5.レベル100魔法剣士だしパーティレベルは余裕のSSランクでギルドに登録できちゃいます。
いぇーい、ありあまる富!
……そういうわけで、高級ホテルを根城にした。
ふかふかのお布団でぐっすり眠り、朝はすてきなモーニングセットを食堂でいただく。
冒険者御用達の安宿と違いむさ苦しくないのが最高だ。
ラプラス特製の機能性・デザイン性抜群の最強装備を身につけて。
「うおぉ、ここが噂の冒険者ギルド。……大魔女、わくわく」
目を輝かせるラプラスの手を引いてやってきたのは王都オーデの冒険者ギルドだった。
「まずは、ギルドでパーティ登録をしないとですね。今なら夏の登録料半額キャンペーン中ですし!」
「ふぅん。登録するだけで金とるのかー。良い商売だな、ギルドっていうのは」
元パーティに出くわしたら今度こそ大暴れしてしまいそうだったため、ほとんどの人間がクエストに出払っている昼過ぎを狙ってやってきたわけだ。
案の定、店番の女性が一人いるだけで他にはほとんど人影がなかった。
ラッキー。読み通りだ。
「こんにちは。冒険者ギルドへようこそでーす」
まんまるの黒縁眼鏡に三つ編みにされた藤色の髪の毛。
ふんわりボディの女性がターニャとラプラスに気付いて微笑んだ。
間髪入れずに、用件を伝える。
「すみません、パーティ登録をしたいのですが」
***
「パーティの代表者はターニャ・アルテミシオフさんで間違いありませんか?」
「はい」
「それでは、本日の手続きは私、ナディーネ・アマリリスが担当させていただきますね」
いくつかの書類を渡される。
重複する記載欄がものすごくたくさんあり、面倒くさい。
「意外と退屈なんだな-、冒険者ギルド。思ってたのと違うー」
「ラプラスさんが何もしないから退屈なんですよ? こっちは黙々と手を動かしているというのに……ああっ、字間違えた!」
「あ。そこ訂正サインで結構なんで、落ち着いて書いてくださいねー」
ナディーネが優しく微笑む。
媚びているわけでもなく、ふんわりとした喋り方は人を安心させる。
「すみません。ちゃんと書きますかぅあああ!?」
「おっと、インク壺こぼしてしまいましたか。大丈夫です、記載欄は無事なので、このままいっちゃいましょう!」
「うう、申し訳ない……」
「大丈夫ですよー。あっ、ターニャさん。そこはギルド職員の名前を書くところでーすっ、パーティリーダーはこっち!」
「ひぃい……」
変な汗が出てきてしまう。
筆記試験は猛勉強で結果を出してきたけれど、こういう書類仕事は昔から大の苦手だった。
「ターニャ、もしかして。……………意外とポンコツなのかい?」
「ポンコツって言わないでくださいよ!? ラプラスさんこそ何もしてないじゃないですか!」
「オッケーオッケー、大丈夫だよ。別に事務書類作成能力ゼロってくらいでターニャのこと嫌ったりしないから」
「だからっ! ゼロじゃないしっ」
「あはは……まぁまぁ、お二人とも喧嘩せずに……」
出来上がった書類の訂正サインは実に二四箇所にのぼった。
「あっはははっ! ターニャは訂正サインの天才だなっ」
「くっ殺……」
「大丈夫でーす。ちゃんと受理できますから。えーっと、次はステータス測定ですね」
苦笑しつつもフォローを欠かさないナディーネに「こちらへどうぞ」、と案内される。
通された先の部屋にあったのは水晶玉。
「判定にはこちらを使いますね。まずはターニャさんから測定しましょう。すぐにパーティの初期ランクがわかりますよ」
「なんとなんと。パーティにもランクがあるんだねー」
「はい。パーティのランクによって引き受けられるクエストや報酬が変化します。ランクは、メンバーのレベルアップやランキング戦での活躍で変動します」
ナディーネは、首をかしげているラプラスに丁寧に説明をする。
パーティのランクと主な活動内容は以下の通りだ。
最低ランクのEランクやDランクのパーティは町の清掃や近場の森での木の実拾いが主な活動内容になる。
次に、ライアンのパーティが属していたCランク。
ここが一番在籍する人数が多く、一般的なダンジョン攻略への申し込みが可能になる。
ちなみに、Bランク以上の冒険者パーティに傭兵的に労働力を提供することもあった。
Bランクでは一級ダンジョン攻略にチャレンジできる。
Aランクでは国家的な軍事作戦への徴収もあり得る。
そして、その上のSランクパーティは大臣や騎士団長に相当する待遇だと言われている。
ナディーネは、流れるようにラプラスにそれを説明しきってしまう。
ゆるふわの見た目に反して、優秀なギルド職員なのかもしれないなとターニャは思った。
「パーティのランクは、属しているメンバーのレベルによって決定します。個人のレベルは職の練度、と言い換えてもいいと思います。なお、個人のレベルは冒険者ギルド会則第四条二項に基づき、便宜上一〇〇段階評価とされていただいていますね」
「なるほどなるほど。でもまあ、ターニャはたぶんレベルMAXだと思うぞ-」
「あはは、100レベルなんて一応設定されているだけですよ? だいたい、女性の剣士職だとレベル20台が多いですね」
と、ナディーネ。
「では、判定です。良い結果になるといいですね!」
***
「……Sランクです」
