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10、今思えば、まろびと来る

飛獣。


温厚で賢く、空を飛べる事から 昔から人のパートナーとして大切にされていた。しかし、身近に居ながら その生態は知られておらず、繁殖の方法も確立されていないため、使用できる個体数は非常に少なかった。


そのため王家や 特殊な立場の者しか所有する事ができず、たまに発見される子供の飛獣は 値段が付けられ無いというのが現状である。


そんな、ローレシアですら知らない謎の領域を 今、レンジは知る事になる。




「あたし達みたいな大きさで 人の言葉まで理解できる知能を持っているのが本来の姿なのさ。ただし、そんなオリジナルの固体は 数えるほどしか存在して無い。それは 飛獣の元祖とも言うべき あたし達も突然この世界に流されてきた固体だからなんだ。そのお陰で レンジの立場がよく理解できるし、旦那だった人間の言う事も理解できたわけだ」


「じゃあ、ツツルフルや他の飛獣は ここで生まれた世代ということか?」


「そうさ、あたしの子はツツルフルだけだし 今後も作る気は無い。でも、オスの連中は 色々と姿を変えて色々な種族と子を作るから 知能の低い者も生まれてくるのさ。あたし達よりも生物としての生命力が弱ければ 相手が何であれ 生まれてくるのは飛獣の姿になるから、種族を増やすだけなら都合が良かったからね」


「じゃあ、ツツルフルの父親は生命力が強かったわけか。いや、羽が有るし 同じくらいだったのかな」


「そうだね。そして、レンジも同じくらい強い生命力を持っている。これから先を生きていけるのは そんな存在じゃ無くてはならないだろう。だから娘のツツルフルを託す。どんな姿であろうと子孫には幸せに繁栄して欲しいからね」


「もう決定事項かよ。娘をそんな事で 知り合ったばかりの男に渡すなんて信じられないぜ」


「ふふん、自慢じゃないが 見る目は確かなんだよ。レンジだって嫌じゃないんだろ。責任を感じて心配する必要は無いよ。一緒に仲良く生きて行くだけの事さ」


確かに、日本的な結婚感で考えてしまうよな。将来の教育とか資金とか、そんなのが調わなければ子供が不幸に成ると思えて、恐ろしくて結婚なんて考えなくなってた。一緒に仲良く生きて行くのが結婚か、良いこと言うぜ。




「レンジ、見せたい所があるんだ、行こうよ」


「お、おぅ」


屈託無く、純粋な性格のツツルフル。彼女が人間の町で暮らしていけるのか心配だ。人間が悪人ばかりでは無くても警戒は必要だし、腹の探りあいも必要な時がある。



「そんな事まで心配してくれてたんだね。うんうん、良い子だ。でも、あの子は ああ見えて賢いし、見る目もある。直ぐに人並み以上に世渡り出きるように成るよ。少しの間だけ見守ってておくれ」


という事らしい。全てを見越した上で俺に託すか。母は強し、だな。



「へーっ。綺麗な所だな」


「へへっ、そうでしょ」


目の前には湖面が広がっている。澄んだ水面には色とりどりの木々が反射している。対岸の崖からは滝が流れ落ち、神秘的で 龍が住んでいると言われれば信じてしまうだろう。足元の草原もバランスよく草の群落が配置され美しい絨毯のように成っている。


俺とツツルフルは 見渡せる場所に座り一緒に風景を楽しんだ。ちなみに、彼女には男物だけど服を着せた。着せるのにも一苦労した。そんな2人の様子を 母親が微笑ましそうに見ていた・・いや、人間の顔だったらニヨニヨと見ていたことだろう。


アイテム袋から 弁当に持ってきたサンドイッチと肉串を出して2人で食べた。ピクニックのメニューとしては変だけど ツツルフルがご機嫌だったので問題は無い。


ツツルフルが結婚を どの程度知っているか疑問だったが、そういう生命として基本的な部分は 知識のコピーがされるらしく、プライベートな出来事は知らなくても 親の経験はデーターとして受け継がれているらしい。人間より高等生物だと思う。


