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ぐちゃぐろ魔法使い  作者: しゃら
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1話

 僕ーーエラル・クルマンは、戦を前に剣を研いでいた。

 僕が所属する『帝国』という国は、この大陸のほぼ全てを支配下に置いている。

 そして今から攻撃を仕掛けようとしている国は、この大陸の、帝国が支配していない国の、残り一つだ。

 要するに、その国を征服してしまえば帝国はこの大陸全てを支配できる。ということだ。

 さて、そんなすごい国の軍に所属している僕だけど、だからと言って僕が凄いという訳でもない。

 まず、新米だ。剣の扱い方、弓の扱い方、その他色々戦争に兵士に必要な技術は叩き込まれたけど、実戦はこれが初めてだ。

 そして、最後にもなるだろう。

 先ほども言った通り、今から戦争を仕掛ける国が最後の一国だ。つまり、この戦が終われば、今後一切戦わなくてよくなる。

 もっとも、この大陸以外に侵略をするというのなら話は別だけども、聞く所によると、この大陸以外の大陸はないらしい。他は全て小さな島だ。

 つまり、負ける戦はない、ということで、それは僕が生き残る確率が高くなる、ということでもある。 

 もちろん、今回の戦争も敗北はないだろう。

 何せこちらは、大陸のほとんどを支配している国。対してあちらは、まるで戦いことを放棄したように、大昔から戦をしてこなかった国、らしい。

 まあ、それにしては国の領土を囲む壁が少しーーというかかなり、戦争を想定し過ぎているような気もするけど。まあ、気のせいだろう。

 さて、一応もう一度剣を研いでおくか。念には念を入れよ、って誰かから聞いたような気もするし。

 そんな時。


「よお、久しぶりだな」


 そんな声が後ろから聞えた。最初は、他の誰かに言ったのかと思った。

 だって、その声には聞き覚えなんてなかったし。

 

「おいおい、無視すんなよ」


 ぽんと、僕の肩に手が置かれた。

 振り向くと鬱陶しい前髪が一番に視界に入る。

 とても背が高い男の人だ。……誰だろう?


「あ、ごめん。人違いだったわ」


 何だ、良かった。自慢ではないけど、僕は人に良く間違えられる。

 何でだろう。

 まあ、いいや。人違いなら、この人はすぐにどっかへ行ってくれるだろう。

 と、期待をしていたんだけど、何故かその人は一向にどこにも行く気配が感じられない。

 ……何だろうか、と思っていたら、その人が。


「お前、新米か?」


 と、僕が着ている、支給された傷一つない鎧を見て、そんなことを聞いてきた。

 ちなみに、帝国軍は、新米兵士に一人一人、新品の鎧等ーーいわゆる、戦争に必要なものを支給しているらしい。

 『支給されている』と言っても、別に返さなくてもいい。

 ホント、凄い財力だ。


「へぇ~。緊張してる?」

 

 そんなことを言うその人。……失礼だけど、何だか怪しい。

 だけど、無視する訳にもいかないので、


「ええ、まあ……」


 とだけ答えた。

 するとその人は、ニヤリと笑みを浮かべ。


「なら、これを売ってあげよう!」


 と、懐から指輪のようなものを取り出す。

 怪しさが倍増した。


「……えっと、何なんですか? それ」


 僕の声はきっと訝しげだっただろう。それでもその人は、まるで意に介した様子もなく。


「ん? これ? これはね、幸運の指輪」

 

 と、当たり前みたいに答えた。

 怪しさ爆発だ。


「さて、これを君に銀貨3枚で売ってあげよう!」


 詐欺師だ、この人。というか、こんな簡単な詐欺に引っかかる人がいるとでも思っているのだろうか。


「いや、いいです。遠慮しておきます」


「おいおい、遠慮するなって。かなりお買い得だぜ? 何せ俺は銀貨8枚で買ったんだ。それを半額以下の値段で売ってあげるんだから!」


「どんな人から買ったんです? その指輪?」


「ん? 何か親切で怪しい人から」


 どんな人だ。

 ……まあ、この人は別に人を騙そうだなんて思ってないことは分かった。騙されてるだけで。もしかしたら僕を騙すための演技って可能性もあるけど。


「……悪いですけど、本当に遠慮しておきます」

 

 笑顔が引きつってなかったことを祈る。この人に現実を突きつけるのは酷というものだ。


「そっかー、残念だなー」


 そう言って、彼は指輪を元の場所に戻した。

 僕は話題を変えるため、今度はこっちから質問する。


「あなたの名前は何なんですか? 僕はエラルって言います」


「俺はライト・オールダー。まあよろしくな」


「よろしくお願いします」


と、とりあえず自己紹介を済ませて、そして、僕にとって死活も問題を聞く。


「--あの、他には、何か生き残る方法とかないですか?」


「うーん……、そうだなぁ……、戦争の前に、結婚の約束をするとか?」


 何となくだけど、それは多分死ぬと思う。


「敵を足止めするために、自分だけ残って戦うとか」


 それも死ぬと思う。


「じゃあ、殺人事件が起こったのに、皆と一緒にいないで一人で自分の部屋に戻るとか?」


 それも多分死ぬし、そしてまだ殺人事件は起こってない。


「ふーむ……。まあ、神に祈っておくしかないかなぁ……」


「ですよね」


 最初から期待していなかった僕は、そんな風に適当に相槌を打つ。

 と、そこで。

 何かが爆発したかのような、爆音が轟いた。

 ……え?

 周りを見渡すと、少し離れた陣営が、轟々と燃えているのが見えた。

 パニックが、皆の間に広がる。

 その中の一人が指さしている方向ーー今から攻め込む予定だった城の方を見ると、そこから、僕の体以上はありそうな大きさの火球が、幾つも幾つも、こちらに向かって飛来して来る。

 ……えーっと、これはヤバいな。


「おい! 何もたもたしている、早く逃げるぞ!」


 そんな風にライトさんに片腕を掴まれて、僕は城のある方角から走り出す。

 ドゴォンと、着弾した音が聞こえ、悲鳴があちらこちらから聞こえる。

 そんな物を無視して、僕は走った。

余談ですが、この世界のお金は金貨一枚で1万円、銀貨は1000円、銅貨は十円です

お金の種類は、これから増えるかもしれません

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