファイアボール・狐)のこと教えて欲しいのにー!」

「企業秘密だって言ってるじゃん!!? っていうか、ナディーネ。あんたも料理なんかより回復術(ヒール)の訓練しなよ、何あれ? 全っ然効かなかったんだけどっ!?」

「う、っ……そうですよね……いまだに回復術師(ヒーラー)レベルは3のまま……役立たず……うぅ」



 しょぼ、と肩を落とすナディーネ。

 その様子に、「しまった、失言だった」とキャサリンは焦る。



「ま、まぁ! 私も料理は修行中だからさ。人に教えたらもっともっと上達するかもだし? 今くらいの時間に来てくれたら……まあ、教えてあげなくも、ないけど」

「ほんとですかっ!?」

「その代わり、回復術(ヒール)の訓練もしなさいね!?」

「はいっ!」

「あ、あとあとっ! あんた肉料理好きなの? 試作品の鶏の香草焼き食べる?」

「食べっ!!! ますっ!!!!」



 なんだか仲むつまじいキャサリンとナディーネの様子に、ターニャとラプラスは「いいないいなー」と頬を膨らませた。




***




 まるで、旧知の友人のように。

 四人がじゃれあっていると、入り口のベルが鳴る。



「あっ、いらっしゃいませ!」



 慌てて接客に戻るキャサリンに、常連らしい客のひとりが世間話を振った。



「なあ、聞いたかい? 魔道具屋に盗人が入ったらしいよ。物騒だねぇ」

「へえ、何か盗まれたんですか?」

「うん。なんでもさ、オリハルコン金貨らしいよ」



 オリハルコン金貨。

 その言葉に、ターニャは反応する。



「あ。その魔道具屋さんって、あの通りにある……?」

「そうそう、お姉さん情報が早いねぇ」



 間違いない。

 ラプラスの持っていたオリハルコン金貨を売った店だった。


 ――なんとなく、ひっかかる。

 ターニャは、ラプラスの様子をうかがった。



「…………それはそれは。運のないご店主だねぇ」



 静かに良いながらコーヒーを啜るラプラスの横顔は。

 ターニャが見たこともないくらいに、冷え切った表情をしていて。



「ラプラス……さん?」

「うん?」



 薄く微笑むその瞳は。

 どこか、やっぱり冷たくて。



 ――ターニャは、不安を覚えた。

 ラプラスが、何も告げずに、いつかどこかへ行ってしまうのではないかという不安。







 そして、その不安は。




 的中することとなるのである。

お読みいただき、ありがとうございます! 今回はちょっとした息抜き回でした。

ちょいちょい、こういう百合日常回をいれていけたらいいなーと思っています。


次回から4章に突入します。ラプラスさんの過去の因縁が明かされる予定です。シリアス成分ありですが、悲しいことにはならずターニャがパワーでラプラスにかつて降りかかった理不尽をぶっ飛ばす!! ……とか。そんんなかんじになる予定です。


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