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華々しい宴の側に


或未品さんの〈天秤祭〉コラボ、オクトーバーフェストに添えて。


人様のキャラクターを動かすのが難しく、独白の体になってしまいましたが、よろしければ補足として。




 10月の涼しい風が、酒気を帯びて熱のこもった肌に心地いい。賑やかしいオクトーバーフェストの端で、ナーサリーは一人静かに酒を煽っていた。

 遠くには団体客の座る席が見え、その間を伝統装束に身を包んだ店員らが忙しく歩き回っているが、この舞台端の席からすれば遠いものである。


 代金代わりの演奏は既に終え、今は客の一人としてつまみをかじっている最中。……ついでにもうひとつのつまみとして、周囲に密かに耳を澄ませていた。


 酒の席に一人でいるのを好ましく思わない人間は多いかもしれないが、ナーサリーは言ってしまえば一人遊びが得意な人間だった。

 例えば女性にどぎまぎする若者であったり、鼻の下を伸ばす彼氏を殴るカップルであったり、ひそひそとこんな場所で内緒話をする集団などは格好の的である。

それらの様子を眺めたり、会話を想像したりするのは朝飯前。知り合いであればああ、多分あれはからかわれているんだろうな、とか、あれは祭りの雰囲気にだらけきっているんだろうなぁ、とあれこれ当たりをつけるほど。


 悪趣味と言われてしまえばそれまでだが、なにせ〈冒険者〉というのは一癖も二癖もあるような人間なのだ。物語の登場人物をあれこれ詮索したくなるのと同じほど、ナーサリーの興味を引いてしまうのである。


「……まぁ、それにしても少し空気がひりついているようにも思えるけど」



 料理のバリエーションも人間のバリエーションも多い楽しい酒宴だが、彼は多少の違和感を感じていた。途中に感じたマナの感触にしてもそうである。


 害意は感じなかったので気にせず居座ったのだが、それ以降空気にピリピリとしたものが混じっていることに気が付いた。

 その感触はマナに関係のない人間の放つそれだったが、誰がそこまでの警戒をしていたのかは分かっていない。


 宴の主宰がある意味での有名人であることを差し引いても、そこに意味があるとは思えなかった。なにせこれは宴会である。

 万一〈月光〉の面々が何かしらの勝負を引っかけたとしても、前評判から考えると大体が金銭関係であり、身構えるようなことではないはず……だろう。いくら『八方美人』ならぬ『八方睨み』だとしても。



(まさか、何か隠してるだろうと思って誰かがちょっかい出したとかかな?……嫌だなぁ、藪をつついてコモドオオトカゲが出てきたらどうする気なんだろう)



 好奇心は猫を殺すものである。ナーサリーとて根掘り葉掘り話を聞くのは趣味の内だが、警戒色を剥き出しにした生き物を無防備に触りにいくほど気軽にはなれない。

 軽く話して、かつ周囲の会話を聞いていると余計にそう感じるのだが、ここのギルドは“何かを隠し持っている”と思わせるのが好きなようだ。そういった手合いに首を突っ込むような面倒はさすがに御免被りたい。



(……うん、珍しい。多分彼らとは反りが合わないだろうな。攻撃しあうほどお互い暇じゃないだろうけど、個人の信条の部分に口出しするのはやめた方がよさそうだ)



 内心で生まれた結論に驚きと納得を覚えながら、ソーセージにフォークを突き刺す。


 嫌い、というならまだわからなくはないが、合わない、という帰結は珍しいとナーサリーはひとりごちる。

 シビアな考えの人間は山ほど会ったが、嫌悪の湧かないまま結論に至るというのは前例にない。それが彼らの性質から来るのか、自分の嗜好から来るのか、その両方なのか。最終的な回答は出ないが、深く関わる前にそこに至れて良かったと思う。


 美味い料理を作れる人を憎むのは損だ。そんな現金な思考に密かな笑みを浮かべながら、ソーセージを口に運ぶ。



「やっぱり美味しいよ」



 舌の上に広がる旨みに、顔を綻ばせる。アルコールと舞台から響く歌声のお陰で、彼は静かではあるが随分と上機嫌になっていた。

 小さく呟かれるのは、オクトーバーフェストの冒頭、皆で歌った『乾杯の歌』。



「ピリピリ頭を固めるなんてもったいない。宴は皆で楽しく、笑っていないとね」



 誰に聞き取られるわけでもない言葉は、会場の喧騒に混じって、余韻だけが後に残された。






作中でも書きましたが、ナーサリーと〈月光〉は感情や倫理観などの面で正直相性が悪いです、はい。

お互い喧嘩する気もないでしょうし、憎たらしいとも思いませんが、なんとなく距離がある関係に落ち着くでしょう。


これがキティあたりならまた別になりますが、すべての人間が親しき隣人のようになるっていうのは、それなりに無理があるものなのでしょう。

分かりあわなくとも、ぶつからないという選択肢はある。ちょっと七巻某人らのようなアレコレでした。



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