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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ペアダンジョンの悲劇


 平成と呼ばれる時代が終わる頃、本州のとある田舎県の田舎村が村興し事業の一環として大々的に告知をだした。

 

 『来たれ! 冒険者達よ!

 

   おらが村に地下迷宮【ダンジョン】が出来ました。


   襲いかかる凶悪なモンスターや、卑劣極まる罠【トラップ】を乗り越え


   最深部に巣食うダンジョンボスを見事に倒した方には……



   

       ‘’ 賞金 一千万円 ‘’

   



   と、名誉村民権が授与されます!


   振るってご参加下さい。


   期限内(毎月末)に攻略者が出ない場合、賞金は次月に繰越されます。

 

   大変危険な行為ですので高齢の方、疾患をお持ちの方はご注意下さい。

  

   お子様にやさしい、キッズダンジョン(報酬:お菓子詰め合わせ)もご用意しております。

   

   なお初回登録は無料ですが、死亡後の再登録は有料登録(一万円)が必要です。


   詳細は村ホームページ特設サイト、もしくは村役場ダンジョン広報課窓口にてお問い合わせ下さい』


 こんなふざけた内容の告知であった。

 皆、最初はちんけなアトラクションだと思っていた。

 野山を使ったアスレチック施設みたいなものだと想像してた。

 なにより『死亡後の再登録』ってなんだよ、と声高らかにバカにしていた。

 そんな空気を一掃する出来事が起きた。


 有名な二人組のJK動画配信者(意外とかわいい)が挑戦した動画がアップされた。

 村役場でのインタビューからダンジョンギルド(総合受付)での冒険者登録。

 互いの冒険者カードを見せ合った後、レンタル装備屋でアドバイザーの女性店員(おば……妙齢のお姉さん)に進められて革の胸当て、革の小手、革のすね当てに、刃渡り50センチほどの西洋剣と小ぶりの革の円盾という、いかにも初心者冒険者といった出で立ちでになった。

 厚手のズボンを勧められていたが、ミニスカニーソの絶対領域は譲れない一線の様で断っていた。

 いいぞ、もっとやれ!

 ちなみに二人はヘッドカメラを装備しての撮影の為、頭装備も辞退していた。

 その後簡単な講習という注意事項を受けたあと、ダンジョン入り口へ。

 受付で『心的傷害について一切自己責任であることを認める』といった誓約書を書いてダンジョンへと潜っていった。


 予想とは裏腹にそこは古き良き、薄暗い石造りの通路であった。

 JK特有の和気あいあいとした騒ぎながら奥へと進むこと数分、それに出会った。

 一見すると二足歩行する犬である。

 腰簑こしみのを着け、右手には太い木の棒……棍棒を持っていた。


「えーやだーかわいいー」

「あ、たしか冒険者カードをかざしてみるんだっけ? ……んー? コボルド、レベル1だってさ」

「へー、コボルドっていうんだ?」


 そんな会話をしているときだった。

 画面に映るコボルドが一気に間を詰めて、カードをかざしていた少女に棍棒を振り下ろした。

 鈍い音と共に揺れる映像、叩き付けられた地面の映像の端には広がり始めた赤い液体を映しだしていた。

 響き渡る悲鳴。

 もう片方の少女は後ろを振り向き入り口へと駆け出していた。

 その間も倒れた少女のヘッドカメラはその身に何度も棍棒を振り下ろすコボルドを映している。

 片や逃げ出した少女のカメラは前方に白いウサギを写していた。


「え? うさぎ?」


 私を含め、映像を見ていた大勢が叫んでいただろう。


 ‘’ にげろッ!! ‘’


 と。

 もちろん我々の声が届く訳もなく、少女はうさぎをかわして逃げようと横にずれる。

 そのままウサギの横を駆け抜けられたと思い、胸を撫で下ろしたのだが動画はくるくると洞窟の上下を映しだす。

 その中には走り去る少女の背中が写っていた。

 ……少女の首から上を置き去りにして。

 

 一瞬のブラックアウトを経て、お互いのヘッドカメラは放心したお互いの姿を映しだしていた。

 その姿はダンジョンに入る前と一切かわりなく、どこにも怪我などは見受けられなかった。

 ただ、その青白い表情をのぞいては……。


 この動画の真偽について紛糾した。

 コメントは弾幕を張り、某無料掲示板では1日で100を越すスレが消費された。

 そして、マスコミが動いた。

 大々的な報道の上解ったことは……


 ・異世界と繋がっている。

 ・ダンジョン内で死んだら突入時の状態で排出される。

 ・生きて脱出できた場合、所持品から1つ持ち帰れる。(残りは消える)

