3.使い魔『死神リリス』~
アルゲインに言われるままタクマは後についていく。
正直タクマは期待していた。
こんな状況で渡したいものがあるなんて王道ファンタジーならすごい武器やらなんやらが貰えるというのが相場だろう。
タクマはそんな期待を胸にアルゲインに続いていった。
小屋のドアを開け、少しひらけた場所に立つアルゲイン。
すると、なにやら魔法陣?のようなもの慣れた手つきで地面に書き始めた。
「……えっと、何してるんですか?」
「ちょっと「召喚陣」をな。……君の世界には魔法はなかったのかい?」
アルゲインから唐突に出た「魔法」という言葉にタクマは目を輝かせた。
「ま、魔法!!やっぱこの世界には魔法があるんですか??」
「ああ、あるとも!…君は魔法が好きなのかい?」
「はい!!魔法なんて憧れですよ!!も、もしかして…俺にも魔法を教えてくれるんですか!???」
期待に胸を膨らませながらアルゲインに問いかける。
「…すまないが、今の私にそれはできないんだ。だがこれから先、君が生きていくうえでこれは役に立つと思うぞ。……………まあ、使い方を間違えなければじゃが……」
アルゲインが最後に何と言ったのかは聞き取れなかった。
再度聞き直そうとタクマが口を開こうとした時、アルゲインの声が先にタクマの耳に届いた。
「よし、完成だ。今から君に託すものは少々扱いが難しい。心してくれ。」
アルゲインの真剣な眼差しにタクマは開きかけた口を閉ざし、首を縦に振った。
「魔法陣」に向かい両手を突き出すアルゲイン。
しばらくの間沈黙が続いた。
そして、再びアルゲインが口を開いた。
「………来るぞ。」
アルゲインの言葉を聞き終えた直後、「魔法陣」は眩く輝きはじめみるみると視界が光に包まれた。
「ま、まぶし!」
あまりの光に腕で目を隠し光を遮るタクマ。
するとその直後、(バチバチバチ)っと何かが弾けるような破裂音が響いた。
恐る恐る腕をどけ、前を見るタクマ。
すると、召喚陣の中心には信じがたい「者」が立っていた。
きれいな顔立ち。それでいて幼さも少し残っている。腰付近まであるだろう白銀のサラサラとした髪。目は日本人のように黒く、しかしなぜか透き通っているようにも感じた。黒く見たこともないきれいなデザインの服に身を包んでいる。そして何より驚いたのは彼女が片手に持っている「物」だ。
身長150前半ほどの彼女は二回り程は大きいだろうかという巨大な大鎌を持っているということだ。
何を言っていいのかわからないタクマは呆気に取られていた。
すると、「少女」は(ふぅー)と息を吐き話し始めた。
「久しぶりね~アルゲイン。何十年ぶりかしら?」
「そうじゃの~ざっと150年ぶりくらいか?」
「あら?もうそんなにたつの?時がたつのは早いわね~。」
目の前で行われている会話の内容にタクマは耳を疑った。
(150年!???いやいやおかしいだろ??…いや、でもこの世界では普通なのか??…ま、まあでも仮にそれが普通だとしてアルゲインはわかる。でもあの子はおかしいだろ!?どう見てもそんな年には見えないぞ!!?)
頭が混乱状態のタクマをよそにアルゲインと少女は話を続ける。
「まあ、そんなことはどうでもいいわ~。それよりもよ。ど~して私を呼び出したのかしら?」
「おお!そうだったな。お前…今日からこの子に従え。」
そう言うと唐突にタクマを指さすアルゲイン。
「………えっ??」
どういう状況なのか理解できない。
しかし、アルゲインは何か突飛押しもないことを言ったのだろう。
少女もポカンと口を開き唖然としていた。
「……な、なにを言うかと思えばなぁ~に?そのくだらない冗談?笑えないわよ?」
「冗談なんかじゃないさ。まあ一つ頼む。」
アルゲインの言葉を聞き終えた少女は突然こちらを睨むと話をつづけた。
「こんな坊やに仕えろっていうの?ありえないわ。いくらアルゲインの頼みとはいえ…」
彼女が話し終える前に再び、アルゲインが口を開いた。
「頼み?何を言っている?これは「命令」だ。」
…………
しばらくの間沈黙が辺りを包む。
何が何だかわからないタクマは彼女の顔を見てみると、彼女の顔はみるみる青ざめて行っていた。
「ほ、本気なのかしら??アルゲイン??」
「ああ。本気じゃよ。おおっと、私はもう行かなくてはならぬ。あとは二人で頼むぞ。」
そう言うとアルゲインはどこかに向かうべく歩き出した。
しかし、すぐに振り返りタクマの方に小走りで歩み寄って耳打ちでこう話した。
「彼女は君が願う「生」とは逆の存在だ。…まあ悪いやつではない。仲良くやってくれ。」
そう言い残すとアルゲインは再び歩き出し森の中へと消えていった。
二人っきりの空間。気まずい空気が流れる。
そんな空気を変えようとタクマは話始めた。
「…えっと…よくわからないけどこれからよろしく…かな?俺はタクマ。」
そう言うとタクマは握手でもしようと手を差し出した。
すると、首元に鎌の刃先が突き付けられた。
あと2センチずれていたら再びお陀仏だったであろう。
「気安くしないでくれるかしら?私はまだあなたに使えるなんてみとめていないわぁ。」
再び場の空気が凍った。
「……まあ、名前くらいは教えてあげるわ。私は『リリス』。死をつかさどるもの。『死神リリス』よ。」
タクマはリリスの言葉を聞き終え、去り際にアルゲインが言っていた言葉を理解した。
(…「生」と逆ってそういうことか…。)