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「珍しいね、泉が授業サボるなんて」

「そうだね」

「はじめてじゃない?」

 その言葉に小さく頷いた。2時間目が終わって、わたしは一人2-Sクラスを訪れていた。綾香は取り巻きたちと春宮君に駆け寄っていたから問題ない。

「いいかな?」

「当然だよ」

 わたしの友人、望月夕は快く現国のノートを貸し出してくれた。

「ありがとう」

「気にしないでよ」

 それに、頼られるのうれしいし。そう付け足された言葉に思わず笑みが零れる。夕とは中学が一緒で親しくなった。わたしは夕ほど成績が優秀じゃないし、それほど勉強も好きじゃないから一般クラス。夕は親が医者で自身も医者を目指しているから特進クラス。だけど、こうやって友達をやっていけてる。今のクラスの見せかけだけみたいな友達ごっことは違う。

「昨日、何があったの?」

「ん〜」

 脳裏にあのローブ男と化け物が浮かぶ。

「ちょっと面倒ごとがあったんだけど、もう終わったから大丈夫だよ」

 夕はそんなわたしに微笑んだ。

 綾香のような美少女っていう感じではないが、夕もかなりかわいいと思う。黒のさらさらショートヘアで、背だって151センチくらい。どこか落ち着いている雰囲気を漂わせている。わたしが男だったら綾香よりも絶対夕に惚れるんだけどな。

「じゃあ、明日返すね」

「うん」

 軽く手を振って、早々に2-Sから離れた。いくら夕がいるからといっても、やはりわたしもあの空気には慣れない。特進クラスは浮かれてて騒がしい一般クラスとは一線を画していて、どこか物々しい雰囲気がある。まさにここは戦場なのだとでもいうような。

 

 あっけないぐらいの日常だ。普段と違うのは、テスト前特有のそわそわした空気が教室内に流れてるってことだけ。わざわざ先生が告知してくれるテスト出題問題をメモしながら、たまに青空を見ていたらすぐに放課後になった。綾香たちは春宮君と勉強会を行うらしく、形ばかりにわたしを誘ってきたが、丁重に辞退する。「残念」なんて心の篭もっていない言葉を聞いて、わたしは教室を後にした。

 正直、みんなどうしてあんなにパワーがあるかな。勉強会だってきっと春宮君は綾香たちに押しきられた形なんだろう。すでに16にして枯れちゃっている自覚があるわたしとしては、あんなに恋愛に熱心なのが不思議でたまらない。綾香の目はギラついていたし、取り巻きの千早や菜月だっておしゃれにお金を掛けている。

「あんな熱意が少しでもあればなぁ」なんて、この年で言う台詞ではないのは分かっているんだけど。

 築30年を過ぎた二階建てのアパートに到着した。2DK、洋室と和室がそれぞれ1部屋ずつついている一般的な構成だ。冷蔵庫にはメモが張ってあって、母は今日帰宅しないみたいだった。どうせまた男とデートでもしているのだろう。

 両親が離婚したのはわたしが2歳になるかならないかの頃だった。できちゃった婚後、すぐの離婚。計画外の子供を作って、仕方ないから籍入れて、だけどそのお陰で仲がギクシャクして破局。よくある話だ。できちゃった婚なんていうけど、実態はただの中出し婚だし、要は避妊に失敗ってことだし。母もわたしにあまり関心がないが、こうして養ってもらえているだけマシなんだと思う。少なくとも虐待なんてなかったし、ネグレストで飢えるなんてのもなかった。冷蔵庫にくっついている千円がきっと母親の良心なんだろう。

 ぺろり、とメモとお金を剥がす。

「さて、やりますか」

 掃除、洗濯、食事、お風呂、勉強、学生は大変だ。




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