1.パーティも有名になってきまして。
【これまでのあらすじ】
「お前、女だし」とパーティ追放になったターニャはレベル100の魔法剣士に転職し、荒野で出会った三〇〇年前に封印された大魔女ラプラスとパーティを組み自分をクビにした元リーダー、ライアンasクソ男を近々開かれる【ランキング戦】で大勢の前で大恥かかせてぶっ飛ばそう! と心に決めまして。
最強装備を手に入れたり、大金持ちになったりしつつ、ギルド職員だったナディーネ(回復術師、レベル3)を仲間に加え、ついに冒険者パーティを立ち上げました。
王都オーデ。
昼下がりの喫茶店。
ランキング戦開始まであと一ヶ月。
ターニャとラプラス、ナディーネは一番奥の丸テーブルを囲っていた。
ライアンの顔を見るだけでも運気が下がりそうなので、ターニャたちはギルドではなく近場の喫茶店を本拠地としたのである。
「まぁ、ホテルも少し安いところに変えたし。お茶代くらいは毎日稼いでるもんね」
「はいっ! ギルド職員よりも全然手取りがよくなって豊かな気持ちです」
ケーキとお茶を片手にクエスト選びと作戦会議。
前のパーティにいたときには考えられなかったなぁ。
ちなみにナディーネは鶏肉の香草焼きを頬張っている。甘いものはそんなに好きじゃないそうだ。
「むふー、美味しい。ギルドに務めていたときには差し入れが全部『女子だし甘いもの好きでしょー』って感じだったのでキツかったんですよね」
「あー、断りづらいやつだ」
「はい。ご厚意ですからねー。好みくらい聞いてくれてもいいのにって思いますけどね」
大変穏やかな時間である。
次に引き受けるクエストはどれにしようか、と求人票を並べて眺めていると。
「ふぇいふぇーい。なんくぁお客ふぁんだふぉ」
「ラプラスさん、食べながら喋らないでね!?」
お客さん、という言葉に店の入り口を見る。
男だった。
冒険者風……装備を見るに弓兵だろうか。
「君たちが【リリウム】か?」
【リリウム】というのはギルドに登録しているパーティ名だ。
他のパーティは【ギガンティス】やら【ドラグーンズ】やら【ジャイアンツ】やら【ライオンズ】やら。
やたらと強そうな名前なのでパーティ一覧のなかで、ちょっと浮いている。
「そーですけど?」
「俺をパーティに入れてくれ」
弓兵は言った。
ぱっと見、ちょっとイケメンだ。なかなか身なりに気をつかっているようで、好印象。
「おー。最近結構多いんですよね」
「いぇすいぇす。あたしたち、けっこう大活躍だからな?」
そう。
レベル100の魔法剣士と魔女。
それがCランクパーティの任務にあたるのである。
超、余裕。
どのクエストもその一言だった。
ギルド内でも、「いかれたルーキーがいるようだ」と噂になっているようで。
パーティ入隊の志願をしてきたのは、この弓兵の男が初めてではなかった。
けれど。
「それで……」
キョロキョロと男が視線をさまよわせる。
「なんですか?」
「あぁ。【リリウム】のリーダーは最上級職の魔法剣士だと聞いたんだが」
「はぁ」
そして。
男は、こともあろうにターニャに向かってこう尋ねた。
「リーダーはどこにいるんだ。お姉さん達?」
リーダーは?
どこにいるんだ?
ぴきっ、とターニャの額に青筋が入った。
「…………私です」
「は?」
「だーかーら、リーダーは私です! 不合格っ!!!!」
「ええぇっ!?」
男は一瞬で不合格になった。
***
「まったく……この中で大剣持っているのは私だけなのに何が『リーダーはどこ?』だよ、ちゃんと見えてるの? おめめが節穴なの?」
しょぼしょぼと退散していく男の背中を見ながら毒づく。
どこからどう見ても、三人のなかで魔法剣士然としているのはターニャだ。
リーダーが魔法剣士というところまで分かっていて、どうして「リーダーはどこ?」なんていう間抜けな質問がでてくるのだろうか。
ぱくん、とケーキを頬張る。
「リーダーが女だって、思い至れないのかなぁ!?」
「まあ、まあ。おかげでお断りもしやすくなっていますし……」
たはは、とナディーネが苦笑する。
そう。
ターニャとラプラス。
レベル100のメンバーが二人。
ランキング戦に出場可能なBランク以下に留まるためには、まともなレベルのメンバーを迎えることはもうできないのである。
まあ、それもそうだ。
それでも食い下がってくるやつらは、こちらが全員女だと思うと急に、
『男がいないと大変だろ? 俺がメンバーになってやってもいいぞ??』
という謎の上から目線に変貌することが多かった。
男と言うだけで自信満々に振る舞えるのは何なのだろう。
いったい、その自信はどこからでてくるんだ?
まさか…………チ○コか?
「へいへーーーい!!?? 何考えてるんだターニャさん!! さすがにそれは過激すぎるぞー!?」
「チョコ、チョコです。ラプラスさんこそ何考えてるんですか」
「チョコかー。なら仕方ないなぁ……あ、ターニャ。チョコケーキ追加して良いかな?」
「ちょっ、それもう10個目ですよね!? 自分で払ってくださいよ!?」
きゃいきゃい、とターニャとラプラスがじゃれ合っていると。
「あ、そういえば」
素朴な疑問がナディーネから飛び出した。
「そもそも、魔法剣士ってなんなのでしょう?」
めちゃくちゃ素朴な疑問である。
目の前に魔法剣士(レベルMAX)がいるというのに。
ふふ、とターニャは思わず笑ってしまう。
確かに、今まではクエストが楽勝すぎてラプラスの指ぱっちん、あるいはターニャの簡単な魔術や剣の一撃で事が済むことばかりだった。
魔法剣士としての戦闘は、ほとんどしてこなかった。
する必要がなかった、というべきか。
「剣を持った魔術師や魔術が使える剣士とは違うんですか?」
その疑問に、ターニャは笑顔で答える。
「えー? やだなぁナディーネ。そりゃあ……」
その疑問に、ターニャは、笑顔で……。
「そりゃあ…………………」
はい。
答えられませんでした。
というか。
たしかに、ターニャ自身あまりよく理解していないのだ。
今まで通りに魔術も使えるし。魔力を身体の動きのブーストに使える、ということは分かっているけれど。
ついつい、『なんとなく』で魔法剣士を名乗ってきてしまっていた。
助けを求めるように、隣でチョコケーキを頬張っているラプラスに視線を投げる。
「もむもむ。うん、このケーキもおいしーな」
「ラプラスさん、あのー?」
うん?
と小首をかしげるラプラス。
ぺろり、と口の端のチョコレートを拭う。
「そんなの、簡単だ。次のクエストは骨のあるやつを引き受けよう」
そして、にっこりと微笑んでダブルピースをした。
「このラプラスが実戦で説明してあげるよ-」
――わお、大サービス。
お読みいただきありがとうございます!
課長さんとかが女だと、高確率で「課長さんいらっしゃいますか?」って言われますよね。なんなんだろうか、あれは。
というわけで。
第2章【ランキング戦編】スタートです。次のお話までがランキング戦参加前のお話になります。
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