ニブルヘイム・アルフィリア 1話
遠い遠い世界のどこか。
あるいはこの世界には存在しない場所なのか。
断崖絶壁の崖にひっそりとたたずみ、そのくせ息を詰まらせるほどの威厳を漂わせるどす黒い城がそこにあった。
その城の上空では黒雲が立ちこめ、時々激しく光る雷鳴がごうごうとうねりをあげている。城へと続く道は細く切り立った崖で、落ちればまず助からないであろう奈落が左右に広がっていた。
城の入り口は使われていないのだろうか、無数の蜘蛛の巣がはっていて、焦げ茶色の門の端に黄緑色の苔を纏っていた。言わずと知れた巨城「ニブルヘイム・アルフィリア」。
詳しい詳細を知る者など誰一人いないが、なぜか噂だけが独り歩きしている。
知ったかぶりをして噂を話す者は、老いも若いも、女も男も話の最後には顔面蒼白となり、噂はこう続いて終わる。
「その巨城を見るな、入るな。魂を取って食われるぞ」
パソコンの中のNCPは口をそろえてそう言う。
何を隠そう巨城はゲームのなかにあったのだ。
このオンラインゲームソフトの名前は「ニブルヘイム・アルフェリア」。
ここ、ジンの酒場は、はじまりの町の中に位置し、おれは夜な夜なきては珍しい報酬のかかったクエスト《依頼》を探していた。
しかし、最近は他プレイヤーによる依頼もめっきり減って、というかアカウント数事態が急激に減りつつある。
NHAは、1998年に発売された「リリパッド・ハウス」という疑似生活型RPG、通称RRHの後継なのだが、RRHでも既に自由度がシステムいっぱいいっぱいで、現実世界でできることでRRHにできないことはないと歌っていた。ーいくつかのバグや規制はあったがー。
2010年に発売したNHAでは、自由度はさらに上がり、物語をしないでほのぼの生活するもよし、結婚して自営業を営むもよし、とリアリティを追求したつくりになっている。
おれは物語や決まりに縛られることなくしたいことをできるこのゲームに出会えた時は発狂したくなったものだ。
もちろんNHA発売前から下準備を整え、発売日の前日から近くのゲーム店で張っていた。
そこまで愛しているゲームが衰退してきている。
キュリオンのせいで。
キュリオンというのは、RRHやNHAを作った会社E-ZISの敵対会社で、キュリオンが半年前に発売したドラゴン・ファンタジーはオンラインゲームの最高峰とまでいわれ、空前の大ヒットを呼び起こした。
オンラインブームの波がきたのはRRHが初めてだが、NHAを経て、ドラゴン・ファンタジーによって、第三の波が押し寄せた。
今までE-ZISがやっぱり一番だな、といっっていたプレイヤーが次々ときびすを返してキュリオンへと転向していった中で、今もなお流れに逆らっているNHAプレイヤーは変わり者なのかもしれない。
さて、NHAは基本的には各町の酒場でクエストを受注してそれを攻略していくことで町が発展しどんどん盛んになっていく。
誰かがクエストをクリアしたら、個人の進み具合は置いといて、町だけは発展していく。同じクエストは何回でも受注することができる(限定クエストというのもあって、それは1アカウントに一回のみ受注可能)ので、やりこみ要素も高い。
おれの名前は柘榴 龍。
NHAゲーム内ではザクロというハンネ(ハンドルネーム)で剣士をしている。
NHAのすごいところはキャラメイクにもある。
数億通りの顔パーツにより、キャラの姿は思いのままであった。
おれは妙なとこで凝り性で、ゲーム内のそれはおれの顔を緻密に再現していた。
もちろん髪型も現実のそれと寸分たがわない。
もちろんまったく違う顔でもなんの問題もない。
むしろそっちのが大部分を占めている。
だがおれは、ゲーム内でおれが生活しているということをよりリアルに感じたかったのだ。
時刻が18時を超えはじめると、ジンの酒場はよりいっそう活気を増す。
「また飲んでんのか?」
ウイスキーを片手にぐだぐだしているおれににやにや話しかけるこいつ。
こいつの名前はジェイク。整った顔立ちにあごひげを生やし、どこか捉えどころのない顔を真紅のつんつん髪が覆っている。
前髪はかきあげていて、右の端だけ前髪が下りている。
腰のあたりには短剣を携えている。
「うるせーな、飲まなきゃやってらんねーよ」
「どっかのクエストいかないか?」
真紅の髪が真紅の眼を覗かせて聞いた。
「わり、今日はソロりたいわ」
おれは髪をぼりぼりかきながら、めんどくさそうに誘いを断った。
この時誘いを断ったことを、おれはこの後果てしなく後悔することになる・・・。
どうもはじめまして。初投稿です。あまり期待せずに長い目で見守ってください(笑)