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放課後、飛べない天使と屋上で。  作者: めしあん


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15   『水光』

 僕が住んでいる場所からだと、堤防から海を眺められる場所があるらしかった。そこまで行くとなると、電車で二時間ほどかかるらしい。

 それでもいいかと彼女に聞くと、「電車で旅するの楽しみ!」と笑顔で言われた。


 というわけで、僕らは今電車に乗っている。


 駅につくまで、彼女は10年で変わった街並みを見て「おお!」「おお~!」と声をあげていた。

 いつも学校の外に出るときはこの調子だったが、駅の方面は彼女がいた位置の屋上からは見えなかったので、今回は特にあちこち見て回っていた。

 外にいるだけで汗が噴き出てくる僕は、エアコンの効いたコンビニやスーパーの前で彼女が満足するのを待つのもしばしばあった。


 改札を通るとき、彼女はふわっと改札を飛び越えて入っていってしまったのでびっくりしてしまった。

 「タダ乗りし放題だ~!」なんて言っていたが、彼女なら翼で飛べばどこへでも行けるんじゃないかと思った。


 昼間だが電車の中は冷房が効いていて涼しい。いつも以上に時間のかかった駅までの道のりの疲れをいやしてくれるような気がした。昼に近い時間なのもあって空いていたので座れるのもありがたい。

 窓のカーテンをおろしても日差しが差し込んできて暑いのはどうにもならないが。

 もう八月も末だというのに日に日に暑くなっているように感じることが多い。


 さすがに電車の中で一人で喋ってるのは変な目で見られるかな、と思い、スマホのメモ帳で会話することにした。

 今まで人通りの少ないところに行くことが多かったので、イヤホンをして通話しているふりをしていたが、さすがに電車ではできないかなと思った。



 しばらく電車に揺られていると、段々と窓の外の景色が変わってくる。

 見慣れた近所の街の景色から、見慣れない景色になる。それにつれて建物が少なくなっていく。

 乗っている人も心なしか少なくなっていく。最終的には同じ車両には僕ら以外に1,2人ほどになった。

 電車が少しカーブに差し掛かると、車体が傾いて空いている電車から見える景色が斜めになるので少し面白かった。


 電車の進行方角がかわると日が差し込む向きが変わって、最初は日陰に座っていたはずなのに、いつの間にか日向になってしまって途中で席を移動した。

 日が差し込むと干した布団のような匂いがして嫌ではなかったが、さすがに暑すぎた。


 そうやってメモ帳で彼女と会話したり、景色を楽しんでいるとあっという間に二時間がたっていた。

 こうやって遠出するのも悪くないな、と思った。それとも、一人だとまた違うのだろうか。


 彼女は周りから見えないのをいいことに人の少ない電車の車両を端から端まで走ってみたり、逆に僕には姿が見えるからと、窓の外を眺めるのを翼でさえぎったり、好き放題していた。

 彼女が物に触れたり、電車に乗れたりしているのはどういう原理なのかわからないが、まあできているからできるんだろう。

 でもなんとなく彼女の元気な姿を見ていると、こちらまで元気になる気がした。


 次第に海が見え始める。

 夏の強い日差しに照らされた海面がキラキラと光って、電車の中の壁も心なしかその反射光に照らされていた。

 彼女は海を実際に見るのは久しぶりらしく、建物や茂みで隠れた海が再び顔を出すたびに「海だ!」と言っていた。


 電車が止まり、ドアが開くたびに蒸し暑さと共に少し潮のにおいが混ざる。


 目的の駅に着き、降りると自分が住んでいる場所とは違う空気が出迎えてくれた。

 スマホの地図を頼りに、海岸まで歩いていくにつれ風が強くなっていく。

 涼しいわけではなく、湿気を多くはらんでいて少し息苦しい。


 彼女は時折少し高く飛んで海の方を見ては、少しずつ近づいてくる海岸に早く行こうと僕を急かした。

 そのせいで、かなり早足で慣れない道を進んだものだから、堤防のあたりに到着するころには息切れしていた。


「おおー!一面海しかない!すごい!」

「そうだね、ほんとに海しか見えないや。」


 堤防に座り込んで、道中にあった自販機で買った冷たいお茶を飲む。

 日が当たっていたせいで堤防はかなり熱いが座れないほどではない。

 お茶の冷たさが体に染み渡る。


「そういえば、なんで海に行きたいと思ったの?」


 彼女が思い出したかのように聞いた。


「夏と言えば、海ってイメージがあったからかな・・・?特に海に来て何かしたいと思ったわけじゃないんだけど。」

「ふーん。私はこういう景色がいい場所に来るときはだいたい絵を描く時だったなあ。シュンは絵はかかないの?」

「僕は絵は苦手だから・・・。」


 彼女が生きていたらまたこんな場所で絵をかいていたんだろうか。

 彼女は、うーん、と少し考えてから言った。


「あ、じゃあ写真撮っときなよ!スマホで撮れるんでしょ、写真!」

「あー、たしかに。」


 写真を撮るくらいなら簡単だ。

 画面をオフにして横に置いていたせいで黒い画面が熱くなってしまったらしく、スマホを手に取るときに少し驚いてしまった。

 写真はあまり撮らない性格だったが、こうやって残しておくのも悪くないかもしれない。


 カメラを向けると、青い空と、反射する水面の光がより一層輝きを増している気がした。

 僕の写真フォルダに、今日の日付と晴れた海の写真が追加された。




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― 新着の感想 ―
久々の新作ラッシュで感動が止まらん!! 1話から見直してこよ
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