3、今思えば、初めての遭遇
少し歩くと広場がある。
屋台が立ち並び、どの店からも良い匂いが漂ってくる。
ローレシアに貰ったアイテムポーチ?単なる粗末な布の袋にしか見えないが、中を確認すると 中に入っている物が理解できる。今のところ彼女から貰った物しか入っていないが、確かにお金が入ってる。
たぶん 凄い金額が・・。
当分暮らせるだけ と言ってたけど、一生寝て暮らせそうな気がする。このままニートに成ろうかな。
焦ってギルドに行く必要が無くなったので、屋台の肉串を5本買ってベンチに座って食べる事にした。
周りの景色を楽しみながら のんびり食べていると、目の前に女の子が立っていた。
茶色の髪の毛と瞳を持つ 落ち着いた雰囲気の可愛い少女。見た目は14歳か15歳だけど、ローレシアみたいに年齢不詳なんて有りそうなので思い込みで判断するのは危ない。ゆったりした服装をしている。
彼女がジーッと見つめて来るので 見つめ合ってしまった。何となく居心地悪いので、ごまかす為に聞いてみた。
「腹減ってるのなら 一本たべるか?」
少女は 少し驚いた顔をした後、満面の笑みで肉串を受け取ると 俺の隣に座って食べだした。
お金に困っているようには見えない姿だし 変なやつだ。大き目の肉が刺さっている串なので 一本でも女性なら間に合うと思う。
「あーっ、ファニル。やっぱり此処に来てるし って、あんた とうとう肉串貰っちゃったの?マジ!」
「うん、ミャーちゃん良いでしょ。やっと理想の人が見つかったよ♪」
訳のわからない会話を聞きながら、俺は今来た少女をまじまじと見てしまった。ね、ネコミミだ。
ピクピク動いてるし本物のネコミミ少女だ。すげーーっ、さすが異世界。来て良かった。
髪の毛は赤っぽい茶色、軽鎧を着て 腰に武器を下げている。動きもしなやかだ。
「良かったら君も食べるか?まだ有るぞ」
「!あぇ・・うん、いただこうかしら。悪いわね」
てへっ、とか擬音が付きそうな はにかんだ笑顔で串を受け取って ファニル?と反対側の隣に座って食べだした。この世界の女の子って 皆こんなにフレンドリーなんだろうか?。まあいいけど。
ほのぼのと三人で食事をした。ネコミミの子は ミャウラという名前でファニルとは姉妹らしい。二人とも冒険者をしていて 護衛しながら何かを探しているそうな。そのあたりは言いにくいのか濁していたので、デリカシーが少ない俺でも気を使って聞かないでおく。
俺が冒険者に成りたいと話すと ギルドまで案内してくれる事になった。とはいえ、食べてた場所から近かったので 案内されるほどでも無かったのだが、彼女たちも用があるのだろう。
****************
私はファニル。お姉ちゃんのミャウラと違ってケモミミではない。ご先祖様には偉大な英雄がいる。
その奥さんだった曾婆ちゃんが何度も何度も話してくれた。英雄さんとの出会いは曾婆ちゃんがまだ小さな子供だった時に 公園で肉串をもらった時なんだって。男の人に優しくされてとっても嬉しかったらしい。その後、偶然いっしょに暮らす事になったけど 何時も優しく守られて、ますます好きに成って結婚してもらったんだって。
その話を聞いたお婆ちゃんも、そして お母さんも同じように公園で試してみたけど怒る人ばかりだった。でも、そんな中で優しく話しかけてくれる男の人もいて 仲良くなって結婚したんだって。
だから、私も何度も男の子の前に立ったけど追い払われてしまったわ。男の子が女の子に興味を持つ時間はとっても短くて、それ以外は相手にされないから無理も無いけどね。
生きて行く為に冒険者になった。
お姉ちゃんも一緒だったから思ったほど困らなかったし、ご先祖様譲りの武器は素晴らしく、未熟な私達を助けてくれたわ。私は英雄様譲りの高い魔力が有ったし、お姉ちゃんは素早く動ける体を持ってたから無理をしなければ生活には困らなかった。
「ファニル・・あなた次の街に着いたら、また広場に行くつもりなんでしょ。いいかげん諦めたら」