 ・ダンジョン内ではレベルという概念があり、レベルにより肉体に補正が掛かる。

 ・魔法……使えちゃう。

 というもの。

 そして、行政が動いた。

 

 ‘’異世界の出来事であろうと、人が死ぬのはいかんだろう。 ましてや、人形ひとがたの生物に暴力を振るい殺害に及ぶなどもっての他である‘’


 ……云々。

 このままダンジョンは閉鎖の方向へと向かうかと思われたその時、経済庁が待ったを掛けた。

 ダンジョンから持ち出せる物に、貴金属、鉱物、レアメタル、化石燃料などの従来資源の他にも魔石などの異世界資源も含まれていたからだ。

 国会が荒れて半年、とうとうダンジョン及び、ダンジョン攻略は正式に認可される運びとなった。

 ちなみに、国会紛糾中もダンジョンはこっそり営業されていた。


 そして刻は流れる……

 あれから何度かメインダンジョンは攻略され、幸運な攻略パーティーには賞金がちゃんと支払われた。

 攻略されるたびにメインダンジョンは深さを増していき、その他にも新しいコンセプトの新ダンジョンが追加され攻略されていった。

 数十にも増したダンジョン。

 しかし発生から2年も経過しても未だ攻略されないダンジョンがあった。

 大抵のダンジョンが1年以内で攻略される現状で2年以上の未攻略というのは異例であった。

 しかも、最高突破階数が未だに3階止まりなのである。

 多くの高レベル冒険者、有名処が挑戦を明言したものの、その成果は思わしくはなかった。


 なぜならば……

 そのダンジョンは他のダンジョンと違って縛りがキツかったのだ。

 

 ‘’ ペアダンジョン ‘’


 そう呼ばれるダンジョンの最初の難関は……二人組でないと突入できないからだ。

 突入時は二人でも、内部で合流すればいいのでは?

 といった考えは即座に打ち砕かれる。

 どうにも、突入した冒険者毎に同じダンジョンが用意されているようなのだ。

 多人数参加型ネットゲームではお馴染みのインスタンスダンジョン方式ではないかと考察された。

 さらにダンジョン内部での出来事は記憶の封印処理が行われるため、事前に有利な準備が出来ないことも攻略遅延の一因をになっている。

 そして一番の問題が、最初に登録した二人組以外での登録が出来ない事であった……。

 そんな難航ダンジョンにまた一組の冒険者が挑戦しようとしていた。

 これはそんな二人の物語。




 ダンジョンギルドに程近い民家の縁側に腰を下ろした女性が一人、湯呑み片手に景色を楽しんでいた。

 雪の残るアルプスを背景に、綺麗に植えられた桜は例年ならば鮮やかな満開の時期であったが、暖冬の影響か残念なことに葉桜へと変わっている。

 これはこれで、緑が目に眩しいと言えるくらいに心に染み入る景色だなとほうじ茶を一口含みながら思う。

 お茶請けは野沢菜漬け。

 最初は馬鹿にしていたが、今では好んで頼むまでになった。

 ポリポリと音を立て食べる。

 やはり野沢菜は音が出るくらい歯応えのある漬かり具合が好きだ。

 待ち人は未だ来ない。

 すでに、早めにきた分の3倍ほど待ち時間を越えている。

 もう1セット追加しようかと悩んでいると、ようやく呼び出した相手が来たようだ。

 

「あーすまん、遅れた。 ってお前はまた渋いチョイスだな。 ああ、おばちゃん、俺コーヒーね」

「あ、私は1セットお代わりお願いします」

「え、まだ食べるの?」

「いいじゃない。 この味が分からないなんてガキもいいところね」

「いやそれって、ばばくさ……いえ、なんでもありません」


 にっこりと微笑む女性の目は笑ってはいなかった。

 

「で? 他のみんなはどうしたの? まだ来ていないんだけど、ちゃんと連絡したんでしょうね?」

「いや、呼び出したのはお前だけだ。 お前だけに大事な話があるんでな、連中には声をかけてねぇ」

「え、それって……」


 高鳴る胸の鼓動。

 ハッキリと交際を宣言しているわけではなかったが、周りからもすでに公認の仲といわれ始めて随分と立っている。

 そんな煮えきらない間柄で、ふたりっきりで大事な話って……期待するなといえない年齢に差し掛かっていた。

 かつて、動画配信の相方だったアズサは早々に冒険者を引退し、今では二児の母である。

 

「あー俺たちパーティー組んでもう5年だろ? レベルも40を越えたし、中級を越えてそろそろ上級といってもいいんじゃないかと思ってるしさ……」

「うんうん」(期待ゲージ70%越え)

「だからさ、そろそろいいんじゃないかなって」

「うんうんうん」(期待ゲージ90%越え! 準備よしッ!!)

