テスト開けの打ち上げはカラオケ派ですか、ゲーセン派ですか。
テストは捨てることにした。
結局、いつ呼び出されるかなんて妙に身構えてしまい、土日も気が気じゃなかった。現に、土曜日なんて昼と夜の二度も召喚されて大変だった。呼ばれて戻るまで現実世界では一瞬の出来事かもしれないけど、疲労感がやばい。運動なんてあまりしていなかったから身体は重いし、何故か心も平穏じゃなくなる。回復してきた頃にもう一度人殺しとかね。一応勉強はしてみるけどあまり頭には入ってこない。日曜日も虚しく過ぎてしまった。
それに、昨日は2時まで起きていたっていうことも理由の一つだ。一夜漬けなんてものでは決してない。ずっとあの異世界から持ってきた剣を前に呻いていた。
「ガレキの日だからな」
市から配られる『ゴミ捨て手帳』では、刃物は布で厳重に包んでください、と書いてある。フルカラーの包丁の絵付き。ひとまず使い古したバスタオルでくるんでみたわけだけど……。
別に捨てるのは問題がない、と思う。実際は切れ味が抜群で、ずっしりと重い実用品だ。だけど、こんな非現実な武器で人を殺したなどと、この平和な世界の平和な国の住民は思うまい。問題は、こんな怪しい物体を運んでいるところをご近所様には見られたくないことにあった。いくら布にくるんだといっても、形状は剣なんだ。不審者か、重度のオタクか。どちらも好ましくない印象である。
深夜過ぎても酔っ払いのサラリーマンがいたりするし、午前4時になると新聞配達の音がする。狙い目なのは終電もなくなって帰宅者が途絶える午前2時から3時半までの間だ。そういう訳で作戦の開始はピッタリのマルフタマルマル。非常に重たい剣を震える両手で抱えながらゆっくりゴミ捨て場まで移動して、ミッション終了。時、マルフタマルゴ。たかがゴミ捨てに壮大だよねって自分でも思うけど、慎重に越したことはない。そうして脳裏もからさようならだ。
わたしの部屋からあの不吉な物体がなくなって、明日テストだというのにすっかり気分がよくなった。後日、剣が警察に持ち込まれ、誰かが殺されたかもしれないなんて騒動になったことなんて、わたしは知るよしもなかった。
眼鏡を持ち上げて目を擦る。それから、おまじない気分でノートを眺める。休憩時間の10分、そんなわたしに綾香が抱きついてきた。
「泉、さっきのテスト超難しかったよ。問3とかさ〜。全然わかんない」
「わたしもだよ。さっさと諦めた」
頬を膨らませる綾香に尽かさずフォローを入れる。だけどさ、綾香はわたしよりも成績がいいっていうのは知っているんだ。こういう台詞も嫌味にしか聞こえない。今回は、得意な化学も惨敗でした。半分以上が空欄で凹む。
「あ、この問題、春宮くんが出そうだって言ってた」
「どれ」
綾香の細い指先がくねった字を指した。爪も綺麗で透明なマニキュアが塗られている。そして、わたしの後ろを横目でチラリと見る。背後には春宮君がクラスメイトと談笑していた。打算的だな、と思う。テスト時間の合間もアピールなんて、どれだけ余裕があるんだよ。地味なわたしと対称にかわいい綾香。さらに優しく接していますアピール。本当に女って計算高い。
でも、利用しない手はないよね。
「他は?」
「これとか〜。結構捻った問題だから、そのまま出る可能性高いって言ってたよ。文章まる覚えだって」
「すごいね」
「当然だよ。春宮くんが教えてくれたんだから」
そういって、綾香の口から淀みなくテスト予想問題やら解答やらが流れはじめた。たった10分、されど10分。瞬間記憶というのは意外と重宝するものだ。
綾香、春宮君、ありがとう。お陰で英語2はどうにかなりそうだ。




