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16、今思えば、女難の相

「私が領主のククルチア・フルーレク・ミケルティアですわ。こんな子供で驚いたかしら」


領主の館に招かれた二人が応接室らしき部屋に入るとソファーには18歳の少女が座っていた。髪は薄い青が透けるようにかかった銀髪。瞳は空色と アニメに出てくるような配色の一見儚げなイメージの見た目である。しかし、言葉には強い意志が伺えて領主であることをにじませている。


案内をしていた騎士はそのまま領主の後ろの壁際まで下がるが部屋から出る様子は無い。さすがに護衛くらいは置くようだ。



「本当に女の子が領主をしてたんだな。聞いて無かったら確かに驚いて冗談かと思うかも知れない。レンジだ。調べられているようだから細かな紹介はいらないだろ」


「そう、話していたのね。驚く顔が見れなくて残念だわ。そちらの女性だけでも紹介していただけるかしら」


「この子はパートナーになったツツルフル。俺が森で助かったのは この子のおかげだ」


「パートナーですか・・。羨ましいですね、お互いに自由に出会いを見つけられて。どうぞお掛けになってください」


そんな話をしていると メイドさんがお茶をいれて持ってきた。

レンジの腕を掴んでいたツツルフルの手が微妙に震えて、強い視線で見つめて来る。何の話もしないうちから、めんどくさい事になってきたようだ。




「一つ聞いてもいいか?」


「ええ、いいですわ」


「何故、命を狙われている?。陰で悪い事でもしてるのか」


領主の後ろに控えていた執事が身構えた。



「カン違いするなよ。狙ってるのは俺じゃない。そこの毒入りのお茶を仕組んだ奴だ」


領主のククルチアは伸ばしかけた手をビクッと引っ込めた。



「どういう事かしら?」


「俺の相棒が臭いに敏感でね。お茶が部屋に運ばれたときから気が付いていた」


「!。レヨーゼフ」


「かしこまりました」


すぐさま執事の老人が動き出した。お茶を煎れた人物から探るつもりらしい。だが、それは悪手だ。





「おっと。護衛のあんたが何をする気だ?。毒がバレたから自分の手で殺す気だったか?」


騎士の男が動き出すより一瞬早く領主との間に割り込む。

ツツルがあらかじめ教えてくれなかったら、後ろから領主の首は切り落とされていたかもしれない。



「エッ!。その者はここの騎士団長なのよ」


「へー。でも、こいつのポケットの中から毒の臭いがするらしいぜ」


「キサマ、邪魔するかぁ」


「する」


この部屋に入るとき 剣はアイテム袋に入れていたので丸腰だ。

しかし、この男の動きはオークよりキレが無い。

騎士団長と言う割には迫力も無い。

剣を抜く手にも ためらいが有るという感じだ。

攻撃を避けるのは簡単なんだが、下手にかわすと そのまま領主に切りかかるだろう。


予備動作を付けずに相手に一瞬で詰め寄り ジャブをアゴ先へねじ込む。

武器や魔法で命の遣り取りには慣れていても、この手の合理的な動きは予想外だったらしい。ジャブとはいえクリーンヒットした事で男の意識が一瞬飛ぶ。


わき腹にフックを打ち込むとアッサリ崩れ去った。

レベルが上がって 動きが良くなった気がする。この世界でレベルを上げて地球に帰ったら世界チャンピオンに成れるかもしれない。



「その者を素手で倒すとは。流石、大賢者様が見込んだだけはありますわ」


「狙われる事に 心当たりは無いのか?」


「有りますわよ。恐らく父をも殺した極めつけの犯人が。危なかったですが、貴方のお陰でやっと尻尾を掴めそうですわ」


ロープで騎士を縛り上げていると 領主のククルチアは色々と話してくれた。他人に話す事では無いが 誰かに聞いてもらわないと精神的にキツイのかもしれない。





「おい、おっさん。起きろ」


ペシペシ☆☆


騎士を尋問する事にした。こいつが口を割れば証拠が出てくるかも知れない。



「ミミルチア・・・すまない・・」


「寝ぼけて女の名前言うとは余裕だな」


「ぬっ!・・。そうか 失敗したのだったな、もはや言い訳はすまい。殺すが良い」


「何故です。父の代から騎士として仕えてくれた貴方が どうして私を殺そうとするのです」


騎士の態度も潔さも とても主人を裏切るような性格には見えない。だが、そんな人間だからこそ 何か理由が有るとしても簡単に話すとは思えない。



「領主様、捕まえた事の褒美に こいつの処罰を任せてくれるか?」


「処罰ですか?。まぁ、内容に寄りますから必ずとは言えませんが・・・許可しましょう」


「じゃあ、どうするかな」


レンジはワザとらしく騎士の前で悪党みたいに笑って見せる。



「決めたぞ。お前の親族を全員捕まえて、おまえの見ている前で処刑してやろう。ミミルチアとか言ってたな、その子も捕まえてやるよ。領主暗殺をしようとしたんだ、それ位の覚悟は有るだろう」


