表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/46

4.第三試合【大将戦】は一方的なお仕置きプレイでして。(2)

 ターニャへの声援で揺れる闘技場。

 抜き身の大剣を無造作に構えたターニャの前に、ライアンは無様に尻餅をついていた。


 ターニャがゆっくりと一歩距離を詰めれば、「ひぃっ」と間抜けな声をあげてずりずりと後ろに下がる。

 三歩、同じことを繰り返す。



「ひっ!?」



 ライアンの背中が、壁にぶち当たった。

 観客からはトドメの一撃を期待する大声援が降り注ぐ。


 ……あっけない。

 あまりに実力不足。


 パーティの切り盛りも戦闘も、ほとんどをメンバー任せにしていた男。

 パーティの切り盛りも戦闘も、すべてを一手に担っていた女。


 勝敗など目に見えていた。



 『おまえ、今日でクビな。だって、おまえは女だから』



 ライアンの勝ち誇ったような声が蘇る。



「ふふ……、楽に負けられるとは思わないことだよ」

「あ……あ……」



 見下ろす冷たい視線。

 振り上げられる大剣。

 ライアンは間抜けな声をあげてガクガクと震えた。



「レッツ・ショーーーターーーーイム♡」



***




「……………こんな屈辱、あるかよ」



 嘲笑の嵐の中。

 ライアンは膝から崩れ落ちた。


 あまりにも惨い。

 酷すぎる。


 ターニャから命じられたもの。




 それは。




 何故かターニャが保管していたライアンが十二才のころのポエムノートの音読、だった。




 黒歴史ポエムの! 朗読!

 公衆の面前で!!

 鬼か? 悪魔か?


