7、今思えば、そうなん?
「では、行きましょうか。留守番よろしくね」
「いってらっしゃいませ。大賢者さまー」
「大賢者 言うの禁止ね。メンドウ事が近寄ってくるから」
「どの位で戻れそうですか?」
「最低10日は見ておいてね、その間は宿代浮くでしょ♪」
####ポアァーーーンンン###
今回の大攻勢に関する情報を伝える為に、ローレシアさんと クラッカスの二人はシンビジウムという街に転移の魔法で飛んでいった。その街は中立地帯であるため 多くの国に情報提供するには最適らしい。
転移の魔法か・・便利すぎる。輸送費ゼロじゃん。
「ところが それほど良いものでも無いのよねー。普通の魔力では あんな長距離は飛べないのよ。輸送専門の魔法使いさんでも一日一往復が精々らしいわよ」
「なるへそ」
「私達 冒険者にとっては欠かせないスキルだけどね」
狩場や探索地点に向かうには使いづらいが、帰りには到達地点がハッキリしているのと 安全性が確保されているので必ず使うと言っても良いスキルだとか。
ところが俺は魔法が利かないので 最初は弾かれてしまって焦った。不思議とゲートを作った術者と手を繋げば 問題無く利用できると分かって心底安心した。俺が持っている魔力とアクセス出来るため 距離も自由に設定できて喜ばれている。
何時の間にか三人でパーティを組むのが周知の事実となっていた。俺は新人だから有り難い話なんだが、二人はすでにベテランだし迷惑にならないか聞いてみた。
「大歓迎よー。丁度 仲間を増やすつもりだったし」
「それにね、男性が居ると依頼を受けるとき相手が安心するのよ」
「そか、良かった。じゃあ改めて 宜しく先輩」
「うむ、良い良い。ビシバシ鍛えるとしよう。ぷっ」
という訳で、早速また魔物狩りに出かける事にした。
ところが、昨日の討伐でレベルが上がった為か、コカッピーが逃げるようになってしまった。
効率が悪いので他の魔物を狙う事にする。
「このガキ、何てことしやがる!」
「あっちは悪くない」
門に向かっていると屋台の方で騒ぎになっていた。
何時もなら野次馬になる女性陣もプロの冒険者だけあり、
狩りに行く途中は 余計な事に首を突っ込まない。
「ありゃあ、チラッと見たけどエルフの子供みたいね」
「エルフ?。まさかローレシアさんの身内とかじゃ」
「違いますよー。賢者様の子供たちは皆 すでに有名な知識人なんですから、孫さんや ひ孫さんも言うに及ばずなんですよー」
「よく有るのよ、里から出てきたばかりの 世間知らずのエルフが無銭飲食で捕まるケースが。たしか、賢者様の友達もそのパターンで、しかも魔法で兵士を吹っ飛ばして奴隷落ちしたのを助けられたらしいわね」
「里のエルフって そんなにアホなのか?」
「違う違う、お金を使う必要が無くて お金そのものを知らないらしいわ」
ゲームや物語にあるように エルフという種族は この世界でも引き篭もり種族らしい。
最初に出会ったのが ローレシアさんというエルフじゃ無かったら、エルフは世間知らずのアホ、という認定をしてただろうな。まぁ、転移者の俺も世間知らずのアホなのは同じなんだけどな。
グァギィィ
「それっ」
「おおーっ。やるわね」
丁度 森に入って少し歩いた所に オークを一匹見つけたので腕試しに戦ってみた。
レベルが上がった気がしてたので もしかしてと思っていたが、自分でも驚くくらい動きが違っていた。
剣術自体は何とか使える程度だが、セオリー通り足から攻撃して倒し 難なく仕留める事ができた。
簡単に倒したように聞こえるが、このオークという魔物は 意外と大きい。手足も太くてかなりの肉が取れるらしい。太ももがブタの胴体くらい太いと言えば分かりやすいかな。それだけに力もあり 手ごわい相手なのだ。これが、少し強い黒オークと呼ばれる奴になると 防具に使われるほど皮が硬い。危険度は跳ね上がる。
