2.アルゲイン~
魔物と遭遇してから半日ほどが過ぎただろうか。
タクマはあの後すぐさま逃げるように魔物とは逆方向へと進み始めた。
行く当てもなくただ周りを警戒しながら進み続ける。
すると、徐々に木が生い茂り始め、タクマは知らぬ間に森の中へと迷い込んでいた。
うっそうと生い茂る木々。周りから何が出てきてもおかしくない、そんな恐怖がタクマを襲う。
しかし、今のタクマには進み続ける以外に道はない。
(…っま、一回死んでるんだ。あとは神様にでも願いながら進み続けるしかないだろ。)
半ば強引な理由で開き直り、自分を奮い立たせながら進み続けた。
すると、木々の隙間から何やら見覚えのない物がチラチラと見えてきた。
「なんだ…あれ?……家…か?」
タクマは警戒しながらも少しづつその建物らしき場所に近づいて行った。
(やっぱり家…いや、小屋か。しっかしオンボロだな。)
小屋の前までたどり着いたタクマはそんなことを思いながら小屋を見つめていた。
確かにその建物は「家」と呼ぶにはいささか小さく、ボロボロな「小屋」と呼ぶのが相応しい建物だった。
「…まあこんな小屋でもありがたいか。ちょっと休ませてもらおう。」
この少しの間に様々な体験をしたタクマは心身ともに疲れ切っていた。
そんなところにオンボロでも壁のある建物だ。タクマにとっては楽園に近いだろう。
タクマはしばらくその小屋で休むことにした。
タクマはゆっくりと小屋の扉を開ける。
そこには、古びた机と埃だらけのベットがあるだけのなんとも寂しいものだった。
「ははっ。まあなんとも小屋らしいな。しかしこの小屋といい家具といい…やっぱりこの世界にも「人間」はいるんだな。安心したよ。。。まあ今後のことを考えるのは後にして今はゆっくりと休ませてもらおう。」
タクマはそんなことをつぶやきながら埃だらけのベットに横になり目を閉じた。
どのぐらい寝ていたのだろう。
タクマはゆっくりと目を覚まし始めた。
「熟睡しちまったな…。ふぁぁぁぁ………んっ?」
完璧に起きたわけでなくかすむ視界の中、タクマの眼に何かの影が映った。
眠い目を擦りタクマはその「影」に目を凝らす。
「……人…か??」
そこには白髪で白い髭を生やした見知らぬ老人が机に座りこちらを見つめていた。
(……気まずい。誰だこの人。もしかしてここはこの人の家だったか?そりゃなおのこと気まずい。いやむしろそれ以前にこの人は安全なのか?いきなり襲い掛かられたりしないか………)
様々な考えがタクマの頭の中をめぐった。
何を言っていいのか分からず慌てるタクマをよそに、老人が口を開いた。
「…客人とは珍しいな。名前を聞いてもいいかな?」
低く落ち着いた口調で話しかけてくる老人。
そんな老人の問いかけを聞き、タクマは少し驚きながらも一呼吸おいて答えた。
「…タクマ…です。あの、勝手に休ませてしまってすいません。すごく疲れてて誰も住んでないと思ったからつい…」
「なぁに、気にすることはない。疲れているのは顔を見ればわかるし、そもそもここも私は住んでいるというわけではない。たまにこの森に用があるときに寄る程度だ。それにしても君は何でこんな人も寄り付かない森に来たんだい?」
老人の問いにタクマは一瞬息を詰まらせた。
違う世界から来て魔物に襲われそうになりましてなんて言っていいものか。いや、それ以前にそう易々と異世界から来たことを話してもいいものなのか。
再びタクマの頭の中は混乱状態に陥った。
しかし、会って数分のこの老人に不思議とタクマは心を許していた。
なぜだかは分からないがこの人になら話してもいいのではないか。いや、話さなければならない。
タクマはそう決心すると今まで起こったことを全て話した。
「…これが今まで起こった出来事です。…信じられないかもしれませんが。」
タクマはすべてを話し、老人の反応を待った。
「……そうか。別の世界から…そりゃ大変だったなぁ。」
「!?…信じてくれるんですか?も、もしかしてこの世界では別の世界からくるなんてそんなに珍しくないことなんですか??」
予想外の老人の反応にタクマは驚きながらも質問を続けた。
「いやいや、別の世界からくるなんて聞いたこともないよ。私が信じたのは君が嘘をついているようには見えなかったから。それだけさ。」
「そうですか…ありがとうございます。話を聞いてもらえてなんだかちょっとスッキリしました。」
「そうかい。それはよかった。それより君はこれからどうするか決まっているのかい?」
老人の問いかけにタクマは固まった。
「そういえば…何も決まってない…。」
「…そうか。私もこれから行かなくてはいけない所があってね。何もしてあげられないんだ。」
申し訳なさそうに話す老人にタクマは慌ててこう返した。
「だ、大丈夫ですよ!!これ以上迷惑はかけれないですし。心配しないでください!!俺なら意地でもこの世界で幸せに生きてやりますよ!!」
精一杯の強がりを言うタクマ。
そんなタクマを見た老人は、しばらく何かを考え、決心したようにこちらを見てこう言った。
「……この先も君は生きていきたいかい?こんな知らない世界でも。」
重くのしかかるようなその言葉。タクマはまっすぐ老人の目を見ると「…はい」と答えた。
その言葉を聞き老人は
「君にだったら託してもいいかもしれないな」
っと呟くと立ち上がりドアの方へと歩き始めた。
「おおっと、そういえば私の自己紹介がまだだったね。私の名は『アルゲイン』。少しついてきてくれるかい?君に渡したいものがあるんだ。」