「俺と一緒に、一緒「はい! よろこんでッ!!」に『ペアダンジョン』へ……」

「え?」


 期待ゲージが100%を越えて思わず食い気味に返事をしてしまったが、いまこいつ、なんていいやがった?

 

「いやーよかった。 お前も『ペアダンジョン』への挑戦を考えていてくれたんだな。 さすが俺の相棒」

「…………」

「じゃあさっそく登録にいこうぜ、カエデ」

「……………………ぇは」

「ん? どうしたかえで?」

「…………お前はあのダンジョンが何て呼ばれているか知ってて私を誘うのか」

「え……? 二人の連携、つまり相性がカギだって話だろ? だからお前と……」

「…………難航過ぎて喧嘩になりやすく別れたカップルが多数生まれたって言う『縁切りダンジョン』に私を誘うのかッ! そうかそうか! シゲルなんてオークに掘られちまえっ!!」

「えっ? ちょっ? カエデさ……へぶしっ!?」


 食べ終えた野沢菜漬けの木皿を力任せにシゲルの顔面に叩き込み、カエデは駆け出していく。

 後に残されたのは野沢菜漬け液が目に入り涙が流れるシゲルと、伝票片手に憤怒の形相をしたおばちゃん従業員達であった……。


 このあとめちゃくちゃ説教された。




 ……数日後。

 ダンジョンギルドの受付カウンターに並ぶシゲルとカエデの姿が見られた。

 満面の、幸せ一杯の笑顔を浮かべる彼女の指には、異世界の魔法の指輪(マジックアイテム)ではなく、現世界の魔法効果の全くないけど魔法の指輪(こんやくゆびわ)がキラリと光を放っていた。

 それを横目で確認した受付嬢が困惑しながら対応する。


「えーと、おめでとうございます? 本当に『ペアダンジョン』に登録で?」

「「 はい 」」

「……心が折れる前に休んで下さいね?」

「「 はい、大丈夫です! 」」

「あーそうですか。 ではこちらが『ペアダンジョン』の特殊ルールの一覧です。口頭での説明を致しますね」


 一覧片手に説明を始める受付嬢。

 他のダンジョンに比べて、守秘義務が発生したり、かなり厳しい罰則が発生するなどもあって念入りにしなければならない。

 ちなみに、このダンジョンルールと言うものはダンジョンギルド職員が作るものではない。

 ダンジョンが生成された折りにその扉に貼り付けられているのである。

 一説にはダンジョンマスター(未確認、年齢不詳、性別不詳、異世界人、既婚)が設定しているという話になっている。

 出所は不明であるが、書かれた内容は今現在まで100%で実行されているので疑う職員は居ない。


「……以上となりますが、何かご不明な点はございますでしょうか?」

「えっと、この副賞の【※別紙参照】とありますが、その別紙がないのですが」

「あーすいません。 ……大変申し上げ難いのですが、この話を聞いたペアは漏れ無く破局を迎えているものでして……それでもお聞きになられますか?」

「大丈夫です! 僕と彼女なら。 なっカエデ?」

「もちろんよシゲル」

「はいはい、ごちそうさまごちそうさま。簡単に言うとですね、男女ペアの場合に置いて公的立場によって報酬が変わるそうです」

「公的……ですか?」

「はい。 恋人未満でしたら『魔法のペアリング』、恋人同士でしたら『魔法の婚約指輪』、婚約者同士でしたら『魔法の結婚指輪』、ご夫婦でしたら『魔法の束縛指輪』が貰えるようです」