「お姉ちゃんは夢が無いなぁ。新しい街にはあたらしい男の子が居るじゃない。旨くいったら三人でパーティ組もうよ。そして 良い人だったら三人で結婚しよう」
「ふふっ、そうね。どの道二人だけだと限界が有るし、結婚はともかく 新しい仲間は欲しいわね」
護衛をしながらする話としては不謹慎だけど、二人は警戒を怠ってはいない。右手から襲ってきた黒オークたちを私が魔法で先制すると 残ってフラフラしているのはミャーちゃんが殲滅してくれる。
そして、次の街の広場で見つけてしまった。黒い髪と瞳を持つ男の子で変わった雰囲気をもっていた。
前に立った私に驚いて不思議そうな顔をするけど、けっして怒ったり 嫌ったりバカにしたりしなかった。お互いに見つめ合った後とうとう言われた。
「腹減ってるのなら 一本たべるか?」
今なら分かるわ、曾婆ちゃんが言ってた事が。さり気ない優しさだけど とっても嬉しい。何と言うか言葉の中に守られるような響きがあるのよ。
後から来たお姉ちゃんも無事に仲良くなれて三人で話をしてたら彼 レンジ君も冒険者に成りたいらしい。ますます運命を感じてしまうのは間違いじゃないよね。
**********
冒険者ギルドにきた。いかにも異世界な名前の組織だが、おそらく俺の認識に合わせて分かりやすく翻訳されているから この名前なのだろう。
そういえば、言葉とか文字とか苦労しなくて良いのは心底ありがたい。学校では英語が天敵だった俺としては 言葉が分からなければ詰んでいただろう。
ところで、ギルドの雰囲気だが・・何と言えば良いだろう。テレビで見たヤッさんの事務所みたいに恐ろしい。
考えてみれば荒事を請け負って解決したり、場合によっては殺し合いをする荒くれ者たちを統率している訳だから、受付に可愛い女の子で勤まるはずがない。
受付にはパンチパーマでもかければ 皆が道を開けそうなオッサン達が事務仕事をしている。壁に「任侠」とかの文字が掲げられていたら完璧なのにな。
「レンジくーん。こっちよ、登録するんでしょう」
「お、おぅ」
俺がビビッてキョロキョロしているうちに 少女二人は平気でオッサンの所に近づいていた。うお、このオッサン ほほにごっつい傷跡が有るぞ、ますますパネェ。
「ボウズ、俺ごときに怯えているなら生きていけねぇぞ。今の内に止めておけ。向かってくる強い魔物は言葉なんて通じねぇ、生きるか死ぬか、下手すると生きたまま食われるかだ。覚悟してから登録しろ」
オッサンの言葉は重くきびしく、そして恐ろしいが、そこには確かに思いやりがある。ゲームではない戦いに挑むならそれくらい気持ちを持たなくては続かないだろう。
イメージの湧かない人には想像してもらおう。今日からヤッちゃんの組にペーペーで入って、明日は他のヤクザの事務所に殺し合いをしに行くと言われて出来るか?。
クラスメイトと一緒にヤンキーの集会に殴りこんで 喧嘩しに行くと言われて行くか?。普通は逃げるだろう。
オッサンが言っているのは、それほどの覚悟が有るかと聞いているのだ。正直言えば逃げたい。しかし、ここに来たときのローレシアとバケモノの戦いのように 何かが有れば逃げていても戦いは避けられない。
ここはそんな世界なんだろう。なら、戦う道を選んでみよう。
「登録おねがいします。生き残りたいので戦います」
「ふっ、いい目だ。言葉も丁寧でいい。死ぬなよ」
「あっ、もっと荒々しくした方がいいですか?」
「かまわねぇさ。かの英雄マイチは王侯貴族と会話出来る位、言葉は丁寧だったらしい。言葉の強さが冒険者の強さじゃねぇって事だ。今日も明日も生き残った奴が正解なんだよ」
「さすが、元冒険者のいう事は違いますねー」
ファニルの言葉で雰囲気を壊されたオッちゃんはガックリ脱力していた。何気に度胸も良いし 女の子なのに危ない仕事をしているし、この世界の女性たちは思いのほか逞しいのかも知れない。
いきなり強くは成れないが、
覚悟を決めて俺は冒険者になった。