「「なっ!」」


騎士は勿論、領主まで驚いている。効果は抜群だ。

ツツルフルは何の動揺もしていない。大物だ。



「ミミルチアは何の関係も無い。殺すなら俺だけ殺せば良いだろう。何故 子供まで巻き込むのか」


「ふーん。子供ならますます生かしておけないな。後で復讐とか考えるだろう」


「レンジ殿、ミミルチアというのは その者の娘ですわ。復讐どころか 重い病気で寝込んでいると聞いています」


「ふーん。それなら急いで死ぬ前に処刑しないとね」


「キサマぁ、それでも人間か?」


騎士は目で殺す位の殺気を出し、領主はドン引きしている。

ツツルフルは反応なし。やはり大物だ。



「自分は人を殺そうとしておいて、家族の事に成ると人間を語るなんて 都合の良い男だな、おい」


「うるさい、きさまなどに親の気持ちが分かって堪るか」


「分からない。だからこそ親の前で子供を処刑できるんだ」


騎士の目の前で心底 楽しそうにニターっと笑ってやる。

一度はこんな悪役をやってみたかったのさ。




「私もそのような刑罰は許可したくないのですが・・」


「領主様は優しいな。暗殺者など生きているのを後悔するほど苦しめれば良いのに。領主様が言われるのなら 条件付きで子供は助けてやる」


「・・・何をしろと言うのだ」


「簡単な事だ、今回の暗殺を仕組んだ奴を教えろ。証拠になる物も必要だ。それが揃えられれば罪を全て そいつに押し付ける事ができる。この条件が無理なら、娘はなぶり殺しだ」


ここまで追い込まれて、とうとう騎士は全てを自供した。

娘の病気が とある薬でなくては治らないと言われ、暗殺に成功したらその薬を貰える事に成っていたらしい。その依頼をした者こそ、ククルチアの父方の親戚で唯一の親族とも言える叔父なのだそうだ。



「ふむ。愚かな事を・・。殺害に成功していたら 罪を全て押し付けられて処刑されていたでしょうな」


何時の間にか戻っていた執事は 当然というようにキツイ現実をつきつけていた。それを聞いて 自分の行動の結果に気が付いた騎士はガックリと肩を落とした。



「この男を犯罪奴隷にして 領主様が主人として契約すればいい。少なくとも今後は暗殺など出来ないし、奴隷契約を秘密にしていれば 今まで通り騎士として働いてくれますよ」


「ほほう、レンジ殿は最初から その心算で芝居をされていた訳ですな。なかなかの心理的な作戦でありましたな」


「あんた、何処から聞いてたんだよ。知っててドアの陰から様子を伺っていたわけか」


「先ほどのは芝居だと申されるのですか?」


「まあね。処罰とか嫌だし。めんどくさいだろ」


このゴタゴタに巻き込まれただけでも過重労働だ。色々と精神的に疲れてしまった。


早く帰ってツツルとイチャイチャしたい。そう言えばあの家には大きい風呂が有ったな、2人で一緒に入りたいな。

そんな妄想をしていると、今まで平然としていたツツルフルは急にソワソワしだして顔を赤くしている。

もしかして気持ちが伝わっているのかな?。



「どうです、騎士団長。今まで通り仕えてくれますか?」


「お言葉は嬉しいのですが、娘が死んでは 生きていく気になれない。そんな男では身辺警護など勤まりますまい。あの子に薬を飲ませなければ あと数日の命だろうと医者に言われました」


「難しいですな、娘さんに利くとされている薬は大賢者様の特製品ですからな。領主様といえど手に入れるのは容易ではありません。しかも、今は帰られているのでこの地にはいらっしゃらない」



「ローレシアさんの薬?。ひょっとしてこれか?」


「「「えっ!」」」


「それは間違いなく大賢者様の妙薬。・・そうでしたな、レンジ殿は賢者様に目を掛けられている方。持っていても不思議ではございませんでした」


「レヨーゼフの鑑定で本物なら間違いないですわ。レンジ殿、その薬を譲ってはくれませんか?。勿論お金に換え難いものなのは承知しておりますがお願いいたしますわ」


「たのむ、薬を譲ってくれ。何でもする」


「じゃあコレは領主様に譲る。その後 何に使うかは俺は知らん」


こんなオッサンに感謝されて付き纏われてもウザイだけだし、今更拒否したら一生呪われそうだ。面倒事は領主に丸投げしてしまおう。



「では、騎士リルロイ。我が騎士の証としてこの薬を貴方に授けましょう。是よりは我が忠実なる騎士として貴方の力を使いなさい」


「ははっ。有りがたき幸せにございます。これよりは我が命投げ打ってでも領主様の御心に適うよう勤めていきます」


あのオッサン、リルロイって名前なのか、見た目に反してカワイイ名前だ。

奴隷の話は消えたみたいだが、そんなもの無くても大丈夫だろう。


リルロイは薬を領主専属の医者に託して娘の治療を頼み込むと、燃えるような目をして騎士団を引き連れ犯人を捕まえに行った。


なんか、行く先々でゴタゴタするなぁ。女難の相でも有るのだろうか?。



「レンジ、私のものになりなさい。貴方が必要ですわ」


「おぉ、それは宜しいですなぁ。この方なら伴侶とされても損はありますまい。むしろ領主を譲られて楽にされても良いかと存じます」


女難の相は決定のようだ。




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