祈る者(△)
神官のメイサという女性が除霊をしているところを見た翔太たち。ソールではそんな事件が数年前から起こっていることを知る。メイサの除霊が終わると、翔太は「彼女が魔法を使っていないのでは?」と考え、彼女が特質の才能を持っている、能力者である可能性を思いつく。このタイミングでテイルから才能発見薬という目薬をもらう。その結果、痛い思いはしたが、“才能発見”という文字がカードに刻まれた。
現在、翔太が使える特質な才能は“物体引力”と“声質変化”、“反射壁”の三つである。
そして今、新たなに“才能発見”を得た。
しかしここで喜んではいけない。なぜならば、まだ翔太の本来の特質な才能である“分析者”による能力分析が残っているからである。
彼にとってはここが天王山。この試練を乗り越えることで初めて、彼は能力を使えるのである。
ただ、ここまで壮大に言っておきながら“才能発見”に関しては、今までの例には当てはまらない。
「さて、恒例の能力分析の時間ですよ~」
わくわくした様子で翔太に告げるテイルは目を輝かせていた。その様子から、彼女が翔太にお約束展開を期待しているということが容易に想像できる。
しかし、翔太がいつも彼女の要望通りに動くと思ったら大間違いである。なぜならば能力に関して、彼は既にある程度見当が付いていたからである。
「“才能発見”は能力者を見ることで、特質な才能の名前のみだけ知ることができる能力。そしてこの能力のデメリットは……これを得る際に目にとてつもない痛みが走ることだ!」
その瞬間、高らかに答える翔太の耳に、正解の音が鳴り響いた。
「っしゃあ!」
「え~!? もう~、つまんないですね。前みたいに『ぎゃあぁ~!』っていうリアクションが見たかったのに……」
「ハハハ! 俺がいつもやらかす奴だと思うなよ~?」
「むうぅ~!」
あからさまに残念そうにしているテイルをよそに、翔太はカードに新たなに刻まれたテキストを読んだ。
“才能発見”(Cランク)
能力者を目視すると、その者が持つ特質な才能の名前が映し出される。なお、能力を得る際は能力者の目を改変するため、痛みが伴う。
テキスト内容を見た翔太は再びドヤ顔をした。それは自分の狙いが悉く当たったことで生じる、心の底からの喜びである。
さて、彼がここまで予想を的中させることができたのは、ひとえにこの能力の存在理由を考えたからである。
一言で言えば、“才能発見”は“分析者”と併用することで真価を発揮する能力。この能力を使っても名前しか分からないというのは、本来ならば何の意味もない。しかし“分析者”を持つ能力者に限っては、とても都合の良い代物である。
だからこそ、デメリットで「名前しか分からない」と答えるのは間違い。それこそ、テイルが狙っていた不正解の答えだろう。ならば、それ以外で困る事と考えれば、目にとてつもない痛みが生じたことが最初に思い浮かぶだろう。
このように考えて答えた結果、翔太はノーミスで新たな能力を獲得できたのだ。
ただここで、テキストを読んでいて気になることがあった。それは「特質な才能の名前が映し出される」という部分である。
この部分に関しては、翔太もどういうことなのか全く想像できなかった。
そうして翔太が悩んでいると、彼らの元にある人物が現れた。
「ちょっと、翔太! ひどいじゃない、私だけ置いていくなんて……」
それは一人だけ取り残されたアリスだった。
正確には翔太ではなく、テイルがアリスを置いていったわけなのだが、早く“才能発見”を試したかった翔太は彼女の言葉を否定せずに、何の躊躇いもなく能力を発動させた。
その瞬間、アリスの斜め上方向に吹き出しが現れ、それに“盗賊の初歩”という文字が浮かび上がった。
これこそが「名前が映し出される」ということである。
「おぉ~!」
「えっ!? 急にどうしたの?」
突然、感嘆の声を上げる翔太に驚いたアリスは何かあったのかと周囲を見渡した。
そんな反応を見せる彼女をよそに、翔太は彼女がその吹き出しに関して何も言わないことから、この吹き出しは自分だけが見えているものだと察した。
そんな風に静かに能力を考察し、疑問を解消していく翔太に対して、アリスはもやもやしていた。
それというのも、翔太の事情を知らない彼女にとって今何が起こったのか全く分からないからである。
彼の事情を知る者ならばなんとなく理解できるが、それが分からない彼女は今、彼が声を出すほどの何かが起こったと考えている。しかし周囲を見渡しても何かが起こったような様子はない。
そうなると今度は、彼女自身に何かがあったのではないかと考えるのが自然だろう。
