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放課後、飛べない天使と屋上で。  作者: めしあん


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17   『大丈夫』

 翌朝、9時過ぎごろにのんびり目を覚ました僕は、カーテンを開けて日の光を浴びた。

 夏休み前、ケイがちゃんと陽を浴びたほうがいいぞ、なんて言っていたのが嘘みたいに今年は日焼けをした気がする。


 昨日のように彼女が向かいの家の屋根にいるだろうか、と思ったが、今日はいないみたいだ。

 学校の屋上に行ったらいるだろうか。


 そう思い、朝ご飯を食べて出かける準備をした。

 カレンダーの明日の予定の欄に、始業式、と書いてあって少しげんなりした。

 明日の持ち物の準備とかもしないといけないな。


 そんなことを思いながら外に出た。


 昨日の彼女の発言が頭から離れず、歩いている間ぼんやりと考えていた。

 彼女に未練があるとしたらなんだろう。

 この夏やったことは、彼女にとっては真新しいものばかりだったんじゃないかと思う。

 彼女は、最初のころと少し違うう理由でここに居ると言っていたが、日記を見て思い出したことに関して何かあったのだろうか。

 いじめられていた人のことを恨ましく思い始めた、とか・・・?


 今日は曇り空だったのでいつものように肌を刺す日差しはないが、相変わらず蒸し暑い。

 天気予報では明日の雨の影響で今日は一日中曇りだと言っていた。


 どんよりとした空模様に引っ張られてどんよりとした気持ちになりかけてしまったので、考えるのをやめて深呼吸した。

 彼女が屋上に居たら聞いてみればいい話だ。


 校舎は驚くほど静かで、蝉の声だけが、コンクリートに反響していた。

 今日はあまり学校に人がいないようだった。


 屋上へ続く階段を上るたびに、胸の奥がざわつきはじめる。

 なんとなく、嫌な雰囲気を感じた。


 思った通り、彼女は屋上にいた。

 床に座っていつもいた場所のフェンスにもたれかかり、まだそこに置きっぱなしにされていた足枷をつんつんと指でつついていた。

 なんだかいつもより姿が小さく見えた。


 僕は、一度息を整えてから、彼女に挨拶をした。


 彼女は座ったまま、「おはよう。」と、ふにゃりと笑った。

 いつもの笑顔より少し弱弱しく見えた。

 やはり、彼女も何か思うところがあったらしい。


 昨日ケイが話していたことについて聞いてみた。

 きっと彼女が落ち込んでいるように見えるのも、これが原因なんじゃないかと思った。


「うーん、ちゃんと話しておきたいって言うのが最後の心残りだったんだけど、なかなか話す勇気が出なくって、先延ばしにしちゃってたんだけど、そろそろ言わなきゃだよな~って。


 彼女は立ち上がって伸びをした。

 そして上に伸ばしていた腕をおろしてガッツポーズすると、「よし!」と小さな声で言ってからこちらをまっすぐ見た。

 彼女の赤い瞳がじっとこちらを見ると、いつも、なんだか居心地が悪い。


 彼女は話を始めた。

 奇しくも、彼女と僕の立ち位置は、最初に出会った日と同じだった。


「最初は、シュンがなんだかつまらなそうな顔をしていて、なんで生きてるのに、周りに話しかけられる人もたくさんいるのに、なんであんなにつまらなそうなんだろう、って思ったんだ。」


 意外だった。

 そんなふうに見られていたなんて、考えたこともなかった。

 否定したい気持ちが喉までせり上がるけれど、言葉にはできない。


 彼女はゆっくりと言葉を選ぶように、続ける。


「そういう、気持ちが念になるというか、そういう気持ちを抱くと、たまに私のことが見える人が出てくるんだよね。屋上にいるのもあって、なかなかここまで来る人も、話を聞いてくれる人もいなかったんだけどね。」


 彼女はふふっと笑った。


 この学校で幽霊がいるといった話は聞いたことがないので、本当に偶然が重なったんだろう。


「段々仲良くなっていくうちに、こんなに楽しい日々だったら、もっと生きていたかったなって思うように、なっちゃって・・・」


 風が強く吹いて、彼女の髪が揺れた。

 その一瞬の沈黙が、やけに長く感じられる。



「それで、私はほんとはもうここに居ないはずなのに、ここに居たいって思っちゃった。」


 その言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。

 彼女の「居たい」という気持ちが、どれほど重いものなのか、想像できてしまったから。

 彼女にとっての大切な居場所になれたということが、少しうれしくもあり、悲しくもあった。


 彼女は俯いたまま、肩を震わせる。

 上を向いて、なにかをごまかすかのようにくるっと振り返ったとき、頬に光るものが見えた気がした。


「・・・でもね、決心がついたんだ。もし、来世ってものがあるなら、また一からやってみるのも悪くないのかもって。私に来世があるのかなんてわかんないけど。」


 そう言って、彼女は一歩前に出る。

 屋上のフェンスに手をかける。

 まるで、飛び降りるときみたいに、フェンスの向こう側へ身を乗り出す。


 視界が一気に狭くなった気がして、考えるより先に身体が動いた。

 僕は思わず止めるために彼女の方へ駆け寄った。


 僕のあわただしい足音に気が付いた彼女が、振り向いて、優しく微笑んだ。


 彼女の穏やかな笑顔を見て、僕は動けなくなってしまった。


「もう、大丈夫だよ。」


 そう言うと彼女は真っ白な翼を大きく広げる。


 勢いよく地面を蹴り、ふわりと浮き上がると、風をはらんだ翼が大きな影を作った。






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