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帝都神獣守護録~花嫁と血筋の鎖  作者: 秋乃ねこ


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EP4

「あ、あの」

「見て分かると思うけど、俺は青龍ね。当麻ちゃんは最近忙しくてね。言い方はすごーくきついけど、根は真面目で優しくてお人よしな」

「青龍、うるさい。とにかく、形だけの夫婦だと覚えておけ。それとお前の身の回りの世話をする八重を付ける。何かあれば八重に言え。八重、頼んだぞ」

「かしこまりました」


 彼女は自分の監視役でもあるんだと、紗月は当麻の声色で理解してしまった。

 当麻は立ち上がり、紗月を振り返ることなく部屋を出ていく。遅れて青龍も立ち上がると、紗月の前にきてしゃがみ込んだ。

 いい匂いがする。お香かな。それにしても神獣をこんなに近くで見たのは初めて。綺麗だけど、怖い。


 体は強張り、紗月の視線はふらふらと彷徨う。


「紗月ちゃんだっけ? ふーん……当麻はいい番を迎えたようだね。いやあ、目出度い、目出度い。じゃあ、またね」


 え? どういうことだろう。番とは伴侶だと言う意味だろうけど、自分みたいな人間がいい伴侶だとは思えない。なぜなら玄武を従える清原の血を引きながら霊力は封印され、浄化の力は使えないのだから。


「では、お部屋にご案内します」

「は、はい!」


 八重の後に付いて行きながら、幾つか廊下の角を曲がる。ひ、広い。どこをどう通ったのか、もう分からない。当麻様と会ったあの部屋に戻る道さえもう分からない。あとで八重さん屋敷について聞いてみるしかない。紗月は少し浮かれていた。


「こちらが奥様のお部屋でございます」

「はい」


 用意された部屋は北の間。縁側は冷え、日差しは正午でも届かない。それでも広さは十分あり、箪笥や化粧道具も用意されている。


「ここが、私の部屋」

「はい。屋敷の最奥になりますが、人がほとんど通らず静かな場所でございます」


 確かに日当たりは悪そうだけど綺麗にされているし、何より部屋にある窓から景色が見られる。清原の家にいた時とは比べ物にならないくらいに好待遇だ。


「いい、お部屋ですね」

「――そう言っていただけると幸いでございます」


 丁寧な言葉遣いではあったが要するに。邪魔者であり、余所者である紗月を九条家の中心に置くつもりはない、ということだ。その程度は、紗月にも理解できる。


「あの、お屋敷のお部屋の場所とか、教えてもらえないでしょうか?」

「その必要はございません。奥様のお食事はこの八重が、三食こちらにお運びいたします。お風呂につきましても、こちらでお呼びをいたします。奥様が出てもいい場所は、この部屋と目の前の庭まででございます」


 八重は表情を崩さず、淡々と決められた言葉を話す式神のように見える。

 信用はされていない。けれど自分に興味を持つ者は誰もおらず、声をかけてくれる人もいない。人と会う機会といえば八重さんくらいのもの。当麻様もこちらに興味がない。その事実に紗月は心の底から胸を撫で下ろす。


「分かりました。ありがとうございます。これから、こんな私ですがよろしくお願いします」


 紗月が笑みを浮かべ挨拶をすると、八重は眉を少しだけ動かしてから「とんでもございません。当麻様の奥様である紗月様のお世話をさせていただき、光栄でございます」と挨拶が返ってきた。思ってない言葉を言わないといけない彼女に、紗月は申し訳ない気分になる。


「先に運び込まれましたお荷物は、既に箪笥に入れさせて頂きました。後で届くお荷物は届き次第、運び込ませていただきます」

「いえ、荷物はこれだけです」


 彼女の顔が少し強張る。清原家から来たのに、荷物が少ないからきっと自分がどんな扱いを受けていたのか、察したのかもしれない。

 紗月は目を伏せ、畳の目だけを見つめる。


 八重さんは無表情なのに結構顔に出る人できっと、多分、悪い人じゃないと思う。大丈夫と紗月は膝の上で組んでいた手に力を入れて握り締める。


「かしこまりました。それでは、もし何か入用、御用がありましたら、こちらの式神をお飛ばしください」


 八重が部屋を出ていくと、本当に部屋の中は静かになった。葉が擦れる音がする。きっと柔らかい風が吹いているのだろう。

 部屋をぐるりと見まわし、裏庭が見える窓に近づいて腰を下ろす。窓の縁に手を置き、外を眺めた。


 窓の外は小さい日本庭園になっている。廊下から見えた庭の桜に比べれば幹も背丈も心許ないが、そこには可愛らしい桜の木があり、けなげに花を咲かせていた。他に紅葉に椿が植えられている。

 四季の風景を楽しめそう。凄く贅沢かもしれない。自然と紗月の頬は緩んだ。


「こんな好待遇でいいのかな」


 紗月は左の鎖骨あたりにそっと両手の手の平を置く。


「――お母さん。こんな私だけど、お嫁さんになってごめんなさい」


 子供の頃に殺してしまった母に、紗月は語りかけた。


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