「……さ、最後だけ不穏な響きがするな」

「……えぇ、呪われてないですよね?」

「……性能が公表されてないのが何とも……というわけでお二方には是非攻略していただいて、性能の確認をお願いしたいのです。 頑張ってください」

「……あれ? これってもしかして」

「うん? 何か気がついたのかい?」

「攻略中に結婚したら……報酬かわるんじゃ?」

「……あっ!?」


 張り付いた笑顔で二人を送り出す受付嬢。

 今現在の挑戦者は20組、破局リタイアした挑戦者は479組にも及ぶ。

 ちなみに、担当したペアの成績によってボーナスが出ることは職員だけの秘密である。


「……私のボーナスの為にがんばってね!」


 受付嬢はとてもいい笑顔でそう呟いた。




 二人はペアダンジョン入口の扉の前に立っていた。

 通常、ダンジョンの入口には扉はなく光を通さぬ闇が広がっているだけなのだが、ペアダンジョンを初めとする特殊ダンジョンには扉が備わっている。

 この扉に冒険者カードを当てる事でダンジョンに挑戦出来るようになるのだが、二人のカードにシステムメッセージと呼ばれる文が浮かんでいた。


 ‘’ 扉は手を繋いでいないと入れません ‘’


 ‘’ 恋人つなぎならバフ(きょうか)効果がつくよ! ‘’


「……こういうコンセプトなのか」

「うわぁ、これもしかして内部の扉も同じ仕様なんじゃね?」

「……ありえるわね。 TMA(ツーマンアーミー)(男二人組のトップ冒険者)が早々にリタイア宣言した理由がこれかもね」

「まあ俺らは特に恥ずかしがる必要も無いしな」

「そうね。 バフなんてなくても恋人つなぎなんて普通だしね」

「「 じゃ、いこう! 」」


 二人はしっかりと互いの手を握りしめ扉にカードをあてる。

 互いを見つめ合いながら、転移の為の一瞬のブラックアウトを惜しむかのように。


 ……二人が居なくなった扉にうっすらと文字が浮かびあがってくる。

 それを見るものが居たならばこう読めたであろう。


 ‘’ シゲルとカエデ ご休憩中 延長可 ‘’


 と。




 転移が終了した二人は周囲を警戒する。

 一応ダンジョンルールでは突入から5分はモンスターからの攻撃はないとなっている。

 なってはいるのだが、待ち構えている事は希にある。

 二人もその昔、一度ではあるが転移した50メートル正面でお座り待機しているシルバーウルフの群れに遭遇したことがある。

 急いでバフを掛け準備を行ったのだが、総数9匹の波状攻撃には手を焼いたものだ。

 そんな経験から警戒は怠らないようにしている。

 ……のだが。

 目前に広がる光景がいつもと違っていた。

 いつもの石造りの通路ではなく、ハートマークの付いた壁紙が張られていた。

 足元は毛足の短い安っぽいカーペットが引かれ、天井からは等間隔に淡い桃色の光を放つ光源が設置されていた。


「……えーと?」

「うわぁ、なにこのやすっぽいラブホ感……」

「……へえ? 私こんなラブホに連れていってもらった覚えがないんですけど。 いったいどなたといったのかしら?」


 微笑むカエデにたじろぐシゲルの耳に何かが歩く音が聞こえる。

 ダンジョンスキル【鋭敏聴覚】は、カーペットの上を歩くかなり遠くの足音も聞き取れる。

 左のカイトシールドを構え、不意に備える。


「カエデ、識別を頼む」

「了解。 ……不確定名【ゴブリン】、レベル10 この距離だと詳細は無理ね」


 カエデの持つダンジョンスキル【鋭敏視覚】は薄暗いダンジョン内でも通常と同じ明るさに感じられ、なおかつ通常よりも遠く、細部まで見ることができる。

 これに冒険者カードの識別機能を併用して遠距離での識別を可能としていた。

 識別効果のある魔法もあるのだが、情報を95%の確率で完全に抜けるが、識別範囲が半径10メートルと狭い。

 しかし素性だけでも知ることができればそれなりの準備もできるのである。


「推奨レベル30のダンジョンでたったの10? まあゴブならそんなものか。 いつも通りにいくぞ」

「気を付けて」


 カエデの声を背に受けながら一気に駆け出す。

 黒いモヤを纏ったーー看破が完全ではないためそう見えるーーゴブリン(仮)を完全に捉えるとシゲルはスキルを解放する。


 【シールドチャージ】:シールドによる突撃攻撃

       前提条件:一定の距離を一定の速度で移動

         効果:距離と速度による比例ダメージ+ノックバック

            