 「ヒッヒッヒ!」と爆笑しているターニャを空恐ろしい気持ちで見つめる。

 大闘技場いっぱいに居たたまれない空気が蔓延していた。

 いっそ殺してくれ、とライアンは思った。


 くそ、どうにか。

 どうにか、見返してやる。

 ライアンの手が、かろうじて燃え残っていたズボンのポケットに伸びる。

 忍ばせておいた、『奥の手』。



「……くそ。これでも、食らええぇえっ!」

「おっ!?」



 取り出したのは、手のひら大の球。

 魔導具のなかでも、圧縮した魔力と火属性魔術の術式が組み込まれているものでーーいわゆる。


 爆弾(ボム)、と。

 呼ばれるものだった。



 ターニャの足もとに放られた爆弾が。

 ――爆音ととも炸裂する。


 ドォオン、という短い重低音。

 観客席から悲鳴と怒号。

 爆弾(ボム)は、地下迷宮の通路封鎖や対ドラゴン等の大型モンスター討伐にも使われる高威力の魔導具である。


 間違っても、このようなランキング戦で剣士(セイバー)が持ち出すような武器ではないのだ。



「は、ははは……やった。やったぞ!」



 ライアンの高笑い。

 追い詰められていたとはいえ。

 幼馴染みでありかつてのチームメイトであった人間に爆弾(ボム)を向けた男の高笑いだ。



「あ、あいつが悪いんだ……こっちが我慢してればいい気になって。生意気言うとこうなるんだ。はは、はははは!!!」



 ざわつく大闘技場。

 なんて卑怯な。

 このまま、ライアンの逆転勝利か。

 観客達がそう思い始めた、そのとき。




「お~~~っと!? ライアン選手なんと剣士(セイバー)職に登録していながら爆弾(ボム)を使用しましたー!?」

「うわー、引くわー、卑怯だわー。ヘイヘーイ、自分の腕で勝負しろー」



 再び。

 ナディーネ(実況)とラプラス(解説)が再び大音量で闘技場をジャックした。

 屋台メシをつまみに飲んでいた酒が回り始めたのか、よりテンションが高まっている。

 そして。

 その声は、あくまで太平楽。


 【リリウム】のリーダーが至近距離で爆弾(ボム)を喰らってしまったというのに、だ。


 ――なぜなら。






 いまだ燃え上がっている爆炎。

 巻き上がる砂埃。

 観客のなかには、「まさか、ターニャがこんな形で負けるとは」と愕然としているものもあった。


 しかし、砂埃が晴れて。

 そこに立っていたのは。



「…………おい」

「………………ヒッ!!!!!??? ターニャ? え、は?」

「何してくれてんですかね~~~~~~~!!!!?????」



 無傷の。

 完全に無傷のターニャだった。




「ターニャ選手、無傷! 無傷ですっ!!」

「ふっふっふー。このヴィーナス・ビューティホー特注の装備はあんな爆弾(ボム)ごとき完璧にガードできちゃうんだなぁ、これが~」

「なるほど、これは従来の女冒険者向けの装備にはできない芸当です!」

「イエスイエス、しかもこの装備はお腹も冷えないからねー。つよい」

「スバラシイですねっ!」

「通信販売をご希望の方は、いまならヴィーナス・ビューティホー限定ブロマイドをトクベツ大サーヴィス~」



 えー、いいなー。ほしいー。

 女冒険者達の声が観客席から響く。

 男たちもヴィーナス・ビューティホー限定ブロマイドの情報にそわそわしはじめた。


 一方。

 闘技場では――あわれライアンが完全に墓穴を掘りきってしまっていた。



「いや、あのっ。さっきのは……っ!」

「あはは、いやいや。いいのいいの。ライアンに正々堂々とした勝負とか求めているわけじゃないし? 剣士(セイバー)として戦ってもらっても逆にへっぽこすぎて困るし? ただちょっとさー、やっていいことと悪いことがあるんじゃないかなって? 思うわけですわ、私は!!」



