5.エルネスティア騎士団~
リリスと再会したタクマ。
助けてくれたお礼を言うべきか、はたまた勝手にいなくなったことを怒るべきか。
タクマは葛藤していた。
「ふふふ。おもしろかったわ~。あなたは予想外のことをしてくれるわね。少し興味が沸いてきたわ。」
「おまっ、こっちは死にかけたんだぞ???それにその口ぶりだとどこかで見てたんだな?それならなんでもっと早く助けてくれないんだ!?」
タクマはこみ上げる怒りを抑え切れずリリスに文句を言う。
しかし、リリスからの返答は予想外のものだった。
「それはだめよぉ。だってこれはあなたが私を従えるに相応しいか見極める試練のようなものだもの。」
「し…れん?ってことは…助けてくれたし俺に仕えてくれるってことなのか?」
リリスの言葉を聞き、タクマは期待していた。
確かに少し扱いづらいがリリスは相当な手練れであろう。そんな奴が従えてくれればそれほど心強いことはない。
しかし、リリスからの回答はまたも期待を裏切ってきた。
「あれじゃあだめね。私は弱いやつには仕えないの。」
「なっ!?!?」
言い返えそうにも言い返せない。
タクマが弱いのは事実だし、使い魔とはいえ選ぶ権利はあるだろう。
確かに弱いやつに使えるのでは危険が多い。
再びタクマを絶望が襲った。
「…これからどーすりゃいいんだ…」
しょんぼりと顔を下げるタクマを見てリリスは再び口を開いた。
「人の話は最後まで聞くものよ?私は仕えないと言っただけ。」
タクマにはさっぱり意味が分からない。
「それは…どーいう意味だ??」
「使い魔にとって仕えるっていうのは本当に認めたものにしかしないものなの。私がアルゲインに仕えていたのはあいつの強さをみとめたからよぉ。ふふふ。本当に強かったわぁ。」
「…気になってたんだけどアルゲインって何者なんだ?」
タクマの言葉を聞きリリスは唖然とした。
「…あなた、本当にアルゲインが何者か知らないの??」
タクマは無言で首を縦に振る。
「まさかアルゲインを知らない人がいるなんて驚きね。アルゲインはね、この世界を作った『七賢人』の一人。この世界で最も神に近い存在なんて崇められてる人なのよ?」
「…まじか…あの人がそんなすごい人だったなんて…。でも俺別の世界から来たからこの世界の情報に疎くてさ。」
リリスの話を聞き、スケールの大きさに呆気にとられるタクマ。
しかし、リリスもタクマがサラッと言った「別の世界から来た」と言う言葉に驚いていた。
「……別の世界ってあなた…ほんとに?」
「ああ、あれ?言ってないっけ?」
突然のタクマからの衝撃発言にリリスは少し驚いた表情を見せたが、すぐに「ふふふっ」と笑い出した。
「あなた…本当におもしろいわねぇ。まあ、その話は今度じっくり聞かせてもらうとして、……そんなアルゲインの使い魔であるこの私が、あんな戦いをする人に仕えると思うのぉ?」
「……思いません。」
「でしょう。でもアルゲインに頼まれたい以上、あなたを簡単に見捨てることもできないのよ。」
「…結局どーなるんだ?」
話の意図が分からず困惑するタクマ。
「はぁ、鈍いわねぇ。だからあなたには従えないけどついて行ってあげるって言ってんのよ!!。」
「ほ、ほんとか?」
「ええ、優しい死神リリス様に感謝しなさい。………それにあなたならまた面白いことをしてくれそうだしね。」
こうしてタクマとリリスは仲間に、俗に言う「パーティー」を組むことになった。
リリスとタクマがパーティーを組み、3日が立とうとしていた。
食料である木の実の採取中、植物型の魔物に気付かず危うく食べられそうにもなった。角の生えたウサギ?のような動物を見つけ触ろうとしたら仲間を呼ばれ群れに追い掛け回されたりもした。
リリスはタクマのとる行動一つ一つが面白いのかクスクスと笑いながら付いてきていた。
そんなことをしながらこの3日間森をさまよい続けていた。
「…しっかしこの森ほんとに広いな。3日も歩いてまだ抜け出せないなんて…。」
「まあ仕方ないわよ。この「叡智の森」は「エルネスティア王国」五つ分くらいの広さがあるんだもの。」
「……「叡智の森」?「エルネスティア王国」?…どこだそれ??」
タクマは首をかしげながらそう言う。
「…はぁ。本当に何も知らないのねぇ。「叡智の森」はこの森。賢人アルゲインがいるっていう噂が広まってそんな名前になったの。「エルネスティア王国」はこの森の南東にある大きな王国。…まああんまり気持ちのいい王国ではないけれどね。」
「…どーいうこ………」
リリスの言葉の意図が分からず聞き返そうとした瞬間、タクマが話し終える前に背後から男の声が響いた。
「聞き捨てならねぇ~なぁ。お嬢さん!…今のはエルネスティアを馬鹿にしたととられても文句は言えねーぜぇ??」
突然聞こえたその声に驚き、タクマはすぐさま振り返る。
そこには、いかにも頑丈そうな鎧を着た屈強な男が3人。
全員腰には立派な剣をぶら下げている。
「…はぁ。めんどくさい奴等に聞かれたわね。エルネスティア騎士団。」
振り返ることもなくリリスはそう言い捨てる。
「ヒャーッハッハ。聞いちまったもんはもう取り消せねえな。…まあこんな上玉の嬢ちゃんだ、殺しちまうには惜しい。だから代わりに俺たちと遊んでくれるっていうなら…このことは俺たちの胸にしまっといてやるんだけどなぁ??へっへっへ。」
よくわからないがこれがヤバい状況だということだけはタクマにも理解できた。
ゆっくりとリリスの方に近づいていく男達。
そして男はリリスの腕を掴もうと手を伸ばす。
バシッ…
タクマは反射的に男の手を払いのけた。
驚く男達。リリスも呆気にとられた顔をしている。しかし、一番驚いたのはタクマ自身だろう。
(………何やってんだ俺は~!?!?こんないかにも強そうな奴らに喧嘩売るようなこと…殺されちまうよ…いやでも、さすがに女の子が襲われそうなのに見過ごすのは男として…あぁーーーーどーすりゃいいんだ!?)
悩むタクマをよそに男が怒りに震えた声で、
「てめぇ~俺達がエルネスティア騎士団と知っての行動かぁ????…へっへっへ。いいぜぇ。ならてめぇ~は死ね。」
そう言うと男達は剣を抜きタクマに襲い掛かった。
(終わった~!!今度こそ死ぬ)
タクマは目を閉じ切られる覚悟をした。
「ふふふっ。やっぱりあなたはおもしろいわ~。」
突如聞こえたリリスの声。そして、くるはずの痛みがこない。
タクマは恐る恐る閉じた目を開いた。
すると、目の前には氷漬けになった男が一人。
後ろの二人は何が起こったかわからず唖然としていた。
そんな男達をよそにリリスは巨大な鎌を得意げにクルクルと回し、こう言い放った。
「次は…殺すわよ??」
そのを言葉を聞いた瞬間、男達の顔はみるみる青ざめていき、我先にと逃げ出した。
「忘れものよぉ?」
そう言うとリリスはパチンっと指を鳴らす。すると、氷漬けになっていた男の氷はみるみる溶け出した。
すべての氷が溶けた瞬間、男は意識を取り戻し、腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。
しかし、すぐさま起き上がり、何度も転びそうになりながら逃げ出した。
このときタクマはあることを決心した。これからリリスと旅をするうえでとても大事なことだ。
(リリスは…怒らせないようにしなきゃな……)