 盾のためにダメージ自体は他のチャージ系スキルに劣るものの、追加効果のノックバックで相手のバランスを崩せるのがいい。

 発動時に対象との距離を無効化(瞬間移動に近い)するため成功率が高いのもお気に入りの一つだ。

 当たり処がよければゴブリンなら吹っ飛ばし地面に転がすことも可能だろう。

 絶妙のタイミングを感じたシゲルであったが、ゴブリンとは思えない質量を感じて逆に吹き飛ばされ転がらされてしまった。


 ゴブリン相手に打ち負けたショックなのか、受け身も取れず打ち所が悪かったのか。

 混濁する意識の中で見上げたモンスターは明らかにゴブリンより大きかった。


 全長は5割増し、170センチを越えていそうだ。

 体色はゴブリンらしく、鮮やかな緑……なのだが毛で覆われ(染色?)ていた。

 腰にはゴブリンらしく、粗末な腰ミノと魚籠びくを下げている。

 右手にはゴブリンご愛用の、少し大ぶりな木の棍棒……なのだがなぜか手のサイズに比べて小さく見える。

 鼻はゴブリンらしく長く尖っていて、好んではめる鼻輪もあったがどう見ても付け鼻だ。

 だって鼻が長い以前に口まで長くつき出している……いわゆるノズルだ。

 特徴はゴブリンだと主張しているのだが、シゲルの記憶に当てはまるのはとある野生生物。

 見つめ合うシゲルとく……ゴブリンっぽいナニか。

 く……ゴブリンっぽいナニかの額には汗が見られ、「大丈夫、バレてない、バレてないよ!」という表情が見えた気がした。


「……ラツ※ピック」


 モンスターを識別する魔法を唱える。

 適正距離における看破が実行され、完全な識別が終了し表示される。


『不確定名:ゴブリンっぽいナニか

 種族名 :擬態コスプレくまー

 レベル :10

 スキル :【擬態】【殴打】【ゴブリン衣装装備】

 アシスト:【くまーは人間の3倍つおい】    』


「「…………」」


 ゴブリンっぽいナニか……もうくまでいいや、くまで。

 くまの額からは滝のような汗が流れ続ける。

 

「おい……おまえゴブリンじゃねーだろ」

「 !!! 」

「いや、そんな何故バレたみてえな顔すんじゃねえよ。どこからみても熊だろうがッ!!」


 

 その後、合流したカエデと共に慌てて本来の力を出せずにいたくまーをなんとか駆除することができた。

 しかしながらその後も出会うモンスターは【コボルドのようなナニか】とか【オークらしいナニか】とか【きっとドラゴンに見えるナニか】などなど、特徴はそれっぽいのだがどう見てもアレな野生生物にしか遭遇することはなかった……




 数時間後、ダンジョンギルドの扉を潜り担当受付嬢の元に憔悴しきった二人が現れた。


「無事のお帰りおめでとうございます。 公開可能なダンジョン情報を一つだけ報告してください」


 笑顔の受付嬢。

 未公開情報であればボーナスがでるからである。


「……あのダンジョンな、名前が違ってるんだよ」

「……はい?」

「あのダンジョンは‘’ ペア(Pair)‘’ダンジョンじゃねぇ、‘’ ベア(Bear)‘’ ダンジョンだッ!!」


 苛立たしげに報告するシゲルに笑顔のまま答える受付嬢。


「はい、その情報は最優先秘匿情報ですので無効です」


 その笑顔にカナデの拳がめり込むのにそう時間はかからなかった。






 げに恐ろしきペアダンジョン。


 こうして今日もペアダンジョンの悲劇は続いていく……


 頑張れ冒険者達。

 煽れギルド職員。

 負けるなくまー。

 信じれば何時かコミケにも出れるくまー!

着ぐるみはコスプレに入りません!(キリッ


受付嬢「ちなみに初回クリア報酬は、村内の一軒家の譲渡(畑付き)です」

カナデ「……どうせ周りはくまだらけなんでしょ」

受付嬢「山なので居ないわけないじゃないですか」



2018/5/21 修正

 オチのベアダンジョンが中盤で連呼されてた不具合……確認してたはずなんだけどずっとくまだんじょんになっていた……

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― 新着の感想 ―
[良い点] くま大好きです。 本州ならきっとツキノワグマですね。 うん、いいですね、くま。 でも、奴らは強力な肉の塊ですから、素でもゴブリンよりは強いですよきっと。 おそろしき、くま。おそるべき、くま…
[一言]  最後にベアダンジョンと出る前に、何度かベアダンジョンと出ているようですが。村起こしダンジョン、あったら行ってみたいです。
[良い点] 割烹の方に空目したと書き込みましたが、本当にそうだったとは バレてないと思ってるくまさんかわいい
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