それに加えて、男性が思わず声を出す状況ということを踏まえると、彼女が何を考えているのか想像するに難くはないだろう。
そんな連想を続けた結果、彼女は自分の身なりを確かめ、変なところを探し始めた。
しかし、そもそも彼女にそんなところは最初からないため、いくら探しても存在しないものを見つけるなど不可能だが、翔太が未だにアリスのことを見ているため、彼女は自分では気づかない何かがあるのだと錯覚していたのだ。
「……どこか変なところある?」
「えっ? いや別にないけど……」
「そういう気遣いとかはいいから、はっきり言って!」
ここでアリスは勇気を出して翔太に尋ねた。
しかし彼女の事情を知らない翔太にとっては何の話か皆目見当が付かなかった。だから彼は素直に答えた。
しかしアリスはその答えに納得せず、ものすごい見幕で詰め寄ってくるため、彼女が何か勘違いをしているのではないかと察した翔太は再び正直に答えた。
「いや、本当に何もないから!」
「嘘! じゃあ、何でさっき私のことを凝視していたのよ!?」
「それは……」
ここで翔太はアリスへの回答に言葉を詰まらせた。それは彼が新たに獲得した“才能発見”について話そうとしたからである。
能力についてだけならば問題はないのだが、この能力を獲得した経緯となるとどうしてもテイルが持ってきた劇薬について、つまり神関連の話になってしまうのではないかと彼は考えたからである。
そういった話題は話してはいけないことになっているため、結局翔太には誤魔化すという選択肢しか残っていなかったのだ。
「……内緒」
「正直に言いなさいよ!」
「……だぁ~! もう本当に、アリスは今日も昨日と変わらず美人さんだから、変なところはない!」
「……えっ?」
翔太のその言葉を聞くと、アリスは途端に頬を赤らめて彼から距離を取った。
彼女にとって、翔太が今言ったことが凝視していた理由に聞こえてしまっても無理はないだろう。ましてや、翔太が今まで隠していたということを踏まえれば、なおさら真実味が増してくるというものである。
それに対して、翔太は社交辞令的なノリで言ったため深い意味はなかったのだが、彼女の反応から、ようやく自分が口を滑らしたことを認識し、慌てて言葉を付け足した。
「……あっ、勘違いするなよ! 今の言葉に他意とかはないからな!?」
「そ、そんなこと分かってるわよ!」
明らかに動揺している翔太とアリスに、テイルは「ツンデレ乙」と翔太をからかうのだった。
◇◆◇
翔太の誤爆のせいで気まずい雰囲気が漂うなか、テイルのお腹の音で救われた翔太たちは近くにあった飲食店で軽く食事を取ることにした。
そこでイエローフォレストでの貢献したことの報酬分と言わんばかりにたくさん食べるテイルに、翔太は約束だからと諦めるしかなかった。
そうして翔太が再び財布事情が苦しくなったと嘆いていると、ギルドで言われた約束の時間まで後数分といった具合になっていた。
それに気づいた翔太たちが急いでギルドに戻ると、そこにはこの街の女神様がいた。
「……あっ! あなたたちがイエローフォレストを抜けてきたという冒険者の方々ですよね?」
「はい、そうですけど……メイサさんこそギルドに何か用事でも?」
「あら? 私のことをご存じなのですか?」
「いえ、偶然あなたが除霊しているところを目撃したので……」
「……そうですか。私は、今この街で有名になっている冒険者がどんな方々なのか気になったので会いに来たんですよ」
「そうなんですか。この街で有名な女神様に興味を持っていただけるなんて光栄です」
「私はそんな大層なものではないですよ、むしろ……」
メイサはそこで口を噤んだ。その表情はどこかしょぼくれている。
そんな彼女の様子に、翔太は内心で何かやらかしてしまったのかと動揺していた。しかし翔太としても、どの部分が彼女の気に障ってしまったのか分からないため、迂闊に話題を振ることができなかった。
そうして気まずい空気が流れるなか、ここで翔太は密かに“才能発見”を発動させた。
翔太が反省していないことに関してはとりあえず置いておくとして、彼としても次にメイサに会えるのが果たしていつになるのか分からないため、できるうちに確認したかったのだ。
すると、吹き出しには“祈る者”と記されていた。
除霊の際に見た女神様の姿にぴったりな名前をした特質な才能、というのが翔太の感想である。
翔太がそんなことを考えていると、彼は謎の視線を感じ取った。そこで周囲を見渡してみると、そこには彼を訝しんでいるアリスがいた。
