14 『反射』
僕らはそのあと、しばらく流れていく雲を眺めていた。
「私ね、夏にこうやって、太陽の下で遊ぶの、ずっと憧れてたんだ。」
彼女は、日の光を遮るように手を伸ばした。
「鬼ごっことか、かくれんぼとか、あんまりちゃんとやったことなかったからさ。こうやって長時間日光を浴びるのも、昔はできなかったんだ。」
真っ白な髪を耳にかけながら彼女は続ける。
「だから、ここで長い時間を過ごしたけど、空を眺めたり、街が変わっていく様子を遠目に見たり、校庭の生徒たちを眺めたり、結構楽しかった。・・・でも、今年君が来て、ようやく満足できた気がするんだ。」
彼女が立ち上がって僕の方を見た。
「ねえ、ここに来たのはたまたま屋上に私の羽が見えたからって言ったよね?」
「うん、そうだね。」
「じゃあ、もうちょっとだけここで遊んでから行こうかな。」
「・・・そっか。」
行く、というのは本当にここからいなくなるということ、なのだろう。
「そんなにしんみりしてたらもったいないよ?ね、せっかくどこにでも行けるようになったんだから、どっか遊びに行こうよ!どっか行きたいところない?私はカラオケとか、遊園地とか行きたいけど・・・うーん、さすがに周りの人から見えないのにジェットコースターとかには乗れないよなぁ・・・・」
思わず目線が下がってしまっていた僕に、彼女は嬉々とした様子で行きたい場所を連ねた。
「・・・確かに、ジェットコースターは乗れないかもね。カラオケとかならいいかも。」
「お!じゃあ早速行ってみよう!」
そういうと、彼女は僕の手をつかんでぱしゃぱしゃと水たまりの上を走り始めた。僕も手を引かれるままに彼女に続く。彼女の背中の白が日の光を反射してとてもまぶしかった。
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そのあと、カラオケに行ったり、ゲーセンに行ったりした。僕はあまり歌が得意じゃないので、ほとんど彼女が歌っていた。昔の曲が多かったが、中には屋上でbgmとして流していた曲もあった。
ゲーセンでは平日の昼間ということもあってあまり人が多く無くて助かった。
特にクラスメイトと会うこともなく、僕が彼女と話すことを怪しまれることもなく楽しむことができた。どのアーケードも彼女にとっては目新しいらしく、あれもこれもと手を付けるので、危うくお小遣いを使い果たすところだった。
夕方になって、そろそろ帰ろうか、という時間になると、彼女はまた僕の家までついてくると言い始めた。断る理由もないので、前と同じように彼女を僕の部屋へ上げた。
こういう時は、彼女が家族に見えなくてよかったなと思った。この日の夕飯はカレーライスだったのだが、彼女は後ろからちょこんとカレーライスに指を付けて食べていた。
家族と一緒に食べていたので、さすがにその場で何かを言うことができなくて、彼女の方をこっそりにらみつけると、いたずらっぽい笑みを浮かべながら人差し指を立てて「しーっ!」と唇に当てていた。
以前、彼女は食事が必要ないと言っていたが、なにかを食べると味は感じるらしく、時折お菓子を食べたりしている。
夜になると、さすがにベットで寝るのは申し訳ないから、と彼女は僕から毛布を奪いとって椅子に座って譲らなかったので、お言葉に甘えてベットで眠ることにした。彼女は器用に椅子の上で膝を抱いて丸くなって毛布にくるまっていた。
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翌朝、目を覚ますと彼女はもう起きていたようで、椅子の上には毛布がたたんでおいてあった。こういうところは律儀なんだな、と思いながら、彼女の姿を探すと、窓の外から顔がのぞいた。
「あ、おはよう。ちょっと先に目が覚めたからお散歩してた!」
そういいながら彼女は窓から部屋に入ってきた。
昨日まで背中の羽は飾りか何かだと思っていたので、実際に羽ばたいているところを見ると迫力がある。
「・・・おはよう。その羽、飛べたんだ。」
「ね!私もびっくりした。なんとなーくこんな感じかなって思いながら動かしてみたら、意外とバサバサ風が起きてさ。試しに窓から飛んでみたら、飛べた!」
へへん、と自慢そうに彼女はガッツポーズを決めた。
彼女につられて僕もふふっと笑ってしまった。
窓から入ってくる風が蒸し暑いので起き上がって窓を閉めた。朝とはいえ、今の季節はとても耐えがたい暑さだ。
窓を閉めるとエアコンの風が部屋を冷やしてくれて心地いい。
「今日はどこか行きたい場所とかある?」
「うーん、シュンは行きたいところとかないの?」
「行きたい場所、かぁ・・・」
そもそも彼女と出会っていなければ夏休み中家に引きこもっていようと思っていたくらいだ。行きたい場所はパッと浮かばない。
「そう、だなぁ・・・夏だし、海とか?」
「海!いいね!行ってみたい!」
「っていっても、ここから海に行くってなるとどこが近いんだろう。」
そう言って、僕はスマホを開いた。
日付は夏休みが終わるまであと三日だった。
彼女がベットのふちに座った僕の隣に座って、画面をのぞき込んだ。




