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  作者: まころん
第1章
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半年前、『黒の大地』ロウダン帝国皇帝グランジウスは、『蒼の大地』リュイファ帝国宮殿にいた。

リュイファ帝国は、ロウダン帝国の西に位置し、『蒼の大地』の国々を従える超大国だ。


大理石の卓を挟んで座するのは、リュイファ帝国皇帝アルフォン。『蒼の民』を表す蒼い髪に蒼玉の瞳を持っている。50代前半、『黒の民』と違い『蒼の民』らしく細身の体に柔和な空気をまとっていた。


「それでは、これにて『蒼の大地』リュイファ帝国と『黒の大地』ロウダン帝国、『善隣友好の議』の締結とさせていただきます」

リュイファ帝国宰相が、高らかに宣言した。

両皇帝は、立ち上がりお互いの手を握り合った。

張り詰めていた空気が和らいだ。


ここまで長かった。

二十六年前、狂ったロウダン帝国先々代皇帝サモンは、暴挙を重ねた。それは、国外にも及びリュイファ帝国へ侵攻した。

戦は、十年に及び両国を疲弊させた。その後、先代皇帝ダヴィーグが、兄である皇帝サモンを討ち取り自国の非を認め、停戦協定を結び、和平へと導いた。

そして、今日、最終的な戦後処理の達成であるリュイファ帝国と友好関係を結ぶ『善隣友好の議』が締結された。


場が落ち着いたのを見計らってリュイファ帝国皇帝アルフォンはいった。

「それでは、グランジィウス皇帝、二人で祝杯をあげるとしようか」

その言葉の意味を悟り、両国の列席者たちは席をはずした。残るのは、お互いの護衛一人だけになり、グランの後ろには、親衛隊長ドモンが立った。


「お願いしたいことがあるんだけど」

アルフォンは、唐突に言った。

これまでの威風を感じさせる口調から、どこか私的なねっとりとした口調になり、皇帝然とした面差しも緩めた。


しかし、この御仁は、油断がならない。煮ても焼いても食えないと先代皇帝の父がぼやいていた。

もっとも父とは、まともに会話らしいものをしたことがなかったので、どちらかと言えば、父の独り言が耳に届いたと言ったところか。

「……どのよう事でしょう。私にできることでしょうか?」

答えは、慎重にならざるを得ない。


「なぁにねぇ、個人的なものだよ。……個人的なね」

「返答次第では、この度の議の締結に影響が?」

「う~ん。それは、どうかなぁ」


表向きは、平等の立場で結ばれた『善隣友好の議』だが、ロウダン帝国は、敗戦国である。

本来ならリュイファ帝国が優位な条件を要求してきてもおかしくはない。

それをしてこなかったということは、その時点で、ロウダン帝国が借りを作ったと言って間違いないだろう。

リュイファ帝国皇帝の個人的なお願いさえも断ることはできない。


「あのねぇ、僕の妹の遺児を捜してほしいんだよね」

「……」

「そう、君の父親と僕の可愛い可愛い妹フィオナの間にできた子」

グランは、息をのんだ。それは、後ろの親衛隊長も同じだった。



ロウダン帝国が、リュイファ帝国に侵攻し戦の火ぶたが切られる五年前、二人は出会った。

ロウダン帝国皇子ダヴィーグ十八歳とリュイファ帝国フィオナ姫十五歳。


フィオナの母は、現皇帝アルフォンとその兄弟の世話係だった。

皇后が若くして病で亡くなり、幼い皇子達の世話をする為に採用された。身分は低かったが、その分勢力に関係がないということで選ばれ、優しく明るい人柄から皇帝、皇子らから慕われた。


皇帝が、フィオナの母に惹かれていくのは、自然の流れだった。

やがて、フィオナが生まれる。

フィオナの母は、皇帝、皇子から皇后につくよう促されるが、身分を理由に断り、城内の離宮でフィオナと二人で暮らした。アルフォン皇子達は、離宮をよく訪れ、妹フィオナをたいそう可愛がった。


そのフィオナに魅せられたのは、ロウダン帝国皇子ダヴィーグだった。

ダヴィーグは、第四皇子という気楽さと豪放磊落な性格から責務の合間に、身分を隠しては各地へ出歩いていた。すでに長兄のサモンが皇帝につき、優秀な次兄のセオルと三兄のジアンが補佐していた。自分に皇帝の座が巡ってくることもないし、着きたいとも思わない。


ダヴィーグは、春の陽ざしのようなフィオナに一目ぼれし、フィオナも奔放なだけでなく信義に厚いダヴィーグに惹きつけられた。


フィオナは、庶子だったため縛られるものも少ない。しいて言えばフィオナを溺愛する皇帝とアルフォン皇子達の口うるささぐらいか。いつしか、フィオナは、ダヴィーグと行動を共にするようになる。


しかし、数年後、両国の間が、きな臭くなるとリュイファ帝国は二人の仲を裂くようにフィオナを国に連れ戻した。

そして、その後、病に伏せ十三年前に亡くなったはずだ。



「フィオナ姫にお子がいたと?」

「そっ。それも父親は、ロウダン帝国先代皇帝ダヴィーグ、そんで生まれた子は、君の兄上様」


さすがのグランも動揺が隠せない。

「しかし、その……フィオナ姫のお子は、リュイファ帝国にいらっしゃるのでは」

「残念でした。おたくんとこに居るんだよね」










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