序章×都市伝説
【黄昏】
『黄昏』を古くは『たそかれ』と言う。
薄暗くなった夕方は人の顔が見分けにくく、「誰だあれは」という意味で「誰そ彼」と言ったことから、「たそかれ(たそがれ)」は夕暮れ時をさす言葉となった。(語源由来辞典参照)
「ただいま」
「おかえり。朱音」
わたしは陽之朱音、15歳。高校生。
活躍もしていない部活を放棄して直帰した夕方、意気揚々と鞄から一冊の本を探り出した。
『新・都市伝説』。
校内一怪しいと疎まれるオカルト研究会から借り受けた怪しさの権化。やたら分厚い本である。
運動部に所属していながら運動も出来ず。
見た目も地味でデブ。友人も少ない。
「暗い」「要らない」Etc..今日わたしに投げられた言葉はこれだけだ。
最初は軋んで痛みを訴えた心も次第に麻痺して今では我が事ながら傍観主義であるこのわたしも人並みに趣味のひとつも持っていたりする。
それが都市伝説の検証。
なんとも暗い趣味だと自覚すらしているが、これが唯一の趣味なのだから仕方ない。
頁をめくり、目当ての都市伝説を開いて置いた。
『異世界へ行く方法』。
その頁に挟まれていた六芒星の描かれた紙片を取り出せば止まっていた心臓が漸く動き出す。
どくん。どくん。
脈打って、全身に血が巡って体が熱く火照っていく。
ほんの少し紙片を見つめ、仕上げにペン立てから赤ペンを摘まんで滑らせた。
『飽きた』。
そう、飽きたのだ。この世界に。
「来世。来世。」と誰かは言ったが残念ながらわたしは来世に期待を持ってすらいない。
だって、今世も来世も同じ世界軸ならば何も変わらないと理解しているからだ。
ならば違う世界へ、異世界へ思いを馳せても仕方ないとは思わない?
わたしは異世界へ行くのだ。
今世も来世も関係の無い、零からスタートし直して今より素晴らしい世界へ行くのだ。
例えばこれが失敗したとして、わたしは何度でもこの検証を続けるだろうと確信し、薄暗い空を尻目にベッドへダイブした。
願わくば今より愉しい世界がありますように。
祈り、目を閉じる。
母がわたしを呼ぶ声など耳にも入らなかった。
-to be continued-