 ターニャの背後。

 ゴゴゴ……と。目に見えないエネルギーの流れが大地から立ち上っている。


 うつむいているターニャの表情はうかがい知ることはできないが。

 「ひひ、うひひ……」と不気味な引き笑いをしているのを耳にして。


 ライアンは、完全に死を覚悟した。




「――黄昏より来たれ破滅の王」



 上級魔術【灰燼裂罪(エクスプロージョン)】。

 使い方と練度によっては、城でも軍でもおとせる一発である。

 ターニャは詠唱を紡ぐ。

 魔法剣士としてのターニャであれば練り上げた魔力を大剣に注ぐだけでことたりる。

 しかし。



「塵は塵に」



 卑怯な闇討ちでもなく。

 正々堂々、正面から。

 ――努力して磨き上げてきた魔術で、この男をぶちのめしてやりたかった。


 魔法剣士として最適化された体内の魔力循環ゆえに、魔術師(ソーサラー)職のときよりも慎重に、丁寧に詠唱を編んでいく。


 杖のかわりに、剣に魔力を集中して。


 練り上げた体内の魔力が、徐々に魔術的エネルギーに変換されていく。



「灰は灰に」



 腰を抜かして「助けてママ……」と怯えるライアンの表情に快感を覚えて、口の端がにちゃぁ……と上がってしまう。



「我が言の葉に応えて――」

「や、やめろ……やめてくれ、ターニャぁあっ!! 天引きしてた分の給料払うからっ!!」

「その鉄槌を振るえっ!!」



 カッ! と。

 眩い閃光が剣の先から発せられ――



「――【灰燼裂罪(エクスプロージョン)】!!!!!!!」

「今度、好きなバッグとか買ってやるからあぁああああ!!!」

「そういうところだライアン(クソ野郎)!!!!! 死ねぇええっ!!!!!!!」


 大剣を振り下ろすその瞬間。

 どうしてだろうか。ラプラスの指が鳴るのを聞いた気がした。



 一瞬の静寂。



 ――ドゴォオオオオンン! と、凄まじい地響きとともに光の柱が天高くそびえる。

 観客達の悲鳴とも歓声ともつかない叫びが闘技場を満たす。

 爆発の方向までも上方にコントロールした、見事すぎる魔術。


 ライアンは一筋の光となったのだった……。



 先ほどの爆弾(ボム)とは比べものにならない砂塵のなか。

 ターニャは装備の裾をはためかせて立っていた。

 灰桜色の髪がなびく。


「ターニャさーーん!!」

「すげぇええ!!」

「おめでとう! おめでとう!!」


 闘技場から、大喝采が降ってくる。

 砂塵が晴れると、「ぐぇ……」と小さく呻く黒焦げのライアンが姿を現した。


 服は完全に消し飛び――、よりにもよって、仰向けで倒れていた。



「うわ、ご覧ください! だらしない身体、まぎれもなくだらしない身体です!?」

「あははー、着やせするタイプなんだね。彼」


 そんなラプラスとナディーネの声がかき消されそうな声援だ。



「というわけで、実況はワタクシ、ナディーネ・アマリリスと」

「解説は絶世の美女ことヴィーナス・ビューティホーでした~」



 誰かが観客席で、「ざまあみろ!」と叫んだ気がした。

 せやな、と。

 ターニャは思った。




「しょ、勝負あり!!!」




 審判の声が響き、またひときわ喝采は勢いを増す。



 ランキング戦決勝戦、【大将戦】。


 ライアン・ダース

 vs

 ターニャ・アルテミシオフ


 一方的な展開のもと。

 そして、ライアンの自作黒歴史ポエム朗読および無能リーダーっぷりの暴露という社会的な死のもとで。


 ターニャ・アルテミシオフの勝利となり。

 優勝パーティは【リリウム】に決定した。

 ランキング戦の優勝が、結成から僅か数ヶ月。

 ――出場メンバー全員が女性という史上初の快挙だった。



***



「ターニャ!」

「ラプラスさんっ!」



 戻った控え席。

 熱い抱擁。



 成し遂げた復讐に頬がほころんだ。



「あっはっは~。ライアンのポエムは傑作だったね!」

「ホントです。んふ、うふふ。漆黒! 堕天使!! 十字架!!」

「ちょ、ナディーネやめてっ! 笑っちゃうって」


 けらけら、と三人で笑い合う。


「ねえ、ラプラスさん?」

「んー?」

「結界、張ったでしょ」


 ターニャの言葉に、ラプラスはイタズラっぽく笑う。

 そう。

 ライアンに【灰燼列罪(エクスプロージョン)】を放つ瞬間。

 たしかに、彼の周りに結界が張られたのを感知したのだ。

 あの無能にそんなことはできるはずもなく。

 そもそも、魔法陣も術式もなく結界作成などという離れ業ができる人物など、ほぼひとりだけしか心当たりはなく。



「おやおや、バレてた? さっすがターニャだなぁ」

「そりゃあね。【灰燼列罪(エクスプロージョン)】の直撃を喰らって人の形を保っているなんておかしいから」

「はははっ! 物騒なこと言うなあ~。そういうところ好きだよ」

「そりゃあ、どうも」

「だって……殺す気まではなかったでしょ。ターニャ」

「うっ」

「なんだかんだ言って、優しいんだからさぁ」



 ラプラスの言葉に、ナディーネは「優しい……(※黒歴史ノートを群衆の前で音読させる)」と呟く。



「だったら、せめて思いっきり力一杯フルスロットルでぶん殴れるようにしてあげるのが、この大魔女様の甲斐性ってやつじゃん?」

「ふふっ。ラプラスさんには適わないな~」



 すべて、お見通しというわけか。

 たしかに結界が張られたと感知した瞬間に、ターニャは魔力の出力を何段階か上げた。

 ……正直。超、気持ちよかった。



「ありがとう、ラプラスさん」



 ふふん、とラプラスは笑う。



「大魔女様に、まっかせなさい!」



 ぶいっ、とピースサインをして。

 ラプラスはターニャの頬にキスをした。




「表彰式を行います。優勝パーティは闘技場に集まってください!」



 と、アナウンスが響く。



「っ! ラプラスさん、ナディーネ」



 ターニャはふたりに手をさしのべる。

 その手がそれぞれに握られて。



「行こっか!」

「イエスイエス~」

「はいっ!」




 【リリウム】の三人は、喝采の中へと迎えられていった。

お読みいただき、まことにありがとうございます!

ライアンはいったんケジメをつけましたが、まだまだターニャには復讐すべき相手が残っています。

そう。世の中の理不尽ですね。。。

今後もきっちり「復讐系」として明るく楽しく邁進していきます。


次回投稿内容では町の皆にチヤホヤされたり、ついでに元パーティの手のひら返し男たちに軽く復讐したりという内容となります。またそれ以降は、ラプラスと仇敵マクスウェルの因縁が明かされたり……。熱い(バトル的にも百合的にも)展開になるよう頑張りますので、応援いただければと思います!


よろしければページ上部からブックマークしていただいたり、以下からここまでのポイント評価や感想をいただけるととても励みになります!! よろしくお願いいたします!!!!!!!!!!!!!!!(強火)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] コミックスを読んでファンになりました。 原作もめっちゃ面白いですサイコーです。あのクズヤローは殺してもよかったと思いますけど、ターニャちゃん優しいなあ。 この先も気になるので、読ませていただ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