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放課後、飛べない天使と屋上で。  作者: めしあん


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16   『冷風』

 そのあとしばらく、遠くに船が通ったり、鳥が飛んだり、雲が流れたり。

 少しずつ変わる景色を二人で眺めて楽しんだ。


 せっかく知らない場所に来たのだし、このあたりを歩いてみようということになった。


 誰も住んでいなさそうな家、しばらく空いていないであろうシャッター。

 暑さのせいかうっそうと繁茂しているツタに覆われて、入り口がどこかさえ分からないような家もあった。


 流石に30分も歩くと暑くなってしまったので、程々にして帰ることにした。


 帰りは逆向きに流れる景色を眺めながら帰る。


 夏休みはもう明日と明後日しか残っていない。

 彼女は、どうするのだろうか。

 気になったのでスマホのメモ帳に『これからどうするの?』と打って聞いてみた。


「これから、かあ…。多分、もうそろそろいかなきゃいけない感じがするんだよね。」


 彼女は困ったように笑った。


「だから、長い間私のわがままに付き合ってくれたお礼に、ここにいられる間はシュンがしたいことをしたいかな。」

『だから、行きたい場所ない?って聞いてくれたの?』

「そう。他に何かしたいことはある?出来る限り付き合うよ。」


 僕はしばらく考えた。

 何かしたいことと言っても、この夏たくさん遊んだだけで十分な気もした。

 よくよく考えたらとても不思議な体験だったな。


『逆にしたいことはないの?やっておきたいこととか。』

「うーん、特にないかなあ。もう十分たくさん楽しんだ気がする。」

『僕も十分楽しかったよ。』

「ほんとに!?それは良かった!」


 彼女が満面の笑みを見せた。


 僕は最近、少しずつお別れに向けて心の準備ができてきた気がしていた。

 そもそも、彼女が死んだのは10年前であったし、出会えただけで奇跡みたいなものなんじゃないかと思うようになっていた。


 電車に揺られている間、出来る限り彼女の姿を覚えておこうと思った。


 最寄りの駅まで着くと、彼女は『行きたいところがあるから!また明日!』と言ってどこかに行ってしまった。


 1人で家につき、一息つく。

 そういえば、ケイにここ最近の状況をまだ話していなかったな、と思い、連絡を取ってみた。

 今までの経緯を説明すると、彼はせっかくだから『最後に一緒に遊ぼう!』と言ってくれた。


 確かに良いかもしれない。この前3人で遊んだ時は騒がしかったけれど楽しかった。

 思い出していると、なんとなくケイも彼女も明るくて溌剌としているところが似ているな、なんて思った。


 彼女も別れ際に、また明日、と言っていたし、明日また声をかけてみよう。



 〜〜〜



 翌朝、目を覚ましてカーテンを開けると、向かいの家の屋根の上に彼女が見えた。

 僕が起きたことに気がついてこちらの窓の方までくると、開けて、とジェスジャーしてきたので、窓を開けて彼女を中に入れる。


「おはよう!今日は何するか決めた?」


 彼女は部屋に入ってくるなり僕に問いかけた。


「ケイと3人で遊ばないかって話してたんだ。良かったらこの前みたいに3人でゲームしない?」


 幸い、夏休みの宿題はもう終わっている。

 …そういえば、ケイはちゃんと宿題をやっているんだろうか。


「いいね。外だと暑いだろうから、どこか屋内がいいかもね。」


 ケイは昼頃に僕の家に来ると言っていたので、それまで部屋の片付けをすることにした。

 遅くに起きたので意外と時間がないかもしれない。


 とはいえ、彼女が遊びに来ることがここ数日多かったのである程度片付いていた。



 そういえば、ケイは暑がりなのでいつもエアコンをガンガンかけるんだった。

 今日もきっとそうだろうから、自分用の毛布を出しておこう。



 〜〜〜



 昼過ぎからケイと彼女と3人で遊んだ。

 以前と変わらず、2人ともいちいちリアクションが大きい。

 2人のリアクションがシンクロした時は面白かった。


 彼女の姿はケイに見えないはずだが、パーティーゲームでリアクションスタンプを彼女が頻繁に送るので、ケイもなんとなく彼女に慣れていったようだった。


「そういえば、昨日の話だと、もうそろそろ成仏?っていうか天国に行くんだろ?成仏できないのってこの世に未練があるからって聞くけど、その子の場合どうなんだ?」


「あー、うーん、どうなんだろ…」


 ケイの言葉への答えを持ち合わせていなかった僕は、彼女の方を見た。

 彼女はちらっとこちらを見てから、うーん、と考え始めた。


「最初…、シュンと出会ったばっかりの頃は、自分のことを知って欲しいとか、一緒に遊んで欲しいとか、そういう気持ちがあったかな…。そもそも、鎖で繋がれてたから上にも下にもいけなかったんだけどね。」


 彼女は少し俯いて、それからまた話を続けた。


「それで、たくさん話をして、最近は、また違う気もする…。でも、そろそろ吹っ切れる気がするんだ。」


 なんとも要領を得ない言い方ではあるが、彼女なりにまだ踏ん切りがついていないことがあるのだろうか。


「なんか、未練みたいなものはそろそろ吹っ切れそうらしい、って言ってる」


「おお!それは良いな。なんか手伝えることがあったらまた言ってくれ。」


 彼女は少し暗い顔をしていたが、ケイの調子を見て少し顔が明るくなった。


「ケイくんにも色々手伝ってもらったんだよね、ありがとう。」


 ケイはなんとなく彼女の言葉を察したのか、僕が伝える前に親指を立ててグッドポーズをしていた。


 その後、夕方ごろまで遊んで、その日は解散になった。


 ケイは別れ際に、「成仏しても元気でな!」と言っていた。

 彼女のことは終始幽霊か何かだと思っているようだった。


 彼女は、今日もまた「ちょっと行きたいところがあるから!」とどこかへ行ってしまった。

 また明日もおそらく来てくれるだろうし、変に止める理由もなかったので、「また明日。」と手を振ると、彼女も振り返してくれた。

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