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与えられた部屋に案内されると、そこはまるでホテルのスイートルームのように広く、豪華な一室だった。
天蓋付きのベッドに、濃い色調の木の調度品。床にはトルコ絨毯のような模様のカーペットが敷き詰められている。
その部屋のあちこちに、大きな燭台が置かれ、何十本もの蝋燭が部屋全体をぼんやりと見渡せるくらいに照らしている。
あまりに煌びやかで幻想的でくらくらしそう。
何より驚いたのは、先客が居たことだ。
焦げ茶色の髪を、バレエのレッスンを受ける少女のように慎ましく結い上げ、上は首元まで、下はふくらはぎまでしっかり覆われた長袖の濃紺のワンピースの上にロングエプロンを着けた若い女性が部屋の中央に立っていた。
メイドさんだ……。
私が面食らってドアのそばから動けないでいると、メイドさんはにっこりと微笑み、スカートの裾を両手でつまむと膝を曲げお辞儀をした。
カーテシーというやつ?
まるで映画のようなワンシーンに目を見張っていると、メイドさんは少し照れたように「わたくしはローズマリナと申します。ユウキ様付きの侍女です。何なりとお申し付けくださいませ」と言うと、また軽く頭を下げた。
「あの……、どうぞ中へ……?」
ローズマリナさんは固まって動かない私を気遣い、中へ入るように促す。
その言葉に、突っ立っていても仕方ないと思い「失礼します……」と、ふかふかのカーペットの上に足を踏み出すと、ローズマリナさんは丸い可愛らしい顔を綻ばせて楽しそうにクスクスと笑ったけど、すぐにバツが悪そうに笑顔を引っ込めた。
「申し訳ありません。ですが、ここはユウキ様のお部屋ですので、どうぞご遠慮なさらず……」
「あ、そ、そうですよね」
いきなり異界に飛ばされて、聖女だの何だのと言われて、この世界の常識など分からなくて当たり前なのだけど、自分が無作法者のようで恥ずかしさから顔が少し火照るのが分かり、照れ隠しの笑いを浮かべながらうつむくと、ローズマリナさんはそれを察したのか、今度は気遣うように微笑んだ。
「ユウキ様、今日はもう遅いですしお疲れでしょう。寝間着をご用意していますので、お寛ぎください。よろしければ、何かお飲み物もお持ちいたしますか?」
何だろう、このVIP待遇。庶民の私にはいっそ、恥ずかしくなるくらいだ。
「いえ、それより、お風呂に入りたいです」
今が正確に何時かは分からないけれど、通常であればとっくにデロデロになったメイクを落としてお風呂に入っている。
「申し訳ありません……。この時間ですと湯殿の湯は抜かれてしまっておりまして」
私の何気ない要望に、ローズマリナさんは困ったようにほっそりとした首をかしげる。
「え!? そうなんだ! あ、じゃあ、無理には……」
「お湯を持って来ますので、お体をお拭きいたしますが」
ああ、好きな時にお風呂に入れるのって、贅沢なことだったんだなあ。
こうなったら、それで我慢しよう。
でも、拭いてもらうのは恥ずかしすぎる。
「じゃあ、そうしてもらってもいいですか。あ、体は自分で拭きます……」
「かしこまりました。ですがお体は……」
「いや、ほんとに、大丈夫なんで!!」
数回の攻防の末、ローズマリナさんは渋々引き下がり、タオルとお湯の入ったポット、ホーロー製の洗面器を運んでくれた。
「それでは、わたくしは隣の部屋に控えておりますので。おやすみなさいませ」
「あ、はい、おやすみなさい」
隣の部屋にいるんだ。
ローズマリナさんが下がった後、洗面器にお湯を張った。
すぐには冷めない熱さなのがありがたいけど、タオルは妙にごわごわしていた。
家に帰って、柔軟剤でふかふかになったタオルが使いたいと、ついため息を吐いてしまった。