「……怖い顔して、どうしたんだよ?」
「別に~? 男なら、可愛い女の子をまじまじと見ちゃうのは仕方のないことよね?」
「なんか言い方に棘があるような……別にそういう意味で見ていたわけじゃないからな?」
「別に隠さなくてもいいわよ」
「だから違うって!」
絶妙な勘違いをしているアリスに違うと言いたいところだが、翔太はとある事情で真実を話せないため否定することしかできない。
そんな風に翔太が困っていると、翔太とアリスのやりとりを見ていたメイサが優しく微笑んだ。
「ふふ、お二人は仲がよろしいのですね」
「えっ……そうですか? 今まさになぜか理不尽に怒られているんですけど……」
「いえいえ、良いものを見せていただきました」
メイサは翔太を少しからかうようにそう言った。それは翔太に「女神様」と言われたことへの、彼女なりの仕返しだったのかもしれない。
翔太がそんな彼女を不思議そうに見ていると、ここでようやく本来の目的を思い出す。
「あの~、そろそろ運搬の仕事を頼みたいのですが……」
「あっ……すみません」
困ったような表情をしている受付嬢に指摘されてようやく自分たちがここに何をしに来たのかを思い出した翔太は彼女に素直に謝罪した。
そうしてなんとか本題に戻した受付嬢は運搬仕事について説明すると、翔太たちをギルドの倉庫に案内した。
するとそこには、山のように積まれた木箱があった。しかも一箱一箱に大量のポーションが入っているため、それなりの重量となっている。
受付嬢曰く、人手が足りなかったため作業がなかなか進んでいないとのこと。翔太は密かに二度とこの依頼を受けないと心に決めた。
「では、よろしくお願いします」
そんな翔太の考えをよそに、受付嬢は笑顔でそう言うと、そのまま自分の仕事に戻っていった。
そうして、その場に残された翔太たちは諦めたかのように仕事にとりかかろうとした。
するとここで、メイサがある提案を持ちかけてきた。
「私も手伝いましょうか?」
「えっ!? いやそれは流石に悪いですよ。これは俺たちが受けた依頼なんですから」
「いえいえ、私もあなた方と話してみたかったんです。それに二人より三人のほうが早く終わりますから」
「いや、でも……」
「遠慮しないでください」
「メイサさんがそう言ってくれるのなら、私は構わないわよ?」
「アリスがそう言うなら、じゃあ……お願いしてもいいですか?」
「はい!」
中々強情なメイサに、翔太は申し訳なさそうにしながらも彼女の提案を受け入れた。
ちなみに、彼女が「二人より」と言ったのはこの仕事にテイルが参加していないからである。
それというのも翔太たちが街に入った時、彼女は子供の姿だったため周囲の者たちはテイルのことを「小さな子供」と認識していた。その結果、「子供だから」という理由で彼女は運搬の仕事を免除されたのだ。
中身は見た目ほど幼くはないというのだが、彼女は自らを子供だと言い切り、今は翔太たちを見物している。
そういった経緯でテイルが堂々とサボっているなか、翔太たちはメイサを含んだ三人で運搬作業に取り掛かった。
そうは言うものの、翔太たちの仕事は倉庫から数十メートル先で待機させてある馬車に運ぶという単純なもの。だから時間と人手さえあれば、問題なく終わる仕事である。
しかしそんな状況であえて問題を上げるならば、やはり木箱の数である。
翔太たちも最初の方は、多少話をしながら運んでいたのだが、次第に体力の差が出始め、最後には各々のペースで運ぶようになっていた。
そういうわけで、一人で黙々と運んでいた翔太だったのだが、彼もただ作業をこなしている訳ではない。
彼は作業をしている間、ずっと“祈る者”の能力について考えていたのだ。
翔太の考察では、メイサが実際に能力を使っているところを見た限りで、まず最初に思いつくのは回復系の能力だった。
だから翔太は作業中にメイサと話している時に、覚悟を決めて彼女に「あの人の治療は大変でしたね」と鎌をかけてみたのだ。
しかし、それに対して彼女は何のことなのか全く分からないといった反応だった。それにより、翔太は彼女が霊に憑かれた人を「治療」しているわけではないと思った。
ちなみに、翔太が覚悟を決めたのは「鎌をかける」という行動が“分析者”の「誰かに聞いたり、教えてもらったりすると雷を落とされる」という最悪のオプションに該当する可能性があったからである。
しかし雷は落ちてこなかった。このことに加え、翔太の考えが外れていたということを考慮すると、この行動は「自分から聞いたわけでもなければ、相手に言わせたわけではない」というものに該当するのだろう。