一〇分後。
真っ青な顔でナディーネは言った。
手元の紙を凝視して、脂汗をかいている。
その視線の先。
手には水晶玉で観測したターニャとラプラスの能力情報。
「ターニャさん、最上級職・魔法剣士。れ、れ、レベル100です」
「うぇっ。ラプラスさんの世迷い言じゃなかったの!」
「え、世迷い言だと思ってたの。君?」
「さ、さ、さらにですねっ! ラプラスさんの能力情報。こちらも同じくレベルMAXなのは間違いないのですが」
「ですが?」
「ラプラスさんの職が……呪術師? 魔術師? 反応が曖昧でちょっとわからないのですっ。こんなの、ギルド職員をやっていて初めての反応ですぅ」
「ああ、だってあたしは魔女だからね」
「えっ?」
「はいはい、ラプラスさん。黙る or 鉄拳制裁、どっちがいい?」
「ストップ、ストップ! 暴力反対~」
ひぇ~、と声をあげてラプラスが逃げていく。
相変わらず、ちょっとだけ浮遊しているのでふよふよとした動きだ。
「と、とにかく! Sランクパーティであることは確定です!」
ナディーネが言う。
「すぐに冒険者協会と王宮魔術局に連絡を……」
と言う声に。
はっ、と。
ターニャはあることに思い至った。
「あ、いやいやいやいや!!!! これダメなやつだ!!!!」
「え?」
「Sランクパーティって、ランキング戦出られないじゃん!!」
そう。
ランキング戦というのはBクラス以下のパーティに出場権が与えられている。
まあ、早い話がSランクパーティなんかが出場した日にはちょっとした阿鼻叫喚図になってしまう。力の差がありすぎるのだ。
ターニャの目的は、あくまでランキング戦という衆人環視のもとでライアンに吠え面をかかせてやることである。
Sランク登録は、悪い気はしないけれど。
ランキング戦にでられないのならば、意味がないのだ。
「で、でも……」
「ランク、どうにか下げられないですかね。ほら、誰も見てないし。ナディーネさんがこう……ちょちょいと」
「公文書改ざん!!!!!!?」
さすがにダメです、それは!
ナディーネが能力情報表をターニャから庇うように隠す。
「ちっ」
「いま舌打ちしました!?」
「のんのん、空耳だと思うぞー」
ふ、と。
ある考えがターニャの脳裏に浮かぶ。
「うーん。メンバーの平均レベルで、パーティのステータスが決まるんだよねぇ」
「そうですね」
「…………なるほどね、じゃあこういうのはどう?」
ターニャが、ぴっと指をさす。
「え?」
指をさされたナディーネは、首をかしげた。
「ナディーネさん。あなたのレベルは?」
「えっ? 私のですか。いやぁ、冒険者学校を卒業してからは全然測定してなくて」
「冒険者学校の卒業なの!?」
「あぅっ、い、一応は……。レベルが低すぎて、全然パーティに就職できなくて。それで今は事務員してますけど」
「へえ~。測ってみてよ」
「えっ!? いや、いや、私は……っ」
「いいからいいから! ラプラスさん~、そっち掴んで」
「まっかせろー」
「ひゃあ、腕を掴まないでくださいぃ」
「よし、ぴとっとな」
ナディーネの手を、水晶玉にぴとっとくっつける。
すると。
そこに浮かび上がってきた文字は。
「レベル、3?」
「おお-」
「は、は、恥ずかしいじゃないですか!!! だからやめてくださいってっ!!!」
ナディーネが涙目でうったえる。
たしかに、レベル3というのはかなり低い数値だ。
冒険者学校卒、ということだがおそらく卒業時のレベルだけならぶっちぎりの最下位だったはずだ。
なるほど。
どこのパーティにも入れなかったというのも、頷ける話である。
「うぅ……、この超貧弱ステータスをどうせ馬鹿にする気なんでしょう! クラスメイトみたいにっ、クラスメイトみたいにっ!!」
涙目になるナディーネ。
しかし。
レベル3、というのはターニャにとっては完璧すぎる結果だった。
なぜなら。
「よし、決めた!」
ターニャは、へたり込んでいるナディーネに手をさしのべる。
そして。
「ナディーネさん、あなたウチのパーティに入ってください」
ランキング戦は三人構成のパーティでのエントリーである。
そして、ナディーネのレベル3という数値。
完璧だ。
100レベルと100レベルと3レベルの平均値は……68。
そう。
ナディーネを迎えることでターニャのパーティは、ライアンたちのパーティと同じランクCに割り振られる数値になるのだ。
「どうせどうせ、レベル3の回復術師なんてどこのパーティにも……え?」
「だから、うちのパーティのメンバーになってください」
……は?
ナディーネの口から、間抜けな声が漏れる。
にんまり、と笑うターニャ。
「なんなら続きは、このあと飲みながら話しませんか?」
――あなたほどの逸材、いないんで。
お読みいただきありがとうございます。
新キャラ・ナディーネさん登場です。ターニャやラプラスと違って気弱そうな彼女ですが、超貧弱ステータスにはある秘密があり……?
これにて1章は終了です。次回、ちょっとした幕間をはさんで2章スタートです。ターニャとラプラスが理不尽をギッタギタにします。
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