表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: まころん
第1章
17/70

16

洗濯ものをはずした主人用の馬車は、ズシーヨを加えた三人を乗せ街道を走る。

本当なら、マヒロは、従者用の馬車だが、ゲンセイの配慮で主人用に乗ることになった。

大活躍の『鼻もげ』は、マヒロが、どこからか取り出した湿気を防ぐ油紙に包まれ、革袋に入れられ悪臭も大人しくなった。


そして、旅も3日目を迎えた。


朝、天幕の中でマヒロがセシルの髪を梳く。

今まで、紐で束ねただけで、誰かに梳いてもらうなど母が亡くなって以来だ。

くすぐったくて自分でやりますと言えば、「殿下の御髪はとても美しい」と返された。

そんな事を言ったのは、母ぐらいだ。この髪を長く伸ばしているのも、「セシルの白い髪、大好き」と、母が、いつも言ってくれていたからだ。

しかし、この髪は、決まって災いの元凶だった。


セシルの心を見透かしたようにマヒロが言った。

「殿下の父君である先代皇帝ダヴィーグ様は、16年前即位すると、すぐに10年続いた戦争を停戦に持ち込み、同時に『白の民』の迫害を禁ずる法を制定しました」

そういえば、ゲンセイも同じような事を言っていた。

マヒロは、続ける。

「私は、今年で十九になります。学舎で学ぶ頃は、すでにその法が徹底され教育されていました。

 残念なことに、ズシーヨ様のように、いまだ、『白の民』を差別する者がいるのも事実です。

しかし、色を持つ持たないに関わらず、『白の民』も同じ精霊の子と思う者が、少なくないことも確かです。最近、市街では、『白の民』を見かけることもあると聞きます」


セシルは、黙ってマヒロの話を聞いた。

最後にマヒロは「父君が、殿下を守ろうとしたのですね」と締めくくった。


髪を整えた後は、マヒロが用意した貴族然とした服を着せられ朝食を食べ出発する。

その間、ズシーヨが、「私の準備をしろ」「私が先だ」と騒ぐので、セシルは、自分のことは自分でするからと言ったが、マヒロが許さなかった。

天幕の撤収も、セシルは手伝おうとしたが、今度は、騎士団隊長ゲンセイが許さなかった。


ズシーヨはズシーヨで、初日に、セシルは皇帝の兄だ(ズシーヨ的には不本意だが)と告げた後、皇帝とセシルが、人物なり、体躯なり、いかに似ても似つかないかを力説した。


しかし、弟がいるかもしれないという幸せな余韻に浸っていたセシルは、ズシーヨの言葉を聞いても、違うなら違うで仕方ないとふわふわした気分で聞いていた。


帝都に近づくにつれ、道幅が広くなり町も見かけるようになった。セシルたち一行は、町を通り抜け、町と町の間に設置されている野営場に止まった。

 辺りは、すでに暗く、何組か先客がいるようだが、馬車が所々数台見えるだけで他は何も見えなかった。


野営場には、広い平地が整えられ、真ん中に井戸と東屋があり、そこには竃も幾つか用意されている。

 

天幕が張られる間、セシルとズシーヨは馬車で待機し、マヒロは夕食の準備をしに馬車を降り、その代りゲンセイが乗ってきた。

その時、ゲンセイが、これらの野営場は、現皇帝が整備を進め、それにより交易が進み、また、街道沿いの町を潤したと教えてくれた。


ズシーヨの講釈では、たしか皇帝は、若干十八歳で即位し、五年がたち現在二十三歳だという。

 


 俺、十八の頃って何やってたかな。

 そういえば、森の中で、初めて罠に猪が掛って喜んでいたら、

 逆に追いかけられて、一晩木の上で過ごしたっけ。

 

 それに比べ、皇帝は凄いな。その若さでこんな事業をするんだもんな。

 俺と兄弟とは思えない。やっぱり、ズシーヨさんが正しいと思う。


 ただ、もしそんな立派な弟がいたら、嬉しくて自慢してしまうかもしれない。



しばらくして、天幕と夕食の用意が出来、セシルは騎士たちに囲まれるように馬車から移動した。


天幕の中には卓と二脚の椅子が置かれ、そこに料理が並べられている。

毎回思うのだが、マヒロの作る料理はうまい。セシルも母が亡くなったあと料理をするようになるが、器用とは言えない手は、味を追求するまでにはほど遠かった。


「マヒロさん、美味しいです」

「殿下、ありがとうございます」

そして、

「まずい。このスープは、なんだ」

毎回、ズシーヨが文句を言う。

「ズシーヨ様、召し上がって頂かなくて結構です」

毎回、マヒロが答える。


言葉を口にすれば言葉が返ってくる。自分の向かいに人がいる。

セシルにとって、母を亡くしてから、長らく忘れていた光景だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