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その創世の物語は、誰しも知っている物語だった。
遥か太古、この世界は、一面海原しかなかった。
この世界をつかさどる天界の精霊は、それを寂しく思い陸地を創ることにした。
海に手を突っ込み、海底を引っ張り上げ陸地を創った。世界をつかさどる精霊といえどもその作業は容易ではなかった。何度も手を突っ込んでは、陸地を広げやがて大きな大陸ができた。掴んでいた部分は、山となった。出来た皺は、川や谷となり、広がった裾は、平野となった。
もう一つ、南に大きな大陸を作ろうと奮闘したが、力が足りず出来上がったのは、大きな島だった。
その時、掻いた汗が地上に降り注ぎ、鳥や兎などの生き物になった。それを見た精霊は、生き物たちが生きていけるように『豊かな水』と『肥沃な土』と『ふりそそぐ陽』の加護を陸地に与えることにした。
しかし、残った力は、僅かだった。陸地全てに与えることはできない。そこで、精霊は、三つの石『蒼玉』『黒耀』『紅玉』を取り出した。それぞれの石に『水』と『土』と『陽』をなぞらえ精一杯の加護をもたらし3箇所に埋めた。大陸西部の大地には『蒼玉』を、東部の大地には『黒耀』を、大きな島には『紅玉』を。
やがて、加護が世界を巡り、陸地に緑が現れた。
それから沢山の時が流れた。
ある時、精霊のたった一人の子が亡くなった。精霊は、泣いた。悲しく悲しくて、あふれ出た涙の一雫が、天界から地上へ落ちて行った。その雫が、三つ分かれ、大地に降り落ちた。雫は、三つの湖となった。すると、その湖から、精霊の子と同じ姿をした生き物が現れた。
人が生まれた。
『蒼玉』を埋めた大地の湖からは蒼い髪蒼い瞳の人間が、『黒耀石』を埋めた大地の湖からは黒髪黒眼の人間が、『紅玉』を埋めた大地の湖からは赤髪赤眼の人間が生まれた。
更に時がたち、人間は精霊の加護の下、数を増やし、村を作り、町を作った。人々は、精霊への感謝と畏敬の念を込め加護を受けた大地を『蒼の大地』、『黒の大地』、『赤の大地』とよんだ。
そして自分たちを、誇りを胸に『精霊の子にして蒼の民』、『精霊の子にして黒の民』、『精霊の子にして赤の民』と呼んだ。