獲物は魔法の袋に入れて このまま持ち帰る。この世界の冒険者の収入は 大半がこの狩りの獲物である。
一攫千金の依頼などは 余程のときに国が出す程度で、そうそう気前の良いスポンサーは居ないのだ。
冒険者ギルドの仕事の多くが、獲物を売り捌くときの公平な仲介役なのである。なにせ、田舎から出てきて、商売なんて縁の無い若者が勝手に売ると 相場を知らずに値切られ 買い叩かれる。
コカッピーは鶏肉、オークが豚肉というふうに憶えておくと分かりやすい。共にベテランの冒険者も安定した獲物として狩って来るので市場でも安く食べられる。
ゴブリンなどは害虫みたいな扱いなので、見つけたら殺すのが社会人の義務みたいになっていて、お金にはならない。
「ん?。何か 助けを呼んでいるね。こっちの方角よ」
「俺は 気が付かなかったぞ。さすが 良い耳してるな ミャウラ」
「へへっ、まあね。でも爆発系の魔法使われると 頭痛が酷くなるから良し悪しなんだけどね。ファニル」
「お陰で得意魔法が使いにくいのですよー」
ミャウラの示す方向に向かっていくと 森を抜け草地になった。しかし、見渡しても それらしき影は無い。
「おかしいわね。確かに聞こえたのに」
「倒れてるのかな?。おおーーい。誰かいるのかー」
「!聞こえた、こっちよ。」
見ると、草地にポッカリと穴が開いていた。声はどうやら其処から聞こえるらしい。
「ひぇーーっ。くしゃーーい」
「確かに臭いな。何だろ・・この穴」
耳と同じで 鼻も敏感なミャウラは、穴から出ている臭いで悲鳴をあげ 逃げてしまった。
肉が腐った臭いが酷いので俺でも逃げたい。
「誰か居るなら早く助けてよー」
「わかった。いまからロープを下ろすから」
「これは・・ゴブリンを落とす為の罠ですねー」
誰が作ったのか知らないが、危ない罠を作るものだ。
後で気が付いたが 近くに注意書きの看板が倒れていた。
本来はそれで直ぐに気が付くらしい。
「ああー・・。やっと出れたよ。助かりました」
「ストップ!。 そのまま近寄らないでくださいねー」
言うなりファニルは魔法で頭上から水を浴びせて 容赦なく洗わせている。
出てきたのは小学生くらいの子供だ。ドロと返り血をあびて 元々の色が分からないほど汚れている。
文句を言いそうな 荒っぽい扱いだが、当の子供も臭いが嫌だったのだろう、喜んでいるようだ。
ゴブリン落しの罠は 深さが3メートルほどだが、中が壷のように成っていて 壁をよじ登って出られない構造になっている。ご丁寧に壁も固めてあって穴を掘って脱出する事もできない。
しかし、何でこんな所に子供が来たんだ?。子供が外に出ないようにするのも 門番の大事な役目のはずだ。
「子供言うな!。あたいは これでも18歳だ」
「えっ。俺より年上なのか?。ていうか女の子だったのか」
「むぅ、助けてくれたからハンマーで殴るのは勘弁してやる。何処から見ても立派なレディでしょうが」
異世界基準は分からん。ややこしく成らないように 余計な口を出さない事にする。相手が女の子なら二人に任せたほうが良いだろう。
彼女?も冒険者らしい。昨日 オーク狙いで来たのは良いけど、偽装された罠に気が付かず落ちた。
中は腐った死体が重なってて、その上に落ちたから堪らない。よく正気を保っていられたものだ、強靭な精神力である。
冒険者の暗黙の決まりとして 遭難している者は出来るだけ救助する。今回はかなり特殊なケースではあるが。
街まで無事に連れてきたのは良いが、すでに宿の期限も切れているので行くところも無く、しかも いまだに強烈に臭うため 宿でも拒否されるだろう。
そんな訳で家主のローレシアさんには悪いが 彼女を連れて帰る事にした。
あの家には風呂が有るからだ。