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「見たことが……ない?」
見たことがない力に、国中が頼っているということなのだろうか。
「ええ。というのも聖女の存在そのものが他国を牽制するのに十分だったため、長い事聖女の真の力を見ることは無くなっていたのです」
きっと……、それだけ強大な力だったのでしょうね、とアルジェンさんは続けた。
つまり、聖女の力を見た人はいないけど、過去の聖女が見せた力があまりに凄すぎたため、今になっても皆聖女を怖れているということか。
聖女っていうと、ロマンチックな響きだけど、なんか核兵器みたいなもの……?
「我がカールム王国も、常に兵力を増やしている。だが、仮に近隣三国が同盟を組んで一度に攻めてきては、太刀打ちできぬやもしれないのだ」
ダンディなおじさまが物憂気に言う。
ところで、さきほど王子様がいたということは、このおじさまは……。
「ユウキ殿。挨拶が遅れたが、余はこのカールムの王、アウラムである。王として、ユウキ殿とルルナ殿には、なんとしても聖女としてこの国の平和を守っていただきたい」
やはり、王様だったのか……。
ほんの少し前までは、夜道を歩く帰宅途中のしがないOLだった私が、今は威厳に満ち満ちた国家元首に国を守るように要請されている……。一体これは現実なのだろうか。やはりよくできた夢なのでは……。
「アウラム様!」
夢の世界へと現実逃避しようとしていた私をうつつに引き戻したのは、るるなちゃんのフーセンガムのような甘い声だった。
「私! こうなったのも運命だと思います。 皆さんのためにも精一杯がんばります!」
まるで祈るように手を組み、腰をかけていた椅子から立ち上がり高らかに宣言する、るるなちゃん。
状況を飲み込むこともままならない私は、るるなちゃんの思い切りの良い態度にただただ面食らうばかり。
他の人々も、るるなちゃんの勢いに気圧されているようで、驚きの表情を浮かべながら、彼女を見つめている。
「ゆうきちゃんも! 一緒にがんばろう!」
突然、るるなちゃんの呼び掛けにより、皆の注目が私に集まり、思わず体が強張ってしまった。
「え、いや、わ、私は……」
いきなり聖女だのなんだの言われても現実味がない。
「どうして!? 皆困ってるんだよ!」
確かに、国家の存亡に関わるのだから、私が同意しなければ困るだろう。
だけど、いきなり知らない所に連れてこられて国のために聖女になれなんていわれても、そう易々と受け入れられない。
ちっぽけな生活だったけど、私には私の暮らしがあって、家族や友人がいた。ささやかな幸せがあった。
それを当たり前のように手放すのは、自分の人生を否定しているようで胸が痛む。
それに……、異界とかカールム王国とか色々言ってるけど……。
「そもそもここは、何処なんだ!」
積もり積もった思いを爆発させるように叫んだ私に、部屋にいた人が皆目を見張る。