ゆえに、となりに寄り添って座っている彼女は 自然な流れでキスを要求してくる。まずい、流されそうだ。キスに応えながら愛おしさがインフレを起こしてくる。周りには誰もいないシチュエーションですよ。


覚悟を決めようと思っていると、ツツルフルは急に警戒をしているように遠くを見ていた。




急に走り出した彼女を必死に追いかけていくと、水辺に1人の人間が倒れていた。




********




「そうか、あの小僧 もう死んじまったのか」


「縁起でも無い事言ってないで、何とか助けたいんだよー。ギルドで何とかならないの?」


「酷だが、ハッキリ言わせて貰うぞ。無理だ、諦めろ。あいつは もう生きてはいまい。その化け物は恐らく レレンゲクロアっていう魔物だ。恐ろしく強い上に空まで飛ぶから 何基もの弩で攻撃して追い払うのがやっと、っていう相手だ。運が無かったな」


「ううっ・・」


「うええぇーんん、レンジが死んじゃったよぉぉ」


「だーっ。気持ちは分かるが ここで泣くのは勘弁してくれ。家に帰ってから泣いてやんな」


この騒ぎは 色々な諜報機関の者達にも捉えられ、レンジに関心を持っていたスカウトたちを落胆させていた。

そう、今回の出来事で レンジは数多くの者達から注目を集めていたのだ。その1人が 街の領主ククルチアだ。




「そう、ギルドマスターがそう言うなら亡くなったと見るべきですね。残念です」


「確かに状況だけ見ますとそうなりますな」


「あら、レヨーゼフは何か含むところが有りそうですわね。私にも聞かせてくれますか」


「大賢者様が唯一好かれた男性は かの英雄1人です。その賢者様が妙に気に掛けているレンジという冒険者が 同じような資質を持っているとした場合、この程度の困難は乗り越えて 生還されるものと思われますな」


「その口振りでは貴方も相当 その者を買っているようですね。そうですか、同じですか・・楽しみですね」


執事が領主を落胆させないための配慮で言った願望なのかも知れないが、理屈ではない予感がククルチアの心にも湧き起こってくる。それは ある意味 女のカンなのかも知れない。



**********




ポーションのお陰で、瀕死のケガを負っていた男性も見た目だけはスッカリ治っていた。

体力なども失っているので目を覚ましたら 残りのポーションを飲んでもらおう。


口移しで飲ませろ? 嫌だよそんなの。


目を覚ますのを待っている間、今後の事を話し合った。ツツルフルの母親 (ククルクル)は 彼女を人間の街で生活させて 世の中を知ってほしいらしく、本気で俺に嫁がせる気だ。俺が今後 人間の嫁を貰っても仲良くしていれば文句は無いとのこと。


とは言え、この世界では一夫多妻は全く問題が無く、むしろ 出来るものならやって欲しい位に推奨されていた。


結婚自体に全く興味を持たない男性が多く、母性本能から子供を欲しがる女性との間に大きな開きが有るらしい。


恐ろしい事に、娼館と言えば男娼しか居ないのがこの世界だ。働く男奴隷達は女性の娼婦よりも遥かに過酷な立場にいる。金持ちのオバサマたちに無理をしてでも満足させなくては成らないのだから、その悲惨さは押して知るべしと言える。




「しかし、あたしの旦那だったマイチもそうだけど、レンジも相手が普通の人族じゃなくても好きになれるから不思議だね。正体を隠して騙さなくても良いから助かるけどね。他の男達は 同じ人族の女にすら興味が無いって聞いたよ」


「そう言われれば 変かも知れないけど、同じ人でも 男と女なんて旨くいかない方が多いよ。嫌な思いをさせる同族より 心許せる異種族ってのも有りなんじゃないか」


日本で女性に酷い目に遭った男達なんかは 生物じゃない画像にすら惹かれるくらいだし、奴らが この世界に来たら ツツルフルはむしろドストライクとか思われるだろうな。俺ですら良いと思うし。



「俺の仲間たちも 獣人だったりドワーフだったりするから お互い仲良くしてくれたら文句は無いよ」


「ん、いいよ。レンジの友達は 私の友達だよ」



「ううっっ、ここは・・」


どうやらお客さんが目を覚ましたらしい。危ない人間じゃない事を祈ろう。





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