このオプションが如何に雑なものなのかよく分かる。はたまた、翔太がオプションのルールの穴を突いたと言うべきか。
それはさておき、回復系ではないことが分かってもそれは雷一回分を回避しただけで、問題を解決したわけではない。結局、振り出しに戻っただけである。
だから翔太はここで発想を変えてみた。
彼は特質な才能の名前から「祈る」、つまり何かを「願う」ものだと考えた。
最初に彼がこう考えなかったのは、メイサが神官だから形式上そうしていると思ったからである。しかし、もしもそうではないのだとしたら、彼女は「何」に祈っていたのか。
まさか、神に祈っていた訳ではないだろう。そう考えた時、翔太はとても嫌そうな顔をした。
しかしそうではないのならば、誰に「願い」を、彼女が誰に自分が「求める」ことを伝えようとしたのか。
それこそ、あの状況では病にかかった男以外考えられないだろう。
ただ、ここで矛盾が生じる。それは、メイサはあの男を助けたにもかかわらず、「治療」はしていないということである。
しかしこの矛盾を解消するのはそう難しいことではない。一言で言えば、メイサは物理的ではなく、精神的に男を癒していたのだ。
そう考えれば、彼女が物理的に生じた怪我を回復させたというニュアンスの「治療」という言葉に反応しなかったのも納得できる。
人を精神的に癒すのに効果があると言って最初に思いつくのは、リラックス効果を高める「何か」だが、彼女が能力を使っていた時、翔太はそれらしいものを感じられなかった。
そこで次に思いついたのが誰かの「言葉」。しかしメイサは除霊中、一言も話していない。
そして、翔太はここで閃いた。
つまり、彼女は口を開かずに言葉を届けたのではないのかということを。
そんなことが可能なのかと考えた翔太だが、彼は今さっき考えたことをまとめると、再び覚悟を決めて導き出した結論を口に出した。
「……“祈る者”は対象にした相手の心に直接言葉を届けることができる能力だ」
その瞬間、頭の中に正解の音が鳴り響いた。
頭を必死に回して考えたことが正解だったということはとても嬉しいことだ。彼も今荷物を手に持っていなければ、ガッツポーズを取っていただろう。
そうして、翔太は実ににこやかな顔で荷物を馬車に乗せ、再び倉庫の方へ向かった。
さて、能力が分かれば、後は能力の弱点を当てるだけである。
しかしメイサの除霊中に、それに該当する行為といえば一つしかなかった。
「弱点は直接相手に触れていないと使えないこと……?」
その瞬間、頭の中で「ピピッ」という音が鳴った。それは今までのような正解の音でもなければ、間違いの音でもない。
ここにきて新たな謎が浮上したため、翔太が「今の音は何だ?」と言おうとすると、突然彼の身体に電気が走った。
「いっ!?」
何の前触れもなく発生した痛みに翔太は驚いたが、それは以前のように倒れるほどの衝撃ではなかったため、なんとか踏みとどまった。しかし痛いのに変わりはない。
すると、何が起こったのか分からずに戸惑っている翔太の元に、どこからかテイルが姿を現した。
「どうですか~? びっくりしました?」
「……今の『ピピッ』って音はなんだ!?」
「今のはクイズ的に言えば『△』、『おしい!』ってやつに分類されるものです」
「……つまり?」
「翔太様の考えは正解ではありませんが、間違っている訳でもないということです」
テイルの説明を一言でまとめるのならば、「当たらずとも遠からず」と言ったところだろう。
しかし、その説明を聞いた翔太には納得できないことがあった。
「……何で半分当たってるのに、電気ショックを受けなきゃいけないんだよ!?」
それは間違っていないのに罰を受けたことである。彼にとってそれはまさに理不尽そのものであり、神の横暴とも言えること。
翔太はそれがどうしても許せなかったのだ。
しかし両者の見解は似て非なるものだった。
「でも、翔太様は半分正解したとおっしゃいましたが、それは半分間違っていたということと同義です」
「……だからなんだよ?」
「間違いには罰を……」
「納得できるかぁ~! 半分は当たってるんだから、『ピピッ』って音だけでいいじゃん!」
「ですが、間違いは間違いですので……」
「ぬぁあああ!!」
平行線をたどる両者に、「妥協」という言葉は存在しない。しかし改善の余地がない以上、翔太はこれからもこのルールの元で旅を続けなければいけない。
ルールはガバガバなのに採点は厳しいという糞みたいなオプションに、翔太は胃に穴が開く思いで倉庫に向かったのだった。
今回はルビが多かったな……




