1、遭遇~
どのくらいの時間がたったのだろう?
(何時間?いや、何日?俺、どーなったんだ…?)
薄っすらと戻る意識の中、タクマは考えていた。
すると、意識が戻ると共に徐々にタクマはある感覚に襲われた。
何か得体のしれない「モノ」が自分の体に入ってくるような感覚。
(なんだこれ…何が起きてんだ??)
自分がどこにいるのかも、自分に何が起こっているのかわかない。
タクマの感情を恐怖が支配し始める。
タクマは恐怖に揺さぶられるまま無理やり体を起こした。
足に力が入らず思うように歩けない。
しかし、必死に壁に寄りかかりながらもゆっくりと歩き始めた。
完全に戻ったわけではなく、朦朧とする意識の中、タクマは必死に歩き続けた。
すると、歩き出してものの10分程でタクマはあることに気付く。
かすむ目を凝らし、遠くにあるものに目を凝らす。
「…光??で…出口か!?!?」
ようやくこの薄気味悪い場所から出れる。
その喜びにタクマは体を奮い立たせ、全力で歩き出した。
そしてようやく出口にたどり着きタクマは暗闇から抜け出した。
しかし、タクマが光の先で目にしたのはあまりにも信じがたい光景だった。
草原の中を駆ける「角の生えたウサギ」大きな音を立てながらゆっくりと歩く「木々」そして、小さく羽の生えた…例えるならそのまんま「妖精」のような生き物。
タクマはその光景を目にした瞬間、あることを確信した。
「まじかよ。現実でそんなことあんのか?でもあの生き物たち…。ここ…異世界じゃね??」
(異世界)
男なら一度は夢見たであろうその世界にきて、タクマは喜びをあらわに……できなかった。
それもそうだろう。
こんな何が何だかわからない世界でどう生き抜けというのか。
食べ物はどうすればいい?もうあのキノコのような目には合いたくない。
もし魔物がいてそいつに襲われたら?どう身を守ればいい。
タクマは不安と恐怖で押しつぶされそうになった。
しかし、このままここでずっといるわけにもいかない。
タクマは勇気を振り絞り一歩、また一歩と足を動かし始めた。
(まずは…なにか食べ物を見つけなきゃ…。あのキノコみたいな目に合うのはたくさんだが、何も食べないわけにもいかない。とりあえず安全そうな食べ物を探さなきゃ。)
しばらくあたりを探し回り、いくつか食べられそうなものを見つけてきた。
まあその全てが安全そうな木からとった木の実なのだが今のタクマにとってはごちそうだった。
木の実を持ち、木と岩の間に隠れ、タクマは木の実を見て「ゴクッ」と喉を鳴らした。
「後はこの木の実が食べても大丈夫なのかどうかだが…確かめる方法は一つだ。。。。食べてみるしか…ないよな…。」
タクマは不安に煽られながらも空腹に負け木の実にかじりついた。
……まるでオレンジのような酸味。それでいて後からイチゴのような甘みが口いっぱいに広がる。
(…うまい。うますぎる!!なんだこれ!?)
あまりのおいしさにものの数分でペロリと全てたいらげてしまった。
あの空腹が嘘のようにタクマのお腹は満たされていた。
しかし、そんな幸せもつかの間だった。
食べることに夢中になっていたタクマは辺りのざわめきに気づいていなかった。
おびえるように遠くに全力で走り出す動物たち。木々たちは動きを止め本物の木のように擬態している。
タクマがその異変に気づいた時にはもう手遅れだった。
木々の間から何か巨大な「生き物」が近づいてきている。
タクマは気づかれないように恐る恐る巨大な「生き物」を見つめた。
まるで溶け出したようなドロドロの体。時折「ビチャッ」と音を立て体についている液体?が地面に落ちる。二本足で立ち、辺りを見渡し、まるで獲物を探しているようだった。
…見つかったら殺される。
直観的にそう悟ったタクマは恐怖に震える体を押えながら息をひそめ、体を縮め、必死に身を隠した。
どのくらいの時間がたったのだろうか。
恐怖からかタクマにはとても長い時間に思えた。
しかし、タクマは恐怖を抑え、再び魔物がいた方向に目を向けた。
「……いない???」
もうそこには魔物の姿はなくあるのは溶けだした魔物の体から出ていた液体?だけだった。
タクマはその場に腰を抜かしたように座り込み、絶望に明け暮れた。
「…あんなのがいるなんて…俺、生きていけんのか?」