4.酸性の巨人~
リリスと出会ってから半日ほどたったであろうか。
タクマとリリスは一言も会話することなく森の中を歩き続けていた。
(…気まずすぎる。何か会話は…いやでも下手に話しかけたらまた鎌を突き付けられるかも…いやしかし…)
こんなことを考えているうちに会話もないまま半日が過ぎていた。
だが、このままではらちが明かない。タクマは意を決してリリスに話しかけようとした。
その振り向きざまに見えたリリスのなんとも不機嫌そうな顔。そして片手に持つ大きな鎌がタクマの話そうという意欲をそぎ落とす。
しかし、タクマは勇気を振り絞り声を発した。
「あ、あの、リリス…さんは、何歳なんですか?」
勇気を振り絞り出した会話がそれかと自分で思うほどくだらない内容だ。
しかし、そこまで女の子との会話スキルが高くないタクマにとってはこれが精一杯だった。
(もっと話す内容を考えてから話しかければよかった~。。。。)
そんな後悔がタクマを襲っていると、追撃をかけるようにリリスの口から、
「女の子にむやみに歳を聞くなんて最低ね。」
っと冷たい言葉が返ってきた。
「……す、すいません。」
リリスから浴びせられた言葉にタクマの心はポッキリと折れてしまい再び無言が続いた。
しかし以外にもその沈黙はすぐに終わった。
突如、森全体に響き渡るような大きな鳴き声の音が聞こえた。
「ギュルァラァァアアアアア!!!」
タクマはすぐさま声の聞こえた方を向く。
「…なんだ?今の…?」
何が何だか分からないタクマをよそにリリスはフッと笑みを浮かべてこう言い放った。
「ふふふ。酸性の巨人アシッド・ギガースかしらね。ちょーどいいわ。坊や。あいつを倒してきなさい。」
不意に言われたその言葉を理解できずに数秒唖然としたが、すぐさま理解し慌ててタクマは言い返した。
「い、いや、倒せって無理だろ!どんな奴かもわからないし、それに俺武器もないし。」
タクマの必死な弁解もリリスは無視して話を続けた。
「あれぐらい倒せないようで私を従えようなんて無理な話よ~。ふふふ。まあ精々張ってちょーだいね。」
そう言い残すとリリスはヒュンっと飛び、気を足場にまた飛びを繰り返しみるみる遠くへ行ってしまった。
残されたタクマは不安と恐怖でいっぱいになっていた。
「…う、嘘だろ。ほんとに置いていきやがった…。俺にどーしろっていうんだ。あんな鳴き声出す奴なんて相当な化け物だろ。俺がどうこうできる奴じゃない。」
タクマはそう言うと恐怖ですくむ足を無理やり動かし鳴き声が聞こえた方とは逆方向に進み始めた。
どれくらい歩いただろう。
辺りは暗くなり始めていた。
あれからリリスは姿を見せていない。
一人で暗く知らない森をさまようタクマの中には徐々に恐怖がこみ上げてきていた。
(…なんで俺がこんな目に。リリスはあれから姿を見せないし、もしかして俺、アルゲインに厄介者を押し付けられたんじゃ…?)
そんなことを思いながら一人で森の中を彷徨っていると、不意に遠くで何かの音が聞こえた。
バキッ…バキバキ…メキメキ…バキッ
徐々に近づいて来る音。
タクマの頭を不安がよぎった。
そして見事にタクマの不安は的中した。
見覚えのある生き物だった。ドロドロの体をした二足歩行の大きな魔物。
時折、ビチャっと音をたて体から液体がしたたり落ちている。
そうこいつこそが酸性の巨人アシッド・ギガース。
そしてまぎれもない。タクマが最初に出会い、恐怖を植え付けられた魔物。
タクマの中の恐怖はもはや爆発寸前だった。
今すぐ逃げ出したい。しかし、足がすくんで動き出せない。
ゆっくりと、しかし着実にタクマのもとに歩み寄る酸性の巨人アシッド・ギガース。
(このままじゃ…また死ぬ)
そう思ったタクマはすくむ足を奮い立たせ、全速力で走り出した。
あの巨体だ。そこまで早くはないだろう。もしかしたら逃げ切れるかも。
そんな期待をしていたタクマだがその期待はすぐに打ち砕かれた。
ビュンっと音を立て、タクマの顔の近くを何かが通った。
その瞬間、(ジュゥゥゥゥゥメキメキメキメキ)っと音を立て前方にある木が倒れ始めた。
何が起こったかは理解できない。
しかし、あいつの攻撃であるのは間違いない。
走りながらあんなのを何回もよけるなんてできるはずない。かといって俺がこんな奴に勝てるはずない。
ここでタクマに二択が迫られた。
このまま逃げてさっきの攻撃を食らって死ぬか、もしくはこの魔物に迎え撃って死ぬかだ。
どちらも死ぬことに変わりはない。
怖い。逃げたい。そんな感情に揺さぶられながらタクマは決断を下した。
「……どーせ一回死んでんだ。選べるんなら次はかっこよく死ぬかな…。」
そうつぶやくと、精一杯の勇気を振り絞りタクマは酸性の巨人アシッド・ギガースと向かい合った。
震える足を抑え、地面に落ちていた木の枝を拾い構える。
勝ち目なんてないのはわかってる。…でも今はやれることをやるしかない。
しばらくの沈黙ののち、先に動き出したのは…タクマだった!?
「くっっっそがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そう叫びながら棒を振り上げ酸性の巨人アシッド・ギガースに突っ込む。
何の策もない。だがこれしかできることはなかった。
そのまま酸性の巨人アシッド・ギガースめがけ思いっきり棒を振りかざす。
「ジュウゥゥゥ」
手ごたえはない。何が起こったのだろう。よく見るとタクマの握りしめていた棒は無残にも溶けていた。
(…ははは。なるほどね体全体が酸でできてる…だから酸性の巨人アシッド・ギガースか。)
(ギュゥルガガガァァァァ)
大きな雄たけびとともに酸性の巨人アシッド・ギガースはタクマめがけて倒れこんできた。
(…………終わったな。)
死を覚悟した……だがその瞬間、かすかに声が聞こえた。
「死の氷アイス・ダスト」
その瞬間だった。酸性の巨人アシッド・ギガースは一瞬で氷漬けになりピクリとも動かなくなった。
呆気にとられるタクマ。すると、後方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「ふふふ。おもしろいわねぇあなた。酸性の巨人アシッド・ギガース相手に棒切れ一本で突っ込むなんて。いいわ~。あなたなら少しは楽しませてくれるかも。」
聞き覚えのある声その声のする方に顔を向けるとそこには、
「リ、リリス!